第4話
「これはどこに置けば?」
「あぁ・・それはこっちに置いて」
(本当に
笑顔でお客の注文をとり、女性客からは「かっこいい」とヒソヒソ噂をされている。
やはりイケメンは、ファミレスでも注目の的だ。
20時半を過ぎると、お客の入りも落ち着いてくる。
ぼんやりとホールを見ていると、「
「え?」
「俺らの高校ってアルバイト禁止だから、どうしてかなって思って」
「あぁ・・・ちょっと家庭の事情で」
何かを察したのかそれ以上は聞いてこず、その後はひたすらに食べ終わった客の片づけなどをしてアルバイトを終えた。
「今日もお疲れ様」
「お疲れ様です」
店長に挨拶をして一歩外に出る。
もう辺りは真っ暗だ。
少し中心地から離れた住宅街なので、この時間になると人があまり歩いていない。
(さっさと帰ろう)
「・・・お疲れ様」
「駅まで行くよね?」
「・・・いや、歩き」
「え?!ここから結構あるんじゃないの?」
確かに遠い。
徒歩で40分ほどかかるが、歩けない距離でもない。
「電車代もったいないし、歩けない距離じゃないから」
「そっか。じゃあ送るよ」
「え?」
「家の近くまで送るよ。こんな遅い時間に一人で帰るのは危ないでしょ」
ニコッと亮悟は笑った。
この真っ暗だというのにここだけ光が当たったように明るく輝いて見える。
暖かい風が吹き、花が咲き乱れているようにすら感じた。
「・・・いや、申し訳ないからいいよ」
胸のドキドキを隠しつつ、美紀は歩き出した。
「そういうわけにはいかないよ。気にしなくていいからさ、俺らクラスメイトで隣の席の仲じゃん」
どんな仲だよとは思ったが、絶対送るという感じだったので、美紀はありがたく送ってもらうことにした。
「・・・あのさ、藤崎くんはどうしてアルバイトを・・?」
無言で歩くのも気まずいので、気になっていた質問を投げかけてみた。
「あぁ、俺はギターがほしくてさ。ギターが好きで1本持ってるんだけど、もう1本どうしてもほしいのがあって」
「ギター弾けるんだ」
「うん。バンドやってるんだよね」
イケメンでバンドとかモテ要素しかない。
私とは住む世界がまるで違う。
なんだか悲しい気持ちになるが、「すごいね」と素直に言った。
「そんなことないよ、好きなことをやってるだけだから」
亮悟はこちらの気持ちにも気づかず、褒められて嬉しそうにニコニコしている。
「橋本さんは何か好きなこととかある?」
ネット配信―
なんて言えない。
美紀は「本が好きかな」と無難に返答した。
本当は本がめちゃくちゃ好きなわけではない。
休み時間一人で過ごす理由が欲しくて読んでいるだけだ。
そんなことに気づかず、「へぇーそうなんだ。どんな本を読むの?」と亮悟は興味津々といった顔で聞いてきた。
「色々だよ。ミステリーも読むし、エッセイも読むし」
「恋愛小説も?」
「・・・場合によっては」
「そっか」
その後は、なんとかぽつぽつと会話をして、時間をつないで家の近くまで来ることが出来た。
「もうすぐだから、ここで大丈夫」
「あ、そっか。わかった」
「ありがとう」
「ううん。僕が送りたくて送っただけだし。じゃあ、また明日学校で」
「うん。また明日」
送ってもらって嬉しかったのに、なんだか王子様と平民の差を見せつけられた気がして、なんだか切ない気持ちだ。
会話を続けることすら今のままでは難しい。
(私には高嶺の彼すぎるよね・・・)
美紀が背を向けてトボトボと歩き出すと「ねぇ」と亮悟が声をかけてきた。
「これからもバイト終わりが一緒の時は送らせてよ。夜は危ないし、僕も電車代が浮くのはありがたいし」
そう言って“いいでしょ?”って感じで王子に微笑まれたら断れるはずがない。
「・・・終わりが同じ時はお願いしようかな」
美紀がそういうと満足そうに頷いて「このことは二人だけの秘密で」と人差し指を口に当てた。
(少女漫画の王子様かよ)
美紀は赤くなった顔を隠すために「じゃあ」と背を向けて小走りで家に向かった。
□■□
「はぁ~疲れた」
美紀はお風呂上りで濡れた髪をタオルで拭きながら、いつもようにパソコンをチェックした。
「あ、ウィステリアさん・・・」
“前回は僕の相談を取り上げてくださってありがとうございました。勇気を出して彼女と少し話してみました。緊張で上手く話せなかったんですけど、彼女のことをほんの少し知ることが出来ました。彼女ともっと仲良くなれるように頑張ってみたいと思ってます”
「頑張ってるんだなぁ…」
タイプも趣味も違う彼女を好きになって、少しでも仲良くなりたいと前に進んでいる。
(私も少しは頑張ってみようかな…)
美紀は自分の顔を鏡に映した。
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