第3話

「みなさん、こんばんは。MIKIの恋愛相談ネットラジオの時間です」


時刻は20時。

配信はいつも20時~21時と決めている。

睡眠時間は確保したいし、中学生や高校生がメインで聞いてくれているので、夜更かししてほしくないという思いからだ。

ここでも真面目が出ているなと自分でも思う。


「では本日の一つ目の相談内容は、ラジオネーム、ウィステリアさんからの相談です。“僕は好きな人に先日会うことが出来ました。彼女は僕のことを苦手と思っているかもしれません。まずは友達になれればと思うのですが、どうすればよいでしょうか”という可愛らしい相談です。皆さんどうでしょう?」


コメントがどんどん投稿されていく。

「早速コメントありがとうございます」


坂之上さかのうえ:まずなぜ苦手と思われたかわからないと原因がわからないでござる”

坂之上は古参のファンの一人だ。

なぜか語尾がござるで特徴的なので、すぐに覚えた。ふざけた語尾だが、割と真剣に相談にのろうとするので、悪い人ではない。


「確かにそうですね。ウィステリアさん、聞いていますか?もし聞いていたらコメントお願いします」

しばらくすると、ウィステリアからのコメントが上がってきた。


“ウィステリア:相談内容を取り上げていただいてありがとうございます。僕の周りには明るい友人が多く、少し騒がしいのですが、彼女は大人しくて休み時間も本を読んでいるような女の子なので、苦手と思われているのではないかと思うんです”


「大人しい彼女に恋をされているんですね。お互いタイプが全然違うように思うのですが、どういったところが好きなのですか?」


“ウィステリア:声です。声に一目ぼれしちゃいました”


綺夏あやか:わかるー!声に惚れたこと私もある!”

綺夏は2ヶ月ほど前から必ず配信を聞いてくれている。

とにかくコメントを打つスピードが早く、コメント数が半端じゃないので、コメ欄で目立っている。


声に惚れた経験についてのコメントがたくさん流れてくる。

意外と声に惚れたことのある人はいるらしい。


「では、ウィステリアさんが好きな人とお友達になるにはどうしたらいいでしょう?」


“まる:タイプが違うと付き合ってからもしんどいぞ”

まるさんも古参ファンだ。

毎回配信を聞いてくれて悪い人ではないのだが、すごくネガティブだ。

ここのリスナーに珍しくコメントの感じからどうやら結婚しているサラリーマンのようなので、ストレスが溜まっているのかもしれない。


「まるさん、冷静なご意見ありがとうございます。ただ今回は友人になりたいという相談ですので」


“綺夏:休み時間ってことは学生だよね?普通に挨拶するところから始めたらいいんじゃないの?”


“坂之上:本について質問するのもいいと思うでござる”


それ以外にも、たくさんのアドバイスが流れてくる。


「皆さんアドバイスありがとうございます。ウィステリアさん、たくさんのアドバイスの中から実行できそうなものを一つ選んでみて一つだけ実行してみてください。どんな時も最初の一歩を踏み出さないと目標は達成できません。逆に一歩踏み出せばゴールに近づいているということです。勇気を出してぜひ一歩踏み出してみてくださいね」

その後も2つほど恋愛相談をして、今回の配信もかなり盛り上がった。


パソコンの電源を切ると、美紀はごろんとベッドに横になった。

「みんな恋してるんだぁ」

恋愛相談にのっているが、自分自身は恋愛経験がない。

付き合ったことすらないし、好きな人すらまともにできたことはない。


(今まではね…)


頭に亮悟りょうごの笑顔が浮かぶ。

心臓がバクバクいってくる。

これをときめきと呼ぶのだろうか―。

「お風呂でもはいろ」


自室を出て1階に降りると、深刻そうな顔で母が立っていた。

「美紀・・・、ちょっとこっちに来てくれる」

いつも明るい母がこんな顔をするなんてよほどのことかもしれない。

言い知れぬ不安を感じながら、ソファーに座った。

父は真っ青な顔をしている。

その隣に母も座った。


「あのね、話があるんだけど・・・実はお父さんが働いている会社が倒産しちゃったの」


「倒産!?」


「すまない・・・。業績が悪化しているなんてまるで気づいてなかったんだ・・・こんなことになるなんて」

父が声を落として下を向いている。


「でもね、私も働いているし、特に生活に困ったりはしないと思うのよ。高校ももちろんこのまま行かせてあげられると思うし、大学も貯金があるから大丈夫よ。ただ今までよりは節約したり、少し窮屈な思いはさせてしまうかもしれない」

大学に行けるとの言葉にホッとした。

母も正社員で働いているので、生活には困らないようだ。

両親共働きで寂しい時もあったが、2人ともが働いてくれていたことに今更ながら感謝した。

「節約とかそれくらい大丈夫だよ。私もアルバイトとかして自分のお小遣いとかスマホ代は稼ぐよ」

「本当にすまない。きっとすぐ再就職するから」

「父さんが悪いわけじゃないし、きっと転職も上手くいくよ」


根拠がないことは十分わかっていたが、励ます以外今は選択肢はない。

美紀がそういうと、目に涙を浮かべながら父は「頑張るからな」と言った。

「こんな時こそ家族で乗り越えなきゃね」

母の目がキラキラしている。

どうやらもう落ち込みモードは終わったらしい。

「困難をたくさん乗り越えることで、家族の絆は深まるのよ」

もう母の中では家族ドラマが始まっているらしかった。

母が回復すれば自動で父も回復するから大丈夫だろう。

「じゃあ、お風呂入るから」

美紀はそそくさとお風呂へ向かった。


□■□


「いらっしゃいませー」


(採用されてよかった・・・)


隣町のファミレスで美紀は、アルバイトを始めた。

アルバイトを始めて一週間。

親には大丈夫と言われたものの、さすがにアルバイトくらいはしようと思って、面接を受けたらとんとん拍子で採用された。

ここは家からも、高校からも遠いが、高校がアルバイト禁止なので仕方ない。


「橋本さん」

店長に呼ばれて裏に向かうと、今日から新しいアルバイトが入ってきたとのことだった。

「色々教えてあげてね。あれ?藤崎くーん!」


(ふ、藤崎・・・?)


ファミレスの制服に身を包み、近づいてきた男の子は、高嶺の男子―。


「よろしくね、橋本さん」


(嘘でしょ・・・)


いつもの王子様スマイルで亮悟が立っていた。

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