母という影法師
- ★★★ Excellent!!!
ボロ泣きしました。
母親という生き物は、必ず子より先に死にます。
今作では老衰ではありませんが、やはり母が子より先に生命の危機に緩やかに瀕していく様を克明に描いています。
しかし、視点はあくまで残される子の視点なのです。そこには残され、大事にされてきたことを痛感するからこその罪の感覚が残る描写が見事だと思いました。
自分の実体験でもあるのですが、母親の子への愛は、あえてこう言わせてください、凄まじさがあります。それは「家の母が」という特殊な例を挙げたいわけではなく、母という生き物に付いて回る普遍的なものです。
その凄まじさとはいつまでも子を無償に愛おしく、守らねばと感じてしまうという愛です。死を迎え、その身朽ち果てても、我が子を案じてしまうある種の執念ともいえる愛です。それ程までに母という生き物は子が愛おしいのです。
その愛に直面する子は、やはりそれ相応の愛で返したいと切に思いますが、やはり子は子であり、どうしても自分の人生が大事に思えて仕方ありません。しかし同時にその愛への恩を感じざるもおえません。
そんなジレンマの中に取り込まれていく主人公に涙が止まりませんでした。
これは子が母の巨大な愛をどう噛み砕いて、受け入れていくかという大きな問いを見事に物語として落とし込んだ深い作品だと思います。
一体、誰が悪かったのか――。
そんな問いすらも、流し去っていくように母は子が愛おしいのです。