フォルカスは何の夢を見るか

 培養肉から始まり、倫理とはという問いから、果ては生命とは親しみとは――という遠大なテーマを、ここまで身近に、かつ答えを断定せずに描ききったことが読んでいて、すごく心地よかったし、面白かった。そして切なかった。

 主人公とパートナーの関係がすっかり冷え込む程、親しみや生死の哲学は重い。だからといって主人公も明確な答えを持ち合わせているわけでもない。
 本物の肉汁したたる肉を食んでも、魂の正体はやはり分からない。

 ある種の心理学や仏教では、愛や生、死等の抽象的かつ観念的概念は、論理で組み立てるのではなく、人間の身体感覚でもって感じることでしかその所在や意味を掴むことは難しいという。つまり、言語以前の身体感覚によって感知でき、その中でのみ存在する概念が存在するのだろう。

 培養肉から生じた倫理的かつ論理的な潔癖がフォルカスを殺したのだ。

 そして、ロボットのフォルカスを買ってきたパートナーも、その機械仕掛けのフォルカスの命を電池だと言ってのける刑事も、最早、新たな世界の住人である。
 加えて、肉を食うことが当然ではなく、娯楽として捉えるニトベ達も実はもう既に新たな世界の住人である。

 そんな中で肉を食うことは正しく“肉を食うこと”であり、生きたペットの喪失に苦しむ主人公だけが、前世界に取り残されていることも見逃せない。

 フォルカスの死と共に彼女の中の愛や生、死すらも殺されてしまったのかもしれない。

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