二人なら倒せる!
「な、なに言ってんの……!?」
彩真音の声は、上ずっていた。
どう考えてもやれるわけがないって、いつものプライドをかなぐり捨てた声だ。
「丙式は第四等級の
「だったら、ここでやられてやるのか?」
「やられるなんて言ってない! アンタ一人だけでも外に出て、助けを……」
「俺の脚力でも、ひと跳びじゃ出口には届かない」
でも、彩真音の提案を受け入れるわけにはいかない。
あいつ一人をここに見捨てるなんてのは、俺のアイデンティティが許さない。
「それに、彩真音を置いて俺一人でここから出ていくくらいなら、俺はここで戦う。戦って、彩真音を絶対に助けて、それから出ていくぜ」
蟹の走り回る音を聞きながら、俺ははっきりと言った。
「……なんで……」
「俺の心が言ってるんだ。彩真音が俺をどう思ってても、絶対に助けるって」
どうしてなんて聞かれれば、そう答えるしかない。
回りくどい理由なんてない。打算も計算も、考える価値はない。
「そこに――理由なんて、いらないだろ?」
ただ、俺が助ける。
絶対に誰も見捨てず、できる限り手を差し伸べる。
神祓師になった時に覚悟したんだ、そのためなら俺は何だってしてやる。
「……っ!」
彩真音の驚く声を聞き流しつつ、俺は地面を軽くつま先で蹴る。
「まずはザコを蹴散らして、そんでもって丙式を狙う。時間を稼げれば、他の神祓師も来てくれるかもしれないし――」
とん、とん、ステップを刻んでいるうち、ふと、俺の背中で変化が起きた。
「『
俺からは見えないけれど――彩真音が間違いなく、霊装を発現させた。
後ろの方で確かに荒魂械がざわつき、ちりちりと焦げるような炎を感じたんだ。
「彩真音……!?」
「足が使えなくたって、手が振り回せるなら勾玉を撃ち込める。近づいてくる蟹は、ハンマーでぶん殴って追い払う。今のあたしにだって、それくらいできるわ」
目を丸くしているうち、彩真音がハンマーを回しながら、あら、と言った。
「氷雨家の神童が背負われてるだけで、何もしないと思ったの?」
そんなわけがない、と俺ははっきり確信できた。
氷雨彩真音という人間は、そこまで弱くない――むしろ俺より、ずっと強い!
「……頼りにしてるぜ、彩真音!」
「散々カッコつけたんだからへましないでよね、
言うが早いか、俺は彩真音を背負ったまま、ウンスイの群れに突っ込んだ。
蟹のバケモノはわらわらと襲い掛かってくるけど、はっきり言って、俺達の敵じゃない。
「『
黒い髪を揺らし、仮面をかぶった俺がキックすると、荒魂械の甲羅が砕ける。
しかも一匹じゃない、二匹、三匹まとめてぶっ壊す威力があるんだぜ。
いくら手が使えないからって、こいつらぐらいなら足で十分だ!
「あたしのハンマーと勾玉の連撃から、逃げられると思わないでよ!」
一方で彩真音は、ハンマーで勾玉を撃ち込んで、ウンスイ甲式を撃破する。
近寄ってくる輩はというと、振り下ろされたハンマーの餌食だ。
すさまじい破壊力と殲滅力で、もはやバケモノに近づくことすら許さない!
「久遠、左っ!」
「分かってる! 彩真音、正面の甲式をぶっ飛ばしてくれ!」
「オッケー、任せなさいッ!」
互いに声を掛け合い、振り向き、荒魂械を討伐してゆく。
蹴りと、ハンマーと、勾玉が入り乱れ、ウンスイ甲式を片っ端から倒してゆく。
広い空洞に荒魂械の悲鳴が響き渡るよりも大きな声で、俺達は喊声を上げながら、群がるカニを全部ぶっ飛ばす!
「「どりゃあああああッ!」」
今の俺達にとっちゃ、荒魂械がどれだけいようが関係ない!
俺の跳び蹴りと彩真音のハンマーが、最後に残っていたウンスイを打ち砕いた!
『ガ、ガギュ……』
『ギイイィ……』
そしてあっという間に、山ほどいたウンスイ甲式は倒れ、炭になって消えていった。
さて、これで残ったのは静観していた巨大な丙式だ。
『グギィイイイイイイ!』
もっとも、ただ静かに眺めているばかりじゃなく、泡をぶくぶくと噴き上がらせるほど怒りまくってるみたいだがな。
「おいおい、ザコを倒されて丙式がずいぶんお怒りだぜ」
鬼の面の奥から敵を睨んでいると、背中で彩真音が、強くハンマーを握る。
「こんな奴と長く付き合ってやる必要なんてない……やるなら、瞬殺よ!」
おいおい、またたきの間に殺してみせるとは、大きく出たな。
「瞬殺なんて、できるのか? 第四等級神祓師を集めて、倒せる敵だって言ってたろ」
「あの装甲にひびでも入れられたなら、絶対に倒せる技があたしにあるの!」
神祓師を集めないといけないってビビってた彩真音が、ここまで豪語したんだ。
それをサポートしてやらない選択肢なんて、あるわけないよな。
「だったら、その役目は俺が引き受けた! 行くぞ!」
強く頷いた彩真音に応えるように、俺は巨大なウンスイに向けて走り出す。
蟹は俺達の背丈よりもデカい鋏を振り回すけれど、『布都御魂』をつけた俺からすれば、止まって見えるようなもんだ。
どれだけ壁を打ち砕いて、地面を破壊しようが関係ない。
「そんな攻撃、当たるか、っての!」
迫る攻撃をかわしながら、俺は一気に彩真音を真上にぶん投げた。
もちろん、あいつを見捨てたわけじゃない。
俺の必殺技を叩き込むのに、両手を空けてやる必要があったんだ。
「『
霊力を瞬間的に、かつ爆発的に叩き込む必殺技。
こいつを右手と左手、両手で同時に受ければ、丙式だからってただで済むわけがない。
『ガギャアアアアアアアッ!』
バキバキと音を鳴らして、鋼の甲羅が崩れ落ちて、気味悪い色の肉が露出する。
奥に見えているのは荒魂械の心臓部分、どす黒くうごめく肉だ。
あれを破壊すれば、どんな大きさの荒魂械だって死に至る。
「今だ、彩真音!」
そうなれば後は、天井のすぐ近くでハンマーを振りかぶった彩真音の出番だ。
彼女のもとにはもう、燃え盛る勾玉がみっつ、主人の号令をいまかいまかと待っている。
「くらいなさい、氷雨家必殺!」
彼女は勾玉を集め、ひとつの巨大な炎にして。
ミシミシと音が聞こえるほどハンマーを強く握りしめ――
「――『
目にも留まらぬ速さで、勾玉を荒魂械に撃ち込んだ。
隕石のごとく、烈火を纏う勾玉がソニックブームと共に撃ち出される。
そして――ウンスイの露出した肉を、一発で貫いた。
『オギョゴッ――』
ウンスイ丙式の小さな目が、ぐるんと剥いた。
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