氷雨家は厄介
「パパ、ママ!」
彩真音はさっきまでの怒りをどこへやら、二人に向かって明るい笑顔を向けた。
彼女の両親も、相当娘が可愛いようで、ニッコニコで手を振ってる。
「やっぱり、この人達は氷雨の両親なんだな」
俺が言うと、彩真音はふふーんと胸を張った。
「あら、アンタみたいなのにも分かるみたいね? 当然よ、あたしと同じ氷雨家の選ばれしオーラがみなぎっているんだもの、あたしの両親だって
「いや、明らかにめんどくさそうな雰囲気が漂ってるからだな……」
オーラなんて言葉で済ませちゃいけない、めんどくささが三人から迸ってる。
本当ならこいつら三人、まとめて屋敷から放り出した方がてっとり早いんだろうなあ。
そんなことを考えていると、奥から使用人がドタバタと走ってきた。
「久遠様、久遠様!」
「申し訳ありません、久遠様! 氷雨家の方々がいきなり押しかけてきて、陽之助様はいないとお伝えしても、無理矢理屋敷に……!」
彼女達に返事をしたのは、俺じゃなく、なぜか彩真音の両親だ。
「ああ、気にしないでください。我々はこの子供に用があってきたのですから」
「ここに彩真音を連れてきたのは、今日この場で、晴天院家にしっかりと知らしめるためですのよ。氷雨家の将来は安泰、晴天院家になど負けはしないと!」
いやいや、なんでアンタ達がまともな方なんです、みたいに話してんだよ。
普通は不法侵入でお巡りさん案件なんだろ。
「当たり前よ! こんなチビに、あたしが負けるわけないわ!」
おまけに彩真音も、両親の言い分が間違ってないと心から信じてるみたいだ。
はっきり言って、転生前にも後にも、こんなややこしい家族は見たことがない。
「なんだか知らないですけど、話があるなら父さんを通してください。じゃないと――」
もうすっかり面倒になって、俺は三人を屋敷から追い払おうとした。
「――あるいは、『協会』に許可をもらってから来るべきでしたね」
でも、代わりに澄んだ声が空を裂いた。
誰の声かなんて、俺も春ちゃんも、少なくとも氷雨家の面々以外は知っている。
「刹那!」
俺の兄、刹那だ。
着物を着てゆったりとした様子の刹那は、中学生になって雰囲気もすっかり変わった。
前髪を片方だけ掻き上げて、左目だけを隠すようになったんだ。
どこかダウナー気味な雰囲気も相まって、弟ながら本当にカッコいい――悔しいけれど、モテるのも納得できるよ。
「久遠も春も、随分面白い人達に絡まれているようだね」
ふふ、と小さく笑いながら、刹那は氷雨家三人組を見つめた。
「……あんたが、晴天院刹那。名前は知ってるわよ」
「どうも。それで氷雨家が、晴天院家に何の用ですか」
ただそう言うだけで、彩真音も彼女の両親も、びりりと体をこわばらせた。
刹那の体から発される威圧感は、俺達には絶対に向けられないけれど、
まだ中学生だというのに、大人をたじろがせるほどの圧倒的なオーラがあるんだ。
「う……うちの彩真音と一緒に、あいさつに来ただけですわよ。ついでに実力を見せつけて、高い鼻をへし折っておこうと思っているくらいですわ」
「アンタ達はこれから、あたしが徹底的にぶちのめして、氷雨家に逆らえないように教育してやるんだからひぎゃああああっ!?」
それでも強気な態度を崩すまいとしていた三人のうち、彩真音がまたもやらかした。
「やっぱり、我慢なりません! 古舘家のお仕置きを受けてもらいます!」
NGワードを連発する彼女に対して、春ちゃんがばっと駆け出してプロレス技を叩き込んだんだ。
「おっと、僕より先に春が動いたみたいだ」
「春ちゃーん!?」
あ、あの技は知ってる。
アルゼンチンバックブリーカーってやつだ。
くらった経験はないけど、彩真音の悶絶顔からして、間違いなく痛いのだけは分かる。
「きゃあああっ!?」
「晴天院家の付き人め、なんて乱暴な輩なんですかああああっ!」
娘がとんでもない目に遭ってるってのに、両親は悲鳴を上げてうろたえるばかり。
やっぱりこの家族、強いのは気持ちだけで、中身はそう大したことないんじゃないか。
少なくとも、春ちゃんの気が済んで彩真音が畳の上に転げ落ちるまで、駆け寄ろうともしなかったんだからさ。
「ぜー、はー……こ、この卑怯者……自分が勝てないからって、使用人に戦わせるなんて、恥ずかしいと思わないわけ……!?」
そんでもって、彩真音はこの言い分だ。
いっそ春ちゃんに徹底的に叩きのめしてもらった方がいいんじゃないかとすら、俺が思った時だった。
「いいや、直接戦ったところで、君は久遠に勝てないと思うけどね」
おっと、刹那がなんだか余計なことを言った気がする。
俺の気のせいだと思いたいんだが、ここまで来ると一番ややこしい展開になりそうなんだが、本当に気のせいであってほしいんだ。
「……なんですってぇ……!」
ああ、気のせいじゃなかったわ。
刹那の一言が、間違いなく彩真音の火に油を注ぎまくったよ。
だってもう、目が爛々と輝いて、俺をぎろりと睨みまくってるもんな。
俺、何にも悪いことしてないのに。
「晴天院刹那の前で、晴天院久遠、アンタをぶちのめしてやる! 弟がボコボコにされるさまを見て、泣きべそのひとつでも見せればいいわ!」
立ち上がってこっちを指さす彩真音を、両親が称賛する。
「いいわ、やっちゃいなさいな、彩真音!」
「氷雨家が産んだ稀代の才能を、晴天院家の奴らにしらしめてやりなさい!」
しかもなぜか、刹那も春ちゃんも、この三人を止めようとしないんだ。
「だ、そうだ。久遠、さっさと力の差を理解させて、帰らせてやるといい」
「久遠様なら負けません! 私、信じています!」
「……え? なんで俺が戦う流れになってんの?」
あ、なるほどね。
お前らが戦うんじゃなくて、俺が彩真音と戦うから、止める必要がないってわけか。
いや、アホか!
こんなもん、とっとと屋敷の外に放り出すのが一番だろ!
「いいから、さっさと外に出なさいよ! ソッコーでケリをつけてやるわ!」
とは言ったものの、氷雨家の面々はきっと外に放り出したところで、あらゆる手段を使って屋敷の中に戻ってくるに違いない。
だったら、ちゃんと筋を通して戦ってやった方がいいか。
あいつらはまったくもって、ちっとも筋を通してないけれども。
「……ったく、しょうがねえな……」
頭をぼりぼりと掻きながら、俺は彩真音に
陽が照っている夏の昼間に、外に出るのもなんだか
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