『八尺瓊勾玉』

 ジイジイとセミが鳴く屋敷の庭で、俺と彩真音が向かい合う。

 俺の後ろには刹那と春ちゃん、使用人の皆。

 彩真音の後ろには「絶対勝てる」「あなたは天才」と褒めちぎる両親がいる。

 今更だけどなんなんだ、このカオスな空間は。


「さて、と。外に出たのはいいけど、今から何をするつもりなんだ?」


 俺の問いかけに、彩真音はにやりと笑う。


「模擬線形式の勝負で徹底的に叩きのめしてやりたいって言いたいけど、今回は特別に、互いの霊装を見せあってぶつけ合うだけにしといてあげるわ」


「なるほど、組手みたいなもんか」


 霊装と霊力のぶつけ合いは、刹那とも修行の一環で何度かやったことがある。

 あれの延長線だと思えば、まあ、おかしなことでもないか。


「ま、アンタみたいなのはあたしの霊装を見ただけで心が折れるでしょうけどね!」


「久遠、もうじき父さんと母さんが帰ってくる。早めに決着をつけるようにな」


「頑張ってください、久遠様!」


 ただ、何をするかが分かっていても、状況だけはまだまだ厄介だ。

 特に刹那、お前が話を振っておいて急かすなんておかしいだろ。


「そう言うなら刹那、お前が相手してやれよ。こんなの、勝っても負けても、めんどくさい展開になるのが見えてるじゃねえか」


「ああ、だから僕はお前に頼んだのさ」


 こんにゃろ、やりやがったな。

 自分が目を付けられるのが面倒だから、俺を前に立たせたってわけかよ。


「ようやく気付くとは、お前は相変わらずかわいいな」


 まったく、この兄には敵わないな。

 俺が呆れていると、向かい側からまたも甲高い声が響いてきた。


「ちょっと、うちの彩真音を無視してるんじゃないですよ!」


「まったく晴天院家の神祓師ときたら……構いませんわ、彩真音! あなたの最強の霊装を見せつけて、実力の差を思い知らせてあげなさい!」


「分かったわ、パパ、ママ!」


 そして言うが早いか、ばっと手を正面にかざした。


「来なさい――『八尺瓊勾玉やさかにのまがたま』!」


 そして彩真音が霊装の名を叫ぶと――炎が、炎を模した霊力が、彼女の体から放たれた。

 メラメラと燃え盛る霊力は武器を、ふわふわと宙に浮く装備を作り上げ、たちまち彩真音の手にがっしりと握られた。

 あれが何なのか、俺には何となくわかる。


「勾玉と、ハンマーが……!」


 そう、あの形は柄の長いハンマーと、宙を漂うこぶし大の『勾玉』だ。

 さっき、彩真音は自分の霊装の名前に『勾玉』とつけていたくらいだし、あれを武器としても使うんだろうなとは、何となく想像がついた。


「氷雨家の一人娘はまだ神祓師見習いと聞いていたが、霊装は使えるみたいだね」


 俺が霊装の発現に驚いていると、後ろから刹那が言った。


「え、俺達みたいに第五等級の試験を受けてないのか?」


「ああ、彼女は神祓師の資格を持っていないよ」


「それなのに、久遠様や刹那様にとんでもないマウントを取っていたのですね……」


 言われてみりゃ、確かにそうだ。

 てっきり俺は、同じ神祓師としてめちゃくちゃ煽られてるんだと思ってたよ。


「聞こえてるわよ、そこの凡才ども!」


 さて、ハンマーをぶんぶんと振り回す彩真音が、痛いところを突かれた様子で怒鳴った。


「確かに今、あたしは神祓師の資格は持ってないわ! でもね、すぐに試験くらいクリアして、アンタ達なんてすぐに追い越してやるわよ!」


 彼女の感情に呼応するように、勾玉が真っ赤な炎をまとう。

 どう考えても本物の炎じゃないのに、どこか熱さすら感じさせる。


「それができるのよ――この『八尺瓊勾玉』なら!」


 きっとそれが、彩真音の霊装『八尺瓊勾玉』の力なんだろうな。


「あたしは霊力に炎の特性を付与できる力を持ってる! ちょっとしたザコの荒魂械あらかせくらいなら、この勾玉をぶつけただけでくたばるわ!」


 と思っているうち、彩真音の方から勝手に説明を始めてくれた。

 こっちとしては「聞いてないんだが」と言ってもいいんだけれど、きっと話の腰を折るとさっき以上に怒るだろうから、黙っておく。


「もちろん、ハンマーの一撃だって強烈よ! アンタ達晴天院家の神祓師がちんたら攻撃してる間に、あたしなら一発で粉々に荒魂械を叩き潰せるの!」


 なるほど、彩真音はどうやらパワーファイターらしい。

 あの小ささで接近戦、なおかつ物理攻撃に長けるというのは、ちょっとしたロマンだよな。


「そしてこの霊装最大の特徴はね、勾玉をハンマーで撃ち込めるところよ! 炎を纏ったこいつを何発もぶち込まれて、生きてられる奴なんかいないわ! パパと何度か任務に付き添った時に試したし、威力は氷雨家のお墨付きよ!」


 彼女がすっかり説明を終えると、両親が感動の目で拍手した。

 何を言ってもあんな調子で褒めたたえられて、蝶よ、花よと育てられてきたんだろうか。

 それ自体は悪くないんだろうけども、度が過ぎると彩真音みたいに、何度も春ちゃんにプロレス技を受けるほど生意気になっちゃうんだろうなあ。


 なんて思っているうち、彩真音がハンマーの先をぐい、と突きつけてきた。


「さあ、どうかしら? 神器の名を冠したあたしの霊装にビビり散らかしたなら、今のうちに土下座して、さっきの無礼を詫びる機会をあげるけど?」


 しかもなんだか、彼女の中じゃあ、もう圧勝しているらしい。

 まだ霊力をぶつけ合ってもいないのにこの自信ってのは、ここまで来ると、なんだか羨ましいとすら思えてくるよ。

 とはいえ、憧れて、真似をしたいかと言われると、怪しいな。


「……終わったのか?」


「みたいだね。ほら、久遠。お前も早く、霊装を見せてやるといい」


「しょうがねえな……『布都御魂ふつみたま』!」


 刹那に背中を押されて、俺も霊装を発現させた。

 機械のような――まるで荒魂械のような鬼の面、『布都御魂』。

 心臓の辺りから飛び出したそれを被ると、全身に霊力がみなぎる。

 二年ほど前から続けている霊力コントロール修行の癖がついているからか、あまり霊力を放出しないように霊装を使い続けている。


 ただ、今回はちょっとばかり、俺のいじわるな気持ちの方が働いてしまった。

 少しだけ驚かせてやろうと思って、俺は腹の底から霊力を湧きあがらせた。

 霊力が見える才能の持ち主――ほんの僅かでも見えるのなら、押し寄せる波のごとく可視化される霊力の顕現。

 さあ、これを見て彩真音はどんなリアクションを見せてくれるだろうか。


「……なによ、この霊力……!?」


 おっと、やっぱり予想通りだ。

 お面の向こう側に見える彩真音は、明らかに驚愕きょうがくしていた。

 そりゃそうだ――彼女の十倍、いや、二十倍近い霊力を、解き放ってるんだからな。

 もちろん、ビビらせるために、な。

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