千手観音ババアと嵐を呼ぶゲーム実況

オニキ ヨウ

千手観音ババアと嵐を呼ぶゲーム実況

あたしは登録者数100万人越えのゲーム実況者。

順調にファンも増えて幸せな毎日を送っている。


そんな中、どうしても叶えたい夢がある。

大好きなおばあちゃんに、あたしの実況を見せること。

おばあちゃんの住む田舎は電波が悪く、インターネットがつながらない。


そこであたしは考えた。


生のゲーム実況を見てもらえばいい。


あたしが田舎の家へ出向き、ゲーム実況を実演するのだ。


実況当日、おばあちゃんの家に着いて驚いた。

テレビが壊れている。

「先月、大きな雷が落ちて家電がみんなダメになったんだ」

悲しげにつぶやくおばあちゃん。


あたしはテレビゲームの実況配信者だ。

テレビもパソコンもない部屋で、なにを実況しろというのか。


「おばあちゃん、ゲーム機持ってないよね?」

「ゲーム?」

「ゲームボーイでもゲームウォッチでもなんでもいいんだけど」

「そういうのはないけど、お手玉ならあるよ」


おばあちゃんはスローな動きで古びたお手玉を持ってくる。

「娘時代によく遊んだもんだよ」

ひょいひょいと二つのお手玉を放り投げる。


コレジャナイと思いつつ、あたしはカメラをセットして、録画を撮り始める(録画したものを後日配信するのだ!)。


「えーっと、みなさんこんにちはー。ゆなゆなゲームチャンネルのゆなぽやです。今日は特別編ということで、ゲストをお招きしています」

イマイチ乗り切れないあたしの背後でお手玉にふけるおばあちゃん。


「こちらはゆなぽやのおばあちゃん・トメちゃんです」


挨拶代わりにお手玉を三つに増やすトメちゃん。

依然として無表情のまま、黙々とジャグリングを続ける。


「トメちゃんの好きなゲームはお手玉! Switchもプレステもない時代に大流行した遊びだよ」

「ほれ、アンタもやんなさい」


おばあちゃんからお手玉のパスを受けるあたし。

あわあわしながら取り落とす。


「ゲーム実況するんだろ、ほれ」

「できないよ。あたしがやるのは、テレビゲームやパソコンの……」

「簡単に諦めちゃいけないよ」とおばあちゃん。

手持ちの玉が五つに増えている。


「お手玉は反射神経と器用さ、そして慣れ。特に慣れが大事だよ。ボールがどのタイミングで落ちるか、体で覚えるんだ。一に練習、二に練習……」

お手玉を一つ、二つ、と増やしていくおばあちゃん。

「三、四がなくて、五に練習」

シャキシャキと中身の小豆が鳴る。

さらに五つプラス。

「ほれ、ほれ、ほれ、ほれ、ほれ!」


自在にお手玉を操るおばあちゃんは、千手観音の化身のよう。足や頭も駆使して合計11コのお手玉をジャグリングする。


これ、お手玉の世界記録なんじゃ……。

驚きのあまり言葉を失うあたし。


おばあちゃんの手は光の速度を超え、肉眼で捉えられない。野外から差し込む陽の光が猛然と動く手足に屈折して、ダイヤモンドに似た輝きを放つ……いや、違う。


これは後光だ。

千手観音ババアから、後光が指している。


「す、すごい……おばあちゃん、すごいよ!」

「しゅな、しゅふぉいふぁんへふぉふぉふぉははしゅふぁっふぁひへへぇ」

(ゆな、すごいなんて言葉は使っちゃいけねぇ)

舌先まで使い始めたおばあちゃん。

何を言っているか分からない。


ここからはあたしが解釈したセリフを書いていく。

「ゆなは実況者……つまりは表現者だ。すごいとかやばいとか、手垢まみれの言葉を使っちゃなんねぇ」


おばあちゃんの超高速お手玉によって暴風が吹き荒れる。

吹き飛ばされた掛け軸が、あたしの体に巻きついた。


「よくお聞き!」

「は、はい……!」

「人生はハプニングの連続だ。おばあちゃんごときで絶句してちゃ、いざってとき舌が回らなくなるよ」

「これ以上絶句することなさそうだけど……」

「表現の秘訣はね、驚きながら楽しむことだ。どんなハプニングも心の底から楽しめば、チャットGPTには真似できない、生の言葉が生まれてくる」

「おばあちゃん、インターネット使えないのにチャットGPTは知ってるんだ!」

「ゆな、腕を磨きな。そして誰にも真似できない、唯一無二の実況を目指しな」

「う、うん……」


あたしは頬を流れる涙をぬぐう。

おばあちゃんの爆風で、古民家に溜まったホコリというホコリが舞い上がり、涙とくしゃみが止まらなかった。


「ありがとう、おばあちゃん!」


こうして嵐を呼ぶゲーム実況は終わった。

物が散乱した民家を片付けて、あたしは東京の家に帰った。

いつもの、のんびり配信をするために。

あたしの持ち味は、働く人の日々の疲れを癒すのんびり実況。

「すごー」とか「やばー」とか日常でよく使われる絶妙な合いの手を入れつつ、ゲームをした感想を伝える(おおまかな台本はチャットGPTに作ってもらう)。


「おばあちゃんの神業と喝は、良い人生経験になったけれど……ブランディングが違うのよね」


あたしは録画したデータを見かえすこともなく、頭の中のフォルダにしまった。

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