6.
──12月24日
「祈さ〜ん。採血しますよ〜」
「はい。お願いします」
目の前での採血の様子は鳥肌が自然と立っていた。針が肌にゆっくり入っていく様子に少し目を瞑る。祈の入院生活は2週間前に始まっていた。
「今日は康介くんと何かするの?」
「今日はトランプとかしようかなって」
「楽しそうだね〜」
看護師のおばちゃんはとてもいい人で、よく話をしてくれる。なんでもない話をして、採血が終わる。
「はい、採血終わりだよ〜。いつもありがとね」
大学も冬休みで時間が出来たため、毎日、祈の傍にいた。母にも付き合っていることを明かすと拍手をして喜んでくれた。
院内ではあっという間にその話が広まり、二人で少し散歩すると毎回おばさん達に声をかけられる。だが、全然嫌ではなく、むしろ嬉しかった。
「お似合いだ」「幸せそうね」なんてこと言われて、改めて祈の居る生活は幸せで満ちているという事に気づいた。
「もう少しでお正月だよ?」
「その前にクリスマスだ」
「ほんとだ。今気づいた。サンタ来るかな〜」
「俺がサンタになるよ」
ふふっと祈が優しく笑う。
「康介〜、祈ちゃんばっか構ってないでこっちにも来なさいよ〜」
相変わらず母は元気で入院をした初めの頃より心配していない。
「はいはい」と返事をして母の相手をする。祈さんもたまに会話に混じり、次第に病室の4人全員が会話に入っていた。
夕方になり、バイトのため帰る準備をする。
「もう帰るの〜」
「バイトだから仕方ないだろ」
「行ってらっしゃいね」
久しぶりの母からの行ってらっしゃいに少し感動していると、反対側から声が名前を呼ばれる。
「康介、明日も来てくれる?」
「うん。明日も来るから」
「ありがとう」
あとの二人のおばさんも明るく見送ってくれた。外に出ると風が吹いていた。寒いなぁ。枯れ葉がカラカラと音を立てながら転がり風に飛ばされる。
浮かれた気分で小走りでバイトに向かう。
バイト中に鈴さんが不思議そうに顔を覗き込んできた。
「なんかいい事あった?」
「まあ、特別いい事があった訳じゃないですよ」
「なんか、活き活きしてるよ今日」
「そうですか?」
鈴さんはうんうんと首が折れそうなほど上下に頭を振る。どうやら今日は顔に幸せが滲み出ていたらしい。祈とクリスマスを過ごす事になったからだろうか。確かに今日はルンルン気分だ。
「康介くんって喜怒哀楽ちゃんとしてるから見てて面白い」
そう言ってくすくすと鈴さんが笑う。きっと今は「喜」だろうか。そんなことはどうでもいいや。
バイトも終わり、いつものように鈴さんと帰る。駅まで送ると鈴さんは、ばいばーいと元気に去っていった。
きっとあれぐらい俺も元気だったんだろうなと思うと少し恥ずかしかった。家に帰ろうと歩き始めるとスマホが鳴る。
誰からの電話かとスマホの画面を見た途端、固まってしまった。
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