第35話 イレギュラーダンジョン(5) 神殿

 蟻竜との戦闘も三度目ともなれば慣れて来た。しかも単独ならまだしも後方からすみれさんの火力支援もある状況ともなれば、せいぜい数分程度で終わる。

 菫さんの火魔法でとどめをさされた蟻竜の元から戻ると、リオンが菫さんから借りたと思われるコートを羽織っていた。だがコートの前は閉めておらず、元々着ていた薄いパジャマのような服越しに立派な胸部のラインが見えている。


「いやー、助かったよー」

「リオンさんはどうしてここに?」

「みんなと飲んだ後にユキんちでちょい飲んで寝落ちてー、起きたら知らない部屋にいたんだよねー。どこだここ?ってなって外に出たらあいつらに遭遇して、追いかけられてたとこにおじさんたちが来た感じ」


 そしてケラケラと笑いながらそんな話をしてくれた。笑い話でもないと思うが……


「怪我はないですか?」

平気へーき平気へーき。装備もなかったし、避けるのに専念してたから」

「それなら良かったです。他に誰か見かけなかったですか? 実は莉子もこのダンジョンに連れ去られたんですけど」

「ぁー、やっぱりここダンジョンなの?」


 望み薄だと思いつつもリオンに莉子を見ていないか確認するも首を横に振られた。突然の事態に逃げ回っていただけのリオンにそこまで期待するのは酷だし筋違いだろう。


「ぁ、お姉さんだけズルい! アタシにも一本ください!」

「しょうがないわねー」


 一服していた菫さんを目ざとく見つけたリオンが煙草をおねだりしている。

 セバスさんは周囲を見回しながら警戒してくれている。戦闘時に大きな音を立ててしまったのでいつ次が来てもおかしくない。


「菫さん、リオンさん。移動してからにしましょう。おかわりが来たら面倒です」

「ぁ、誰か予備の靴とかあったりしない? 24センチくらいのがあると一番うれしいんだけど」


 そう言われてリオンの足元を見て、今さらながらに裸足だったことに気付く。パジャマの様な服からして、本当に着の身着のままでここにいたようだ。

 靴の類を求めて”アイテムボックス”の中をあさってみる。


「ごめん、今回はイレギュラーダンジョンに急に入った形だから私はあんまり予備の装備類はないわ」

「ぁ、探索用のじゃなくて普段使いのスニーカーならありました。俺のでもいいですか?」

「んー……背に腹は代えられないね! 貸りる!」


 背に腹は代えられないとか言われてほんのりショックだけどまぁ仕方ない。おじさんの靴だしね。

 サイズが合わないのを紐をきつく縛って無理矢理履いたところで改めて方針を相談する。


「リオンさん、さっき言った通り、いま俺たちはさらわれた莉子を救出する目的でこのイレギュラーダンジョンに来ています。なので……」

「一人で帰るか、隠れてる、あるいはおじさんたちに付いていくって感じ?」

「そうですね。どれもリスクはある感じですが……」

「帰るとか隠れるだと、万一見つかった時に戦う相手が最低でもさっきの蟻竜ドラゴンもどきだからリオンちゃんだとお勧め出来ないわねー」


 菫さんの意見は最もだ。リオンも探索者として決して弱い部類ではないが、装備も無い状況で蟻竜クラスの相手は厳しい。装備と状況を整えればギリギリ行ける可能性がある程度だろう。


「でも連れていく場合、より強い敵との戦闘になる可能性も高いですよ?」

「そうなのよねー」

「おじさん。ちょっとだけ我が儘、言っていい?」

「内容によります」


 そりゃそうだねと言いながらリオンは苦笑いを浮かべる。そして真剣な顔になって俺の方を真っすぐ見つめる。


「さっき、莉子ちゃんが攫われたって言ってたでしょ。それなら、アタシも一緒に連れて行って欲しい。装備もアイテムも無いから大した力にはなれないけど、手伝わせてほしい」

「たぶん、隠れているよりも危険な状況ですよ?」

莉子ちゃんあんないい子のピンチを放っておくのはアタシの主義じゃないし。袖振り合うも、ってやつ?」


 照れ隠しなのかニシシと笑いながら首の後ろをかいているリオンを見てから、その後方に立つ菫さんに目を向ける。

 菫さんは少し困ったような顔はしていたが、少し考えたあとに頷いてくれた。


「……無理はしないって約束してくださいね」

「ウン。約束する」


 こちらの真剣な様子に気付いたのかリオンも神妙な顔で頷く。


 リオンにも同行して貰うことになったため、元々考えていた街の中央付近にある神殿のような建物を目指すことにする。街は相変わらず生き物の気配はなく、時折吹くビュービューと言う強い風の音だけが響いている。

 周囲を警戒しつつも、情報共有としてリオンにこちらの状況を説明しながら進む。バイアの名前を出したところで追跡魔法のことを思い出したので菫さんに聞いてみる。


「菫さん、そう言えばマーキングって……」

「……」


 無言で首を横に振られてしまった。ダンジョンに入る前に突然現れた時にも驚いていたし、何かしらの方法で誤魔化されているのだろう。


「見えてきましたね」


 数十階はありそうなビルの様な塔らしきものが等間隔に並んで描かれた円形の中央にある大きな建物。野球のドーム球場より更に一回りは大きく、巨大な柱が作る回廊らしきものが外側をぐるっと覆っている。

 何故だかは分からないが、建物を見た瞬間にこれは神殿だと感じられたが、実際どうだかは分からない。


「怪しさ満点だねー」

「ダンジョンの中にある文化の気配がある遺跡や建物ってだけでもかなりの発見なんですけどね」

「状況が状況だけに喜べないし、まともな調査ができる場所とも思えないわね」


 俺以外の三人も言いようのない嫌な気配を感じているのが表情から見て取れた。イレギュラーダンジョンを探索している緊張感だけではなく、拒否感というか異物感、あるいは違和感のようなものを感じている。


「あからさまに入口らしき場所もありますし、入ってみるしかないでしょうね」


 神殿らしき建物には、俺たちの進んできた通りが建物に突き当たった場所に大きな扉があった。

 全員で顔を見合わせて頷き合った後、扉に向かって皆で小走りに移動する。

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