第34話 イレギュラーダンジョン(4) 都市部侵入

 幸いなことにその後はモンスターの襲撃も無く、遠くに見えていた建物群らしきものに接近できた。

 建物群の周囲は2~3メートル程の壁に囲まれている。壁の向こうは石でも金属でもなさそうな、何となくぬめっとした質感の建物が雑然と並んでいる。外周付近はせいぜい数階建てのようだが、中心部には高層ビルのような背の高い塔がいくつも見て取れる。


「街……ですかね?」

「そう見えるけど、分からないわね。生き物とかモンスターとかはとりあえず見当たらないけど」


 今は砂漠の様な砂地にある石畳の一本道から街らしきものを観察している。周囲には身を隠す場所もないため、モンスターたちが現れたらすぐに見つけられてしまうだろう。


「とりあえず入ってみましょうか」

「そうね、まぁ見てても仕方ないしね」

わたくしが先行して見て参りましょうか?」

「分散はリスクがありすぎるので止めておきましょう」


 セバスさんが先行調査を申し出てくれたが断らせてもらった。ただでさえ3人の少人数編成なのでこれ以上の戦力分散は避けたい。


「”静寂サイレント”か”魔力遮断カットオフ”は使う?」

「そうですね……勘ですけど、どっちかと言えば”魔力遮断”ですかね?」


 指定した対象範囲から発生する音が伝わっていくのを低減する”静寂”と、生き物の持つ魔力そのものを感知しにくくさせる”魔力遮断”。魔力を感知してくるような高位のモンスターたちほど”魔力遮断”の方が効果的な印象だ。

 菫さんも少しだけ考えた風だったが、すぐにうなずいてくれた。


「いっそ両方ともって考えたけど、”静寂”の分の魔力も覆わなきゃになると”魔力遮断”の範囲が凄く広くなっちゃうし、先が読めない状況でやるには消耗が大きすぎるわね。君の案で行きましょ」

「負担かけてすみませんが、お願いします」

「んふふ。任せときなさい」


 菫さんが素早く”魔力遮断”をかけてくれ、一瞬だけ三人の身体が淡く光る。菫さんが指でOKサインを出してくれたので、無事に完了したようだ。

 菫さんに頷き返して、建物群へと視線を向ける。石畳の道がつながっている箇所だけ壁がないのでそこから侵入していく。俺がやや先行し、菫さんとセバスさんが後方左右に付く形だ。


「生活感、みたいなのは無いですね……」

「生き物の気配そのものが無いわね」


 建物群に入り周囲を警戒・観察しながらゆっくり進んで10分ほど経った頃、建物と建物の間の狭い小道らしき場所に一度入って小声で相談する。

 モンスターもいないし、他の生き物がいる気配もない。聞こえるのは時折吹く強い風ぐらいだ。


「細かく1個1個見てられませんし、一番怪しいのは中央のあの神殿みたいなやつですかね」

「これ見よがしに周囲に高い塔もあるし、この街の中心ですよって主張はしてるわよね」


 建物群を進むうちに見えて来た神殿らしきものは街の中央付近にある。外からだと他の建物の影になっていて見えなかったが、街中からだと中央部へ向かう通りらしき場所があるせいで良く見えた。


「いっそ一気にあの神殿まで走って行っちゃう?」

「さすがに無警戒すぎませんか?」

「一度襲われてる以上、ダンジョンに入って来たことまでは確実に認識されてるわ。莉子ちゃんも捕まってるんだし、時間かけてゆっくり慎重に行くよりも一気に行くのも手だと思うわよ」


 菫さんの意見も一理ある。迎撃した後の後詰こそ来なかったが、一度襲われているのだから間違いなく認識されているはずだ。

 少しリスクを取ってでも急ぐべきか――


「キャー」

「「「!」」」


 遠くから女性らしき悲鳴が聞こえ、三人がビクリと反応する。

 罠の可能性も頭をよぎるが、莉子が自力脱出した後に追い着かれたとかも考えられる。何より放置してしまうと後味が悪い。


「行きましょう」

「んふ。君ならそうだよねー」

「何言ってるんですか。急ぎますよ」

「あちらの方角のようでしたね」


 走りだそうとした時、セバスさんが方角を教えてくれた。俺の聞こえた方角とも一致していたし、間違いないだろう。

 ゆっくり警戒しながら進んでいた先ほどとは対照的に、全速力で声の聞こえた方角へと走る。二度目の悲鳴が聞こえないのは良いことなのか悪いことなのか。


 1分とかからずに大通りらしき場所で二匹の黒い蟻竜に襲われる人影が見えた。やや髪の長い女性のようだ。

 女性は薄手の服であり、武器らしきものは何も持っていないようだ。


「援護します! 下がってください!」


 大声で言った俺の声が聞こえたのか、女性がこちらを振り返る。そして互いを認識した瞬間、互いに声をあげてしまった。


「おじさん!?」

「リオンさん!?」


 いつもは後頭部でお団子にしている髪がほどけているせいか、遠目では全く認識できなかった。


「キキィィィ」「キィィィィィ」

「はわわわわ」


 蟻竜たちに向き直ったリオンが襲い掛かる鉤爪を必死に避ける。鎧類は着ていないようなので一撃でも致命傷になり得る。


「田中様! 私は左側を!」

「お願いします! 俺は右を抑えるんで、菫さんは援護お願いします!」

「まっかしといてー」

 

 即座に分担を決め、セバスさんと俺は急いで走り出した。

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