第5話 ファンタジーなら最後までファンタジーしなさいよ

 10体目のゴブリンを倒した時、歩の体が光った。


「一さん? どうしたんですか?」


「力が漲ります。おそらく、探索者レベルが上がったのでしょう。【武器精通ウエポンマスタリー】の派生技も使えるようになったみたいです」


「そんなことまでわかるの?」


「わかるようです。一緒に戦っていても黒羽さんの体が光らなかったということは、とどめを刺した回数なのか、とどめを刺した敵の強さなのかが探索者レベルを上げる条件なんでしょうね」


 実際のところ、回帰前に明らかにされている条件はモンスターのとどめを刺して獲得した経験値が基準を突破すれば、次の探索者レベルに上がって覚醒時に会得したスキルの派生技を会得できるとされている。


 どれぐらいの経験値を獲得すれば次の探索者レベルになるかだが、歩が見つけた鑑定板でゲージとして確認できる。


 それはこのタイミングで説明しようがないものだから、歩は仮説っぽく望愛に話した。


 その説明にツッコミを入れる余地はなかったようで、望愛は自分も強くなりたいのにダメージを与えられない現状ではそれも叶わないから気落ちしてしまう。


 回帰前に世話になったため、歩は望愛の気落ちしている顔を忍びなく思って本当はもう少し後で探索者ギルドにて発見してもらおうと思ったことを口にする。


「戦力強化の仮説があります。それは現状だと黒羽さんしかできないのですが、試す覚悟はありますか?」


「挑戦的な質問ですね。多少危険があろうとも、大学生の一さんの足手纏いのポジションに甘んじたくないので聞かせて下さい」


 軍人としてのプライドが望愛を奮い立たせ、歩の仮説を聞かせてくれと答えた。


「わかりました。じゃあ、これを持って下さい」


「魔石ですか?」


「はい、魔石です。俺が武器を使って攻撃するように、黒羽さんも魔石を魔弾マジックブレットの強化媒体として扱えるんじゃないですか? 魔弾マジックバレットを撃つ時、魔力の流れとでも言えば良いんですかね? それを感じられるのではと思ったのですがどうでしょう?」


 歩の話を聞いて、望愛は手に持った魔石を自分と接続するようにイメージした。


 そして、目の前の空間に向かって魔石を持った手を突き出し、魔弾マジックバレットを放ってみた。


「威力が上がった! …コホン、失礼しました。威力が上がりましたね」


「あの、無理に丁寧に喋らなくても構いませんよ? 少なくとも、今は塔の中に俺と黒羽さんしかいないんですから」


 最初は歩の仮説通りに上手くいったので、望愛は自制心を忘れて素直に喜んで口調がラフになったが、歩の前にいることを思い出して赤面しながら口調を戻した。


 回帰前のことを思い出してみても、望愛はどんな時も口調が丁寧だったから今まで自分の好きなように喋ってもらっていたが、こうして素のリアクションを見てしまうと歩だって望愛に楽な風に喋ってもらいたいと思った。


「いえ、国民の見本になる私が言葉遣いを崩す訳には…」


「じゃあ、切羽詰まった時にその拘りのせいで指示が遅れたらどうするんです? 例えば、右に回避と言えば6文字で済みますが、右に回避して下さいと言えば倍の12文字です。一瞬の隙が命取りになるかもしれないなら、常に言葉遣いを正しくする拘りよりも人命を優先するのが軍人じゃないでしょうか?」


「…そうですね。ううん、そうね。一君、これで良い?」


「ええ。構いませんよ」


 ロジカルに指摘されてしまっては、望愛も無理に丁寧な言葉遣いを続けたりしなかった。


 さん付けから君付けになったので、歩は望愛との心の距離が少し縮まったように感じて微笑んだ。


 しかし、歩が丁寧に喋り続けるので望愛の眉間に皺が寄る。


「ねえ、なんで私だけなの? 一君も口調を崩してよ。これじゃあ私がパワハラしてるみたいじゃない」


「…口調を崩しても大丈夫ですか? 後で軍人にタメ口をきいたからってしょっ引かれません?」


「ふーん、一君は私にしょっ引いてほしいんだ?」


「OK、冗談だよ冗談。塔の中じゃ砕けた感じにする」


 歩が降参のジェスチャーをすれば、望愛はそれで良いんだと言わんばかりに頷いた。


 それから探索を再開してすぐにゴブリンが現れる。


「今度は私の番よ」


 魔石を手に持った望愛は自分が戦うと告げ、ゴブリンめがけて魔弾マジックバレットを発射した。


 素で戦っていた時よりも威力が増していたから、1階層で戦っていた時のようにゴブリンは魔弾マジックバレットを受けて後ろに吹き飛んだ。


「やった! ちゃんと効いてるわ!」


「黒羽さん、まだ倒せてないから油断しないで」


 注意する歩の言葉と同時に後ろに転んだゴブリンが立ち上がり、よくもやってくれたと怒る。


「ゴォブ!」


 キレたゴブリンが棍棒を投げつけるが、望愛はそれを左にジャンプして躱してから魔弾マジックバレットで反撃する。


 二度目の魔弾マジックバレットを喰らえば、ゴブリンももう立ち上がれないようで魔石をドロップして死体が消えた。


「倒したわ! 私が倒したのよ!」


「おめでとう」


 望愛がガッツポーズしているのを見て、歩は微笑みながらパチパチと拍手した。


 自力でこの場のゴブリンを倒せたから、望愛は失いかけていた自信を取り戻せた。


 それでも、望愛は倒したゴブリンの魔石と自分の手に持っている魔石を見比べてあることに気づく。


「私が持ってた魔石の色が薄くなってる」


「そりゃ魔石に内包された魔力を上乗せして魔弾マジックバレットを撃ってるんだから、魔石の中のエネルギーだって消耗するよ」


「あぁ、やっぱりそうなんだぁ」


 望愛も薄々予想していたようで、歩の考えを聞いてやっぱりそうなるかと苦笑した。


「エネルギー保存の法則はファンタジーにも適用されるってことだ」


「ファンタジーなら最後までファンタジーしなさいよ」


「それは誰にクレームを入れれば良いのかわからん」


「だよね。でも、そうなると【攻撃魔法アタックスペル】って効率が悪い気がして来た」


 魔石を使った魔弾マジックバレットで持ち帰れる魔石の数が減ってしまうのなら、今後の探索で自分の存在価値が低くなるのではと思って望愛の表情が曇る。


 歩だってちゃんと望愛を上げて落とすつもりはないから、今伝えられることを伝える。


「黒羽さんの抱える問題を解決する方法は3つ考えられる」


「3つもあるの? 聞かせて」


「どれも即効性はないけどね。1つ目は探索者レベルを上げること。俺の探索者レベルが上がった時に力が漲ったってことは、黒羽さんがレベルアップした時にスキル攻撃の威力は上がると見て良いはず。だから、レベルアップするまでの戦闘は先行投資と考えるべき」


「なるほど。私自身が強くなれば、魔石に頼らないから実入りが増えるってことね」


 呑み込みが早い望愛に対し、歩は頷いてその通りだと答えた。


 1つ目以外にも方法があると歩は言ったため、望愛は残りも教えてほしいと視線で促した。


「2つ目は黒羽さんが肉弾戦でもモンスターを倒せるようになること。これで肉弾戦と【攻撃魔法アタックスペル】の2種類の戦術が選べるようになる」


「やらないよりはやった方が良いけど、【格闘術マーシャルアーツ】を使える探索者と比べたら見劣りしそう」


「それは仕方ないでしょ。3つ目は魔法を強化する杖を開発すること。俺はその辺の技術に詳しい訳じゃないけど、魔石を組み込んだ杖を作ってそのまま魔石を使うよりもエネルギー効率を上げられたら良いよね」


「最後のは希望じゃん。まあ、確かにそうなってくれた方が私としても助かるわ。持ち帰った魔石はそっちの研究に充ててもらおうかな」


 現段階ではまだ希望でしかないが、回帰前には実現した技術であることを歩は知っている。


 歩という特異点のおかげで技術の進歩が速くなるだけで、よっぽどの出来事がない限り実現可能だろう。


「とりあえず、まだまだ塔が現れて色々と情報が足りない状態での仮説だから、もっと情報収集が必要だろうね」


「そうね。まずは、私の探索者レベルを上げないと。ここまで話をしてくれたんだもの。一君は付き合ってくれるよね?」


「そこでお預けするような性格はしてないよ。サクサクレベル上げしよう」


 歩と望愛はゴブリンを見つけては倒し、見つけては倒すのを繰り返した。


 基本は歩がゴブリンをおびき寄せ、望愛が魔石で強化した魔弾マジックバレットでゴブリンを倒した。


 そのおかげで無事に望愛の体が光り出し、探索者レベルが上がったとわかった。


 ゴブリンの魔石を何個か消費してしまったけれど、歩も望愛も今後のことを見据えれば必要な先行投資だと割り切れた。


 それはそれとして、この階層で20体目のゴブリンを倒した場所の先に2人は鉄格子の扉を見つけた。


 (ボス部屋か。何が出るかな)


 ボス部屋の存在を知っている歩は中に何がいるか考えていたが、周囲を警戒していた望愛が歩の肩を叩く。


「一君、やられたわ。囲まれてる」


「ん? あぁ、囲まれてるけど倒せば良いだけでしょ」


 危機的状況だと思っている自分と歩の感覚がズレていたので、望愛はキョトンとしてしまった。

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