第4話 1階層のゴブリンが持つ武器じゃないな

 黒羽と呼ばれた女性が一歩前に出る。


「おはようございます。和国陸軍の黒羽望愛くろばのあです。よろしくお願いします」


「和国大学2年生の一歩にのまえはじめです。こちらこそよろしくお願いします」


「一さんが見つけてくれた鑑定板では、私のスキルは【攻撃魔法アタックスペル】でした。一さんのスキルを教えてもらっても良いでしょうか?」


 (相変わらず律儀だな、望愛さん)


 訊こうと思えば的場から歩の情報を訊ける立場にあるだろうに、前もって的場に訊かず歩に直接質問するあたり、望愛は律儀と言えるのだろう。


 歩は回帰前の望愛を知っていた。


 というより、回帰前の歩は探索者ギルドで望愛にお世話になることが多かった。


 何故なら、望愛は探索者ギルドで受付嬢をしていたからである。


 元々は探索者だったのだが、塔内部での探索が解禁されてから半年で探索中に重傷を負い、共に探索していたパーティーメンバーも全滅する事件があった。


 そのせいで車椅子生活を余儀なくされたものの、正義感の強い望愛は少しでも日本のためになればと探索者ギルドの受付嬢の仕事を買って出たのだ。


 自分が大怪我を負ったからこそ、油断して自分と同じような目に遭う探索者がでないよう声かけするから、望愛は美人だけど口煩いという印象を多くの探索者から抱かれた。


 歩がお世話になった理由だが、助っ人として様々なパーティーに一時的な加入をした後にパーティー同士の勧誘があったり、強引な勧誘等で困っている時に望愛が探索者制度やギルド規則を根拠に歩を助けたのである。


 (こうして見ると元気そうで良かった)


 五体満足で自信に満ちた望愛をぼーっと見ていたせいで、望愛の質問に答えるのが遅れる。


 その様子を見て的場がニヤニヤして口を開く。


「一も男だな。黒羽と喋って緊張したのか?」


「失礼しました。【攻撃魔法アタックスペル】ってことは魔法ですよね? ファンタジーな世の中になって来ましたけど、魔法が存在すると聞いて色々考えて回答が遅れてしまいました。俺のスキルは【武器精通ウエポンマスタリー】です。ただし、メジャー武器は使えない制限があります」


「探索者制度の草案を作るような一さんですから、私に考え付かないようなことを思いついたんでしょうね。それは後で聞かせていただきたいのですが、その前にメジャー武器が使えない制限について質問させて下さい。一さんにはどうしてそんな制限が課せられたのでしょうか?」


 (俺が謎の女性によって回帰させられたからですって言っても答えにはなるまい)


 望愛に真実を伝えても信じてもらえないだろうから、歩は想定していた質問に対する答えを述べる。


「何事も都合良く行くとは限りません。様々な武器を使えるだけでも十分戦略を増やせますから、やれることをやるだけです。制限ということは、塔の探査を進めていく内に解除される可能性もあるかもしれません」


「前向きですね。良いことです。後ろ向きになっても仕方ありませんから。では、早速塔の探索に移りましょう」


 歩の前向きな回答は望愛にとって好印象だったようで、望愛は早く塔に行こうと言って歩を先導した。


 的場は塔の入り口まで歩と望愛を見送り、2人が塔の中に入ってから基地に戻っていく。


 その一方で、歩は塔の内部に入って初めてここが自分のよく知る1階層でないと理解した。


「黒羽さん、なんだかおかしい感じがしませんか?」


「そうですね。私は同僚と一緒に先に中に入りましたが、内装が違うような気がします。ここはなんというか、臭くないですけど下水道みたいな色をしていますね」


 望愛は自身のスキルについて理解を深めるため、和国陸軍の同僚と共に塔の探索をしていた。


 だからこそ、自分達が今いる場所が事前に探索した1階層と違う場所にいると感じられた。


 (これがあの女の言ってた塔の秘密ってやつか?)


 回帰する際に現れた謎の女性の発言を思い出し、歩は自分達がいる階層が通常の1階層ではなく隠された秘密とやらだと判断した。


 内装が1階層と違うのは歩も気づいていたが、塔に入ったことないはずの歩が指摘する訳にもいかなかったので望愛が指摘してくれたことにホッとした。


 望愛が内装の違いについて言及してくれたおかげで、歩が何か言ってもそれは出た情報を基に推論を述べていると言い訳できるようになったからだ。


「黒羽さんが他の軍人の方達と塔に入った時、スキルで攻撃する敵が出たんですよね?」


「出ました。まだ公になっておりませんが、ここでも出会うでしょうから先に伝えておきます。モンスターと遭遇しました」


「モンスターですか。どんな奴だったんですか?」


「暗緑色で禿げ頭の小鬼です。ファンタジー小説が好きな同僚曰く、ゴブリンにそっくりだそうです。結果として、陸軍ではその敵をゴブリンと呼ぶことになりました」


 (1階層はゴブリンが出る。それは回帰前と同じだ。じゃあ、この階層で何が出るか)


 内装の違いからここが1階層ではないと考えているため、歩はどんなモンスターとこの階層で出会うのだろうかと周囲への警戒度合いを一段引き上げた。


 その時、噂をすれば影が差すのか棍棒を持った暗緑色で禿げ頭の小鬼が現れる。


 歩の知る限り、目の前に現れた小鬼はゴブリンに間違いない。


 ただし、通常のゴブリンが持つ棍棒は木製なのに対し、目の前のゴブリンは石製の棍棒を手にしていた。


「1階層のゴブリンが持つ武器じゃないな」


「どういうことですか? 相手はゴブリンじゃないですか?」


「よく見て下さい。棍棒が石製ですよ? オーソドックスなゴブリンと言えば木製の棍棒だと思いますが違いますか?」


「…確かにそうですね。同僚もゴブリンと言えば木製の棍棒だなんて言ってました」


 実際にはそんなことないのかもしれないが、1階層で出て来るゴブリンはいわゆるチュートリアルの敵だ。


 それが木製の棍棒じゃなくて石製の棍棒を握っているのだから、通常ルートよりも殺意が高くてここは1階層じゃないという歩の回帰前の経験を裏付けていた。


 ゴブリンは歩と望愛を見つけ、棍棒を振り上げて駆け出す。


「ゴブゥゥゥ!」


魔弾マジックバレットを撃ちます!」


 望愛が右手を開いて突き出すポーズで魔弾マジックバレットを発射し、ゴブリンの胴体に命中したがゴブリンは全く気にせず走るのを止めない。


「どうして!? 前は吹き飛ばせたのに!」


「普通のゴブリンとは違うってことでしょう。次は俺がやります」


 魔弾マジックバレットが効いていないことに焦る望愛に対し、歩は冷静に夜霧を手に持ってゴブリンに接近する。


「ゴォォォブ!」


 ゴブリンが力いっぱい棍棒を振り下ろすのを躱し、歩は抜刀術の要領でゴブリンを斬る。


 (レベルが落ちても体が覚えてるもんだな)


 回帰したことで探索者レベルが落ちてしまったけれど、最適な動きは体が覚えていたので問題なく抜刀術でゴブリンの首を斬り飛ばせた。


 ゴブリンが力尽きたことにより、その場には魔石だけがドロップして死体は煙のように消えた。


 夜霧の血を払って納刀した後、歩は落ちた魔石を拾う。


 (この魔石、1階層で手に入る代物じゃない。本来は6階層のモンスターが落とす魔石だぞ)


 魔石の種類は回帰前において、低い順から等級で示すと紫<青<緑<黄緑<黄<橙<赤<黒<銀の9色が確認されている。


 それぞれの色で濃度が10段階あり、10階層毎に魔石の色が変わる。


 たった今倒したゴブリンからドロップした魔石は、紫の魔石の中でもかなり濃い色をしていて本来なら6階層でドロップする魔石である。


 望愛が歩に近寄って歩の手に持った魔石を覗き込む。


「私が知ってる魔石よりも色が濃いですね。前に見たものはもっと色の薄い紫色でした」


「であれば、魔石が濃いモンスター程強いのでしょうね。先程の戦闘の様子からして、黒羽さんが戦ったゴブリンはさっき戦った個体より弱かったようですから」


「そうですね。魔弾マジックバレットが命中したら吹き飛びました。さっきの個体だけ特別に強かったのでしょうか?」


「わかりません。何体か戦ってみればわかるはずです。同じぐらい強い個体ばかり出て来るのであれば、ここは黒羽さんが前に入った場所と違う場所だという根拠になります」


 歩の言い分を聞いてその通りだと頷きつつ、望愛は軍人かつ年上の自分が歩より取り乱してどうすると自分の心に言い聞かせた。


 探索を再開して塔の内部を進んで行くと、先程遭遇したのと同程度の強さのゴブリンがおり、倒した時にいずれも6階層にいるモンスターの魔石をドロップしたため、歩と望愛が異常事態に巻き込まれたことが確定した。

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