第3話 ロマンを取るか圧を取るか
帰宅してその日の午後、的場から歩に連絡があった。
その内容は探索者制度の草案を作ってくれないかというものであり、どう考えても軍人が大学2年生に頼む内容ではない。
もっとも、その大学2年生が普通の大学2年生ならばという注釈が付くのだが。
(面倒だけどここは引き受けよう。その貸しはすぐに返してもらうし)
回帰前、歩は助っ人として様々なパーティーに加わった。
その過程で数えきれないぐらいトラブルにも巻き込まれたため、そのトラブルの解決に必要な情報を集めていた結果、探索者制度や探索者ギルドの規則に詳しくなってしまったのだ。
それゆえ、今でも草案程度の完成度で良ければ制度や規則を文字起こしすることぐらい難しくないので、草案をサクサクまとめた。
地星では電子機器が発展しており、家ではパソコンを使って外では画面の付いたスマートウォッチを使う生活が一般的だから、文書を手書きで作成して郵送するなんてことはせず、草案をメールで的場に送った。
メールを送る際に、歩は草案作成を引き受ける代わりに頼みを聞いてほしいと的場に頼んだ。
的場も歩が作った草案はほとんど手直しの要らない仕上がりだったため、できる限りの要求に応じると答えた。
翌朝、歩は和国陸軍の
臣宿という地名は過去の群雄割拠の時代、和国の臣宿基地にある倉庫には値打ち物の武器や変わった武器を保管する倉庫があるのだ。
歩はその倉庫でマイナー武器を探すつもりである。
「よう、昨日はありがとな。事務担当の後輩にあの草案を送ってやったら、今すぐ自分の助手として雇うから紹介してくれって大騒ぎしてたぞ」
「今のところ陸軍に入るつもりはないですね。それよりも、ここに呼んでもらえたってことは俺のお願いを聞いてもらえるってことで良いんですよね?」
「その認識でOKだ。ただ、汎用的な実用性がないマイナー武器を欲するなんてどういうことだ?」
「メールで説明したじゃないですか。俺の会得したスキルは【
奇剣が和国陸軍臣宿基地の倉庫にあることは、回帰前の歩が的場から聞いて知っていた。
奇剣ゆえになかなか使い手がおらず、ただ倉庫に眠ったままなのが忍びないという話を思い出し、歩は今の自分なら申し分なく使えると思って探索者制度の草案の作成の代わりに奇剣を欲した訳だ。
「まあ、使う奴もいねえし埃を被って錆びちまうぐらいなら、塔の探索に役立ててくれた方が作成者も喜ぶだろうよ。じゃあ、こっちだ」
的場の案内で倉庫棟の奇剣の展示室に案内された。
好きに見て良いと言われたため、歩はじっくりと自分が使いたいと思う武器を探し始める。
(なかなか和国では見ない剣ばかりだ)
展示されている奇剣はどれも和国では珍しいものばかりであり、歩は実戦において使いやすい武器かどうか手に取って確かめることにする。
試しにパタという前腕部および拳の表面を装甲が覆い、そこに直刃が取り付けられている剣を手に取ってみる。
【
パタは手に剣を握るのではなく、腕そのものから刃が伸びているという形状だから剣としての威力は大きいし、腕に刃が固定されているので剣を取り落とすということもない。
刺突や斬撃はできるけれど、特殊な形状ゆえに扱いが非常に難しい。
特に手首の自由は完全に失われてしまうから、手首を痛めてしまいやすいだろう。
更に言えば、手首が完全に覆われてしまうため片手が完全に塞がった状態になってしまう。
何かを掴むことはほとんどできず、別の武器に素早く持ち替えるなんてことも容易には行えない。
次に歩が目を留めたのは蛇腹剣だ。
(ロマンがあるじゃないか)
蛇腹剣は刃の部分がワイヤーで繋がれつつ等間隔に分裂し、鞭のように変化する機構を備えた剣である。
剣としての剛性と鞭の柔軟性、節々に分かれた刀身部の切削を鞭の打撃に加えられ、さらに剣と鞭の状態では倍程度間合いに差が出るため、交戦距離を自在に変化させることができる。
取り扱いが難しいけれど、歩には【
蛇腹剣を手に持ってみたら、歩の体は拒絶したりしなかった。
つまり、ロマン武器も使用者が少ないからマイナー武器認定されたことになる。
歩も男子ゆえにロマン武器に憧れた時があったので、蛇腹剣を使えるとわかって少しワクワクした。
もうこれにしようかなと思った時、歩に待ったをかけるように存在感を主張する武器があった。
(あれは…、仕込み杖か?)
圧を感じる方を見れば、そこに展示されているのは黒塗りの仕込み杖が安置されていた。
仕込み杖は仕込み刀の一種として知られており、刀剣を杖に擬装した暗器である。
仕込み刀系全般に言えることなのだが、抜刀していないと武器だとわからないぐらいには隠蔽性が高い。
和国において仕込み杖は、群雄割拠の時代を終わらせた将軍が治めた世の中で帯刀を認められなかった者達が刀の代用品として使用していた。
やがて市民が武器を持たなくても良い程に治安が良くなり、法律によって武器が市民から取り上げられた時に刀を手放したくないとごねた者達がお守り代わりに持っていた。
また、隠蔽性が高いことを活かして裏社会の人間が使うこともあると言われている。
現に回帰前では、和国の裏社会に仕込み杖の達人もいたことを歩は思い出した。
(待って。この仕込み杖って切り裂き老師が使ってた
仕込み杖に銘があるのは、歩の回帰前の経験において後にも先にも夜霧だけだった。
夜霧は元々そういう名前だったのではなく、切り裂き老師がモンスターを倒しまくって変質してしまった仕込み杖の様子から名付けられた。
塔では様々なアイテムが手に入るが、ごく稀に外部から塔に持ち込んだ物が条件を満たすことで塔で手に入るアイテムと遜色ない物に変質するケースがあった。
変質後に夜霧と名付けられた仕込み杖は、斬った対象を黒い霧に分解して刃に取り込むようになった。
黒い霧を取り込めば取り込むだけ、夜霧の刃は鋭くなるし副次的効果で外装も硬くなるから杖の状態でも鈍器として使える。
(切り裂き老師の手に夜霧が渡るのは困る。蛇腹剣じゃなくて夜霧を選ぶか?)
蛇腹剣を元の場所に戻して歩が夜霧を手に取れば、夜霧が自分を使えと訴えるかのように圧を強める。
塔の中で変質していないはずなのに、これだけの圧を放てるのは製作者が込めたであろう念が強いのかもしれない。
(ロマンを取るか圧を取るか)
悩んだ結果、歩は
的場は歩が夜霧を選んだと判断して声をかける。
「その仕込み杖に決めたのか?」
「はい。蛇腹剣も悩みましたが、この仕込み杖から自分を使えって圧を感じた気がするので」
「【
「そうですね。武器の声が聞こえた訳じゃありません。あくまで圧を感じただけです」
武器の声が聞こえるなんて言い出したら、スキルが覚醒したとしても頭に何か異常が発生したのではと心配になるので、的場は歩がその領域に至っていないと知ってホッとした。
仕込み杖を譲り受けるための手続きを済ませ、歩は夜霧を自分の物にできた。
「それで、このまま塔に挑むのか?」
「挑みます。それが探索者制度の草案を作成と引き換えに頼んだ2つ目の対価ですから」
「そうか。じゃあ、塔の中に入ることは俺の責任において許可しよう。ただし、条件を付けさせてもらう」
「条件?」
的場のことだから、更に自分に対して何か面倒な頼み事をしようという訳ではないだろう。
そう判断してどんな条件を付けるのかと先を促せば、的場は展示室の外で待機していた女性軍人を招き入れる。
「一、お前の探索に
(要は監視ってことか。まあ、監視されてもしょうがないか)
武器を携帯しているとはいえ、和国陸軍として大学生を単独でよく中についてわかっていない塔の探索をさせる訳にはいかないだろう。
何かあった時に説明責任を果たせるようにする措置として、的場は自分の信頼できる軍人を歩に同行させて塔の内部で起きたことを把握しておこうと考えている。
「わかりました」
ここで嫌だと言っても仕方ないから、歩は的場の出した条件を受け入れた。
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