第17話
第17話。
イ・ウチャン巡査長は看護師、国科捜査のキムチーム長との通話内容、そして自分の考えを整理してチョ・ビョンゴル警部補に話した。チョ・ビョンゴル警部補もイ・ウチャン巡査長の話を聞いて捜査の方向を殺害の証拠探しに集中すべきだと意見が一致した。
「死体がないのが一番の問題だ。 普通の殺人事件なら死体の解剖をして犯行時間や犯行道具、そして死因を把握することができるが、今回の事件は犯行道具が特定できず死体はすでに火葬されている。」
「そうですね。犯行道具としては毒物で殺害したものと思われますが証拠がないんですよね。 看護師さんからの情報で状況的にそうだということで病院に運ばれた時の写真でもあれば証拠になるんですけどね。」
「看護師の情報を聞いて救急室にチョ・エソンが、いや、状況からしてそれがチョ・エソンではなくジョン・ファジョンなんだろうな。」
「そうですね。自分と年齢や体格が似ている女性のホームレスを殺して、自分が死んだように状況を作り自分名義で加入した死亡保険金を巻き上げたのです。」
「状況からして保険金詐欺だ。 証拠を探さなきゃいけない。」
「火葬したのなら遺灰を入れた壺はどこに捨てたのでしょうか。」
「山奥のどこかに灰だけバラまいて壺も一緒に捨てたか。それとも家に保管したか。」
「殺人事件の場合、犯行道具や決定的な証拠品は人通りの少ない場所に捨てることもありますが、後で誰かに発見されることを恐れて自分の家に隠しておくということもよくあります。 例えば自宅の庭の花壇の土の中に犯行道具だった包丁を埋めるとか。 実際にそういうケースもありましたよね。」
「そうだな。犯人の傾向によって人通りの少ない場所に証拠を捨てる奴、自分の知っている場所や家のどこかに隠す奴。大きく2つに分けられる。」
「では、まずはチョ・エソンの実家をくまなく調べてみるのはどうでしょう?」
「そうしよう。その神堂とやらとその近くを捜索してみよう。」
「捜索令状はどうしましょうか?」
「今の段階では我々が確保した物的証拠はないだろう。だからといってじっとしているわけにはいかない。とりあえず聞慶のムドンバウィゴルに向かおう。」
「ところでチョ・エソンのインターネットの検索記録はまだ調べてないんですよね?」
「それも一緒に探そう。」
刑事2班はチョ・エソンの住民番号で登録されたポータルサイトのIDを把握し、最近1年以内のインターネット検索履歴を調べた。様々な検索語が出てきた。グルメ、映画おすすめ、トッポッキの名店、弘大の服屋、死亡届、葬儀手続き、青酸カリ、毒キノコ、保険特例条件、死亡保険などが出てきた。検索語リストを見ると、犯罪の意図が見え隠れする。
「検索ワードが物語っているようですね。」
「殺意があったのは間違いないね。」
「聞慶の看護師さんが教えてくれた内容と一致する部分がありますね。 青酸カリ、毒キノコ。」
「徹底的に計画を立てたんだな。早く動こう。捜索記録で逮捕状を出してチョ・エソンの実家を捜索する。」
刑事2班は逮捕状が発行された後、聞慶に向かった。家宅捜索のため他のチームから人員支援を受け、2台の車で計8人が出動した。
家宅捜索は一から十まで隅々まで調べなければならない。前庭の土の中まで掘らなければならない。チョ・ビョンゴル警部補はカン・ソンファの海龍神堂を捜索すれば証拠が見つかると確信していた。ムドンバウィゴルに到着し駐車して海龍神堂の方向へ向かっていると、遠くに見える占い館の旗が寂しく揺れていた。
「怖そうな奴らが群れをなして井戸の方に向かっていくぞ。何かあったのかな。ただならぬ雰囲気だ。」
「確かに。凶悪犯には見えんが、私服警官たちじゃないか?」
「うわー。こんな静かなど田舎で何事だよ。」
スーパー前の平台に座って将棋を打っていた老人たちが心配そうな目で警察官たちを眺めていた。
海龍神堂の近くまで来たが何の音も聞こえず静かだった。カン・ソンファ1人で住んでいるのでどこかに出かけたのだろうかと思った。 出動した8人の警察官は、家の隅々を見始めた。キッチンの生活用品を見ると食器にほこりが積もっており、シンクには水も流れていなかった。
「雰囲気からして何日か前から留守にしているようですね。」
「流し台に水滴が一つもない。隣の家に行って、カン・ソンファがいつから留守にしているか誰か行って聞いてみてくれ。」
1人の警察官が隣の家に行って聞いてきた。
「留守にして2、3日経ったようです。」
「もう既にどこかに逃げたんじゃないのか!?」
「そのようです。」
「とりあえずここまで来たんだし、捜索を始めよう。」
大きな部屋に入ると壁には様々な絵が描かれていた。大きな青龍刀を持っている目がギョロっとした長老、白く長い眉毛と長い髭を生やした老人と髭を生やした子供たち、紫と赤で彩色された鬼、大きな池の上の蓮の花と青い鳥の姿など、見ていると不思議な気分になる絵だった。
絵の下には左右に細長い2階建ての祭壇があり、2階の祭壇の上には仏像、韓服を着た女性、白馬に乗った将軍、長髪で可愛いらしい女の子の人形があった。1階の祭壇には両側に長い燭台があり、真ん中には暗い銅色の大きな香炉があった。
庭から各部屋に分かれて捜索を開始しクローゼットの引き出しを片っ端から開け、引き出しの奥の空間まで腕を伸ばしてくまなく調べた。家の隅々まで捜索して2時間ほど経ったが、殺害の証拠となるようなものは見つからなかった。
最後に庭にある花壇に行った。花壇は横5m縦3mくらいの大きさだった。シャベルを持ち花壇を掘り始めた。シャベルで花壇のあちこちを入念に掘り続け30分が過ぎた。シャベルの先に何かが引っかかる感じがした。ポンポン叩いてみると、木製の箱のようだった。箱を中心に周りの土を掘り起こし、箱を取り出した。桐の箱にこげ茶色の紐で十字架状にリボンで結ばれていた。紐をほどき箱を開けた。
白色の骨壺が入っていた。骨壺を見て全員が驚いた。花壇の中にしっかりと骨壷を隠しているところを見ると、きっと何か隠したいものがあったに違いない。チョ・ビョンゴル警部補が慎重に骨壺を取り出した。
「あれ。なんだか軽いな。」
「とりあえず蓋を開けてみてください。」
蓋を開けると、骨壷の中は空っぽだった。火葬後の遺骨をすでに捨てていたのだ。
「なんだ、遺灰はどこへ行ってしまったんだ。」
「待ってください。でも遺灰は骨壷の底にほんの少し残っていますよ。」
「うん。これでも充分な証拠だ。蓋を閉めて慎重に運んでくれ。」
「はい。」
「それはそうと、他に何か証拠はなかったか?」
「これといって証拠になるようなものはありませんでした。」
「探した物の中に何か証拠になりそうなものはないか、もう一度よく考えてみろ。何気なく見過ごす可能性もあるからな。こういう時は鷹の目を持つんだよ。何もないか?」
「あっそうだ。祭壇に置いてあるものの中に、ちょっとおかしなものが1つあったんです。」
「何だ?」
「祭壇の上に仏像と韓服を着た女性、それと馬に乗った将軍が置いてあったんですが、その間に長髪の女の子の人形が1体あるんです。 ちょっと変だなと思って。」
「人形? なんか合ってないよな。一緒に見に行こう。」
警察官たちは祭壇のある部屋に向かった。祭壇の上に黒い長い髪の人形が置かれていた。チョ・ビョンゴル警部補は人形をよく見て、髪を触ってみた。
「この人形の髪の毛の感触も色も、本物の人間の髪の毛のようだ。触ってみろ。」
「はい。私が姪っ子に買ってあげた普通の人形は確かとても薄くて軽いふわふわとした感じなんですが、この人形の髪は本物の人間の髪の毛みたいですね。」
「ちょっと待てよ。人の髪の毛って片手で束をギュッと持って指2本で一方向に撫でると、一方向はサラサラととかせる感じになるが、逆方向に撫でるとちょっと引っかかる感じがするんだよな。髪のキューティクルが一方向に生成されてるからな。俺がもう一度触ってみるよ。」
チョ・ビョンゴル警部補は人形の髪をピンと張った後、指で撫でながら触ってみた。
「これを見てみろ。俺が言った通りだ。 この方向はさらさらととかせるが、逆方向は少し引っ掛かる。ナイロン製の人形の髪の毛はこうはならないんだ」。
「私も触ってみます。 あっ本当にチョチーム長の言う通りです。片側はさらさらなのに反対方向は少し引っかかりますね。」
「これ、人間の髪の毛だよ。」
「でも人形を祭壇の上に置いて下には香炉を置くって、何か儀式みたいなことをしたんじゃないかと思うんです。 祭壇の真ん中に人形がちょうど置かれているんですよね。」
「そうか、言われてみると確かにそうだな。真ん中だから....... この人形に何か意味を持たせたようだ。この人形の髪も証拠として採用しよう。」
人形そのものを持って行かず、髪の毛の一部だけを切り取った。刑事チームは銀平警察署に戻った。
「遠方まで行って土掘って隅々まで捜索してみんな大変だったな。とりあえず骨壷と人形の髪を国科捜研にDNA鑑定を依頼しておいてくれ。」
「チョチーム長、チョ・エソンの場合は婚約者のイ・ソクユンからもらった髪の毛のサンプルがありましたよね?」
「ああ、あれは前に髪をもらった直後に国科捜研に送っておいたよ。」
「ではジョン・ファジョンのDNAサンプルはどうやって採取するんですか?」
「釜山にある女性保護施設にジョン・ファジョンが荷物とか置いていったものがあるかどうか確認してみよう。俺が調べてみるよ。」
チョ・ビョンゴル警部補は、聞慶市にあるチョ・エソンの実家で家宅捜索は成功したと安堵した。 あんなに深く埋めておいた骨壷が決定的な証拠だ。犯罪者は証拠となるものを人気のない遠くの山に埋めることもあるが、自分がいつでも確認できる家や家の近くに隠すこともある。誰かに知らぬ間に後で発見されることを恐れている場合である。女性シェルターからジョン・ファジョンのDNAを採取できるものを何としても出さなければならない。チョ・ビョンゴル警部補は女性シェルターに電話した。
「もしもし。先日伺ったソウル警察の者です。」
「はい、こんにちは。」
電話の声は、女性シェルターに訪問した時に話を聞いた職員の声だった。
「確認したいことがあって電話しました。」
「はい、何でしょうか?」
「ジョン・ファジョンさんが女性シェルターを出るときに何か荷物など残したものはありませんでしたか?」
「荷物なら手提げ袋を一つ置いていってますね。」
「あ!あるんですね。ではそのカバンは保管されていますか?」
「はい。保管しています。」
「分かりました。では私が再度お伺いします。」
チョ・ビョンゴル警部補はすぐに釜山に行く準備をした。1人で行くつもりだ。荷物の中にジョン・ファジョンのDNAを採取できるものがあることを期待していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます