第5話 長引く戦い

栄介は最初、

弁護士を立てないで離婚調停を進めると、

言ってきた。

ワタシから離婚を申し立てたことは、

栄介にとっては想定外、予想外、

そして途轍もない怒りを買ったことだろう。

めんどくせぇことしやがって。

おまえのような、分際で。


ワタシと栄介の2人だけの話し合いなんて

まともにできたことが

かつて今まで一度かあったであろうか。

話し合い、なんてならないのだ。

ワタシが意見を述べたところで、

聞くことは、そもそも無い。

受け入れる、なんてある訳がないし、

聞き入れることも、もちろん無い。

とくに金銭的問題については、

一方的に栄介の都合の良いように、

勝手にされてきた。

稼いだのは俺なんだから、

俺の好きなようにする。


怒鳴られて、怖いから言葉を飲み込んで、

面倒だから栄介の良いようにさせるだけ。

カネは俺が稼いだ。

俺が管理して、好きなように使うのは当たり前。

何もしていないワタシには何の権利も無い。

話し合いも何もならないのだ。


そうさせないために。

自分勝手にさせないように。

第三者の弁護士を立てることにした。

なぜなら、

夫婦共有財産という権利があるのだから。


弁護士を立てて

第三者に間に立って貰い、

話し合うことにしたのだ。

ワタシが

ワタシが弁護士を立ててくるなんて

想像もしていなかっただろう。

そんな手段に出るわけがない。

ワタシをバカにしていたに違いない。


だが調停は思いの外、難航した。

こちらの主張は、

栄介の暴力が発端となり、別居に至った。

結婚生活において怒鳴られたり

精神的に抑圧され、

結婚生活を維持することは難しいと。


それに対して、

栄介は嘘の主張を繰り返してきた。

暴力は一度だけ。

栄介が暴言を吐いた次の日、

謝罪の意味を込めてワタシにさせた買物を。

ワタシの浪費だと言い出した。

しかも2人でした買物、栄介の買物、

クレジットカードで購入した物全て、

ワタシが使った金額として計上してきた。

栄介自身が手続してワタシに持たせた、

家族会員のクレジットカードすらも

浪費の証拠に出してきた。


食事も作らず掃除もしない家事放棄をしていたと虚偽の主張を繰り返した。

そして毎晩、盛りのついた犬のように

ワタシを求めたのは栄介なのに、

性交渉を拒まれたと嘘の証言を繰り返す。

ハゲの薬を飲んでから、

男性ホルモンが減少して性欲が無くなったと

自分で吹聴していたのは、

一体誰なのだろう、呆れる。

暴力は一度でも暴力。

ワタシはそう反論してやった。


何度も何度も同じ主張を

狂ったように繰り返し、

何度も同じ調停が行われた。

何度無駄な調停を繰り返すのですかと、

ワタシは弁護士に幾度となく尋ねた。

しても無駄な主張、

つまり裁判に影響しない主張は

何度しても意味が無いとワタシは言われていた。

だから実際言われた暴言や行動も、

証拠が残っていなければ認められない為、

それは供述しても無駄だと何度も却下された。

それをむこうは何度も何度も

無駄な主張を繰り返すのだ。

嘘や虚偽をあまりにも繰り返し、

ワタシの印象を悪くする為だけの

印象操作なのであれば、

たとえ事実でなかったとしても

裁判官に悪印象を与えてしまうのではと、

とても不安にかられた。

弁護士も、

相手側の弁護士の対応に呆れ果てていた。

まったくやる気が見られないと。

想像するに、

被告が言うことを聞かないから

好きなように素人考えで暴走させ、

結果がどうなろうと

思うようにさせているのでしょうと。


執拗にワタシに浪費癖があり、

生活費を逼迫させるほど買物に明け暮れていた。

と虚偽の主張をして、

今まで使った膨大な枚数の

クレジットカードの明細を提出してきた。

それは秘密のものではなく、

あくまで"栄介"の許可を得た物である。

「私一人で使ったものではありません。

夫の分も買いましたし、

かなり裕福な生活をしていたので

贅沢をさせて貰いました。

それについては感謝しています」

ワタシも同じ主張を繰り返した。


栄介は個人の資産と会社の資産を混同し、

そして開示すべき財産開示を拒否した。

最後まで資産開示をせず、

離婚裁判に持ち込まれた。


離婚裁判の一審判決で、

被告が財産の開示を拒否した為、

原告側が提出した書類から

財産分与を試算すると判決が下りた。

財産分与の金額は一億二千万円と出た。

その判決が下りるまで5年かかった。


そして、

栄介はその判決を不服として控訴してきた為、

そこから数ヶ月まだ判決に時間を要した。


栄介が財産の開示を拒否した為、

と判決が下りたので栄介は、

会社の会計書類を提出してきた。

素人目から見ても、

あまりにも出鱈目に操作されたと

わかる嘘に包まれた虚偽の数字が

そこには並んでいた。


証拠として提出する為、

税理士に依頼して不正である指摘を依頼した。

会社の資産を隠蔽する為に操作した不正な数字は、出資金一億円という謎の科目にすり替えられ、数字を合わせるために異常に吊り上げられた経費や雑費。

明らかに素人が操作したであろう会計書類を、

栄介は正式な書類として提出してきた。

虚偽の書類であるにしても、

もっとバレないようなまともな書類を

提出すれば良いものを、と

敵ながら呆れた。


栄介側の控訴は棄却され、

一審判決通りの判決が下りた。

栄介が執拗に虚偽の主張をしたワタシの度重なる過剰な浪費癖は認められなかった。

1対9の割合でワタシ側の主張が認められ、

慰謝料50万円、財産分与1億2千万円という

内容で判決は下された。


その判決にも栄介は不服として上告してきた。

最高裁にまで及ぶことになり、

離婚裁判は6年強の歳月を費した。





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