第16話 蛇ドリルの猛攻


王の間。

ズワルトは玉座に座っている。友成は透明マントを被って、身体を透明化している。


ベナフドラからしたら、ズワルトしか居ないと思うだろう。


扉が開き、ちょび髭で低身長で小太りの中年男性が入ってきた。


あれがアーティ・ラナンキュラス大臣に化けたベナフドラに違いない。


「ズワルト国王。どうなされましたか?」

「私は魔物に屈するのを止める」


ズワルトは言い切った。


「何をおっしゃってるんですか。魔物の言う事を聞かないと今以上に民は苦しみますよ」

「これ以上民を苦しめない為だ」


「馬鹿な事をおっしゃらないでください」

「馬鹿な事? 私は至って真面目だ。アーティ・ラナンキュラス大臣。いや、ベナフドラ」


「はぁい?」

今だ。


友成はアーティ大臣に短剣を投げた。

「短剣。誰が居るのか」


アーティ大臣は短剣を素手でキャッチしてから、睨みながら周りを見る。


やっぱり、ヴァイルドの言う通り、ベナフドラだな。

普通の人間だったらあんな反応出来ない。出来るとしたら避けるぐらいだろう。


「ここにいます。勇者がね」


友成は透明マントを脱いで、煽るように言った。


「貴様が王をはぐらかせたのか?」

「いや、違うね。王に真実を知ってもらっただけさ」


「真実?」

「あぁ。古文書が改変されていた事さ」


「……なるほど、知ってしまったか。それなら、ここで死んでもらわないとな」


アーティ大臣からどんどん姿を変えていく。その変わっていく過程はグロテスクでしかない。


もし、これが正規で販売されるゲームだとしたら、このシーンの為だけのせいでレーティングが一つ上がるに違いない。


アーティ大臣は9本の首を持つ紫色の大蛇・ベナフドラに姿を変えた。ベナフドラの頭上に表示されているレベルは92。今まで戦ってきたどの守護獣よりも高い。


「姿を現したな。化け物め」

「さて、どう調理してやろうか」


「国王、下の部屋で隠れてください。俺がこいつを絶対に倒すんで」


「わ、わかった」

ズワルトは玉座をスライドさせた。 


「死ねぇ」

ベナフドラの中央の首が階段を下りようとしているズワルトを襲おうとする。


「まずは一本目」

友成は装備していた灰炎の剣でベナフドラの首を斬り落とした。


「貴様ぁぁぁ」

ベナフドラは痛み悶えている。


「さぁ、早く」

友成はズワルトが階段を下りきったのを確認して、玉座を元の位置に戻す。


よし、これで心置きなく戦える。

「殺してやる、殺してやる」


ベナフドラのそれぞれの首が違う属性攻撃を放ってきた。

「ちょ、ちょい。それはずるいだろ」


友成は最小限の動きで避けながらベナフドラに近づいていく。


ベナフドラは攻撃のタイミングを速めていく。


ちょ、ちょっと待て。こいつだけ他の守護獣より難易度が高すぎるって。

避けた次の瞬間には攻撃が来る。マジで最小限の動きで避けないと近づけないじゃねーか。クリアさせる気ないだろ。


友成はベナフドラの前に辿り着いた。


ベナフドラの首8本が同時に襲ってくる。

「ぜ、前進あるのみ」


それしか避ける方法がない。 

友成は全力でジャンプして、ベナフドラの背中に周り込んだ。


チャ、チャンスだ。この隙に斬り落としてやる。

ベナフドラの8本の首は床に直撃して、痛みで暴れている。

友成は灰炎の剣でベナフドラに首を立て続けに4本斬り落とした。


よし、これであと4本。

ベナフドラは残りの4本が床を思いっきり叩きつけて、天井近くまで跳ねた。


「なんだよ、それ。跳ねすぎだろ」


空中に浮いているベナフドラは首同士が絡まり合い回転して、友成を襲ってくる。


「蛇ドリルってあり?」


友成はベナフドラの攻撃を避ける。すると、ベナフドラの首が床を貫いていく。


破壊力やばいって。当たれば即死じゃねぇか。


でも、ちょっと待てよ。下の階からズワルトの居る隠し部屋の方に同じ要領で蛇ドリルされるとやばくねぇーか。


友成はベナフドラの攻撃で出来た穴から下階に向かう。すると、待っていましたと言わんばかりのタイミングでベナフドラが斜め下から回転攻撃を仕掛けてきた。


「こいつ、俺がこうすると見越してやりやがったな」


避けるか。避けれるのは避ける。だけど、避けるだけなら次にまた同じ事をされる。だから、ここで決めるしかない。

ベナフドラがすぐ目の前で来ている。

集中しろ。集中するんだ。チャンスは一瞬しかない。


友成はベナフドラの攻撃が当たる寸前で横に避ける。そして、灰炎の剣でベナフドラの4本の首を根っこから斬り落とした。

危なかった。あともう少しでゲームオーバーだった。でも、ちょっと待てよ。このままだったら床に直撃じゃねーか。


友成はメニュー画面を即座に表示して、召喚杖を選び。杖を振る。すると、インディハルピが現れた。

インディハルピの羽根は生え戻っている。


「どうかした? 主人」

「ヘルプ」

「OK。なるほど。モクゲル」


インディハルピは友成に魔法を放つ。すると、友成の背中に翼が生えた。


友成の身体は落下せずに宙に浮いたまま。


「翼が生えた」

「モクゲルは10秒だけ対象相手に翼を付与する魔法なの」


「そんな魔法知らないぞ」

魔法のリストにあれば使っていた。しかし、見覚えがない。


「だって、私固有の魔法なんだもん」

「なるほど」


それなら仕方がないか。知らなくても。


「10秒だけだから早く床に降りて」

「わかった」


友成とインディハルピは床に降りた。

「助かった」

「主人の為なら頑張るからいつでも呼んでね」

「おう」


友成は召喚杖を振る。すると、インディハルピは召喚杖に填めている召喚石に戻った。


「危なかった」

死ぬかと思った。マジでヤバかった。


「大丈夫か」

友成の身体の中にいるヴァイルドが心配そうに訊ねる。

「大丈夫。なんとか大丈夫」

「それならよかった。これで守護獣は全員倒したな」


ヴァイルドの言う通りだ。これで魔王ラズルメルテに挑む事が出来る。


「まぁな。厳密に言えば一体は仲間にしたけどな」

「そうだな」 


「そうだ。ベナフドラを倒した事をズワルト国王に報告しないと」

友成は扉を開けて、上階の王の間へ向かう。






王の間。ベナフドラの戦闘の際に破壊された壁や床は穴が空いたままの状態。今後直していくのだろう。

「グレイ、感謝する」

玉座に座るズワルトは言った。


「勇者の勤めですから」

「これからノワールを助けに行くのか?」


「はい。そのつもりです」

「そうか。それなら、その前に受け取って欲しいものがある」


「なんでしょうか」

「白炎シリーズの剣と盾と鎧を」


「……白炎シリーズ」

「ノワールの結婚相手を決める殺し合いで負けたヴァイルドから取り上げたものだ」


「……そうですか」

「私は取り返しのつかない事をしてしまった。私のせいで彼は死んでしまった。そして、身体は魔王ラズルメルテの器になってしまった」


「ズワルト国王。ヴァイルドは死んでません。ヴァイルドの魂は俺の身体の中にいます。この会話も聞いてます」

「本当なのか」


「はい。今でも貴方をこの国の事をノワールの事を思っています」

「……そうなのか。ヴァイルド、愚かな国王を許してくれとは言わぬ。だが、謝罪をさせてほしい。すまぬ、すまなかった」


ズワルトは玉座から降りて、土下座をした。

「……国王」


友成の身体の中にいるヴァイルドは泣いていた。

「国王、顔を上げてください」 


友成は屈んで、ズワルトの肩に手を置く。

ズワルトは顔をゆっくり上げる。顔は涙でくしゃくしゃになっている。


「グレイ」

「ノワール姫とヴァイルドをここに必ず連れてきます。その時に二人に謝ってください。お願いします」

「……あぁ、あぁ」


ズワルトは首を何度も縦に振る。


「ありがとう。ありがとう」


友成の身体の中にいるヴァイルドが言う。

頑張らないといけないな。気合いを入れなおさないと。







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