第17話 黒雪姫物語

「すみません。これで」

財櫃はメモリー・パラダイスの正面入場ゲートに居るスタッフに学生証を渡す。


「お預かりしますね」


スタッフは財櫃の学生証を確認している。

アルラウドアカデミーの生徒は学生証を提示すれば無料で入場出来る。


「確認完了しました。それではお楽しみくださいませ。いってらっしゃい」とスタッフは財櫃に学生証を返した。


財櫃は正面入場ゲートを通り、園内に入る。

園内には夏休みの影響か親子連れやカップルなどが多い。


園内は様々なエリアに分かれており、図書館があるのはヒストリー・エリア。


財櫃はヒストリー・エリアに向かう。


最近は来てないから知らないアトラクション増えてる。それにどのアトラクションも人が並んでる。

「財櫃真珠ちゃん。今、この中央区に居るかもよ」

「まじ?」


ベンチで座って休憩してるカップルが話している。

財櫃は自身の名前が聞いて反応しかけた。

危ない。平常心平常心。普通でいるんだ、私。


「ほら、この動画見てよ。真珠ちゃん、大勢のファンに追いかけられてる」


女性が男性の空中に表示させたロクスウォッチの画面を見せた。

「やばいな。でも、これよくねぇよ。盗撮じゃん」

「た、たしかに。盗撮だね。よくないね」


「なぁ。有名人にもプライベートはあるからな」

「うん、言えてる」


女性は空中に表示させたロクスウォッチの画面を閉じた。


何このカップルいい人達。そう思ってくれる人達が増えてくれると嬉しい。最近はレッスンに行く時と実家に帰る時以外、東区から出てないな。たまには何も考えず街を歩きたいな。


財櫃は歩く速度を早めた。


 



ヒストリー・エリア。


響野祥雲記念館や図書館やレトロゲーム博物館などゲームの歴史が知る事が出来る施設があるエリア。


エリア中央にある響野祥雲記念館には響野祥雲の遺品やパッケージ版のソフトやゲーム制作やそれ以外の分野で表彰された時のトロフィーや盾などが展示されている。そして、記念館内では響野祥雲が作ったソフトのグッズなどが売られている。


財櫃はエリア最奥にある図書館に向かう。


図書館は10階建てで、メモリー・パラダイスにある建築物の中では一番大きい。


財櫃は図書館の中に入る。そして、エレベーターに乗り、響野祥雲に関する本が置かれている7階に向かう。


さぁ、『ブラックスノウ・ファンタジー』に繋がりそうな事を探すぞ。


エレベーターが7階で止まり、ドアが自動で開く。

財櫃はエレベーターから降りた。


7階は響野祥雲に関するもの以外は何も置いていない。


ラッキー。人は少ない。周りを気にせずに調べられる。


財櫃はインタビュー記事が纏めれた資料があるコーナーへ向かう。


インタビュー記事は仮想空間ロクスでは読めない。なぜなら、ほとんどのものが著者が亡くなってから100年以上経っているから。法律で著者が亡くなってから100年経てば仮想空間ロクス内では閲覧禁止になり、紙媒体で保存されたものだけ閲覧可能になる。理由は仮想空間ロクス内で内容を書き換えて捏造するのを防ぐ為。


読めるのは現実世界のここだけ。そして、持ち出す事は出来ない。


ネットがどれだけ発展しても、紙媒体は必要だと思う。やっぱり、現実で触れた物の方が記憶に残りやすい。だって、もともとはこの世にネットなんてなかったんだし。


財櫃はインタビュー記事の資料が綴じられているファイルを何冊か手に取り、読書スペースに持って行く。そして、読書スペースにあるテーブルの上に資料を置き、椅子に座る。


なんか、久しぶりに座れた気がする。走って逃げたりしてたから急に眠気が襲ってくる。


でも、駄目よ、寝ちゃったら。『ブラックスノウ・ファンタジー』の事を調べないと。なぎはほとんど寝てないんだから。私が今寝たらただの役立たずだ。それだけは嫌だ。


財櫃は頬を叩き、気合いを入れた。


痛い。力入れすぎた。涙ちょっと出てきた。でも、これで眠気はなくなった。


財櫃はファイルを開けて、インタビュー記事を読んでいく。

『ブラックスノウ・ファンタジー』はどの時期に作ったものなんだろう。それが分かるだけでも違うんだけどな。


だって、他のゲームクリエイターの何百倍もの作品を生み出してるから、インタビュー記事も桁が違う。


財櫃は持って来たファイルに綴じられているインタビュー記事を全て読み終えた。


雪のワードさえ出てこなかった。まぁ、根気よく調べるしかない。


財櫃はテーブル上のファイルを全て手に取り、椅子から立ち上がり、インタビュー記事コーナーに向かう。


遊の奴ちゃんと攻略出来てるのかな。まぁ、あいつの事だから心配しなくても大丈夫か。


財櫃はインタビュー記事の棚にファイルを全て戻して、他のファイル数冊を手に取る。その後、読書スペースに戻り、テーブル前の椅子に腰掛けて、ファイルに綴じられているインタビュー記事を読む。





財櫃はファイルを閉じた。


これにも何も『ブラックスノウ・ファンタジー』に繋がりそう事は何も載ってない。

ちょっとぐらい情報あってもいいじゃん。


財櫃は壁に設置されている時計を見た。時計は15時12分を表示していた。


え、調べ始めてから1時間ぐらい経ってるじゃん。


どうしよう。ちょっと、いや、だいぶ焦ってきた。

財櫃はテーブル上のファイルを全て持って、インタビュー記事コーナーへ向かう。


調べる方法変えるべき? でも、ヒントが何もないし。地道に調べるしかないのかな。


財櫃はインタビュー記事のコーナーの本棚にファイルを戻す。そして、新たなファイルを取り出そうとした。すると、一冊のファイルが床に開いて落ちた。


やばい。もう少し丁寧に扱わないと。


財櫃は落としたファイルを拾おうと屈む。そして、落としたファイルの開いているページを目にする。 

そのページには『プリンセス・ラブストーリーズ』のインタビュー記事が載っている。


『プリンセス・ラブストーリーズ』

財櫃はページを開いたままファイルを手に取り、立ち上がる。そして、そのままインタビューを読む。

このゲームってなぎが最近やってゲームだ。


たしか、容量的にシナリオがもう一つ存在するはずって言ってた。


「え? なにこれ」


財櫃は気になる記事を見つけた。


「最初は違う作品と連動出来るように作ってたんですけど諦めました」と、響野祥雲が答えている。

「何でですか?」


記者が訊ねている。


「没にしたからですよね」

「没にしちゃったんですが。勿体無い。その没作品教えてくださいよ。ファンは没作品も気になるんですよ」


「仕方ないな。仮タイトルは『黒雪姫物語』」

黒雪姫物語って、もしかして、ブラックスノウ・ファンタジーの事じゃ。


「『黒雪姫物語』。どんな内容のゲームなんですか?」


「二人の勇者が魔王に拐われた姫を助けに行く物語です」

「面白そうじゃないですか」


「いや、あまりにも普通の作品になっちゃたんですよ。一応、エンディングまで作ったんですけど面白くなくて。それで色々と試したんです。勇者同士に姫の結婚相手を決める為に戦わせたり、その戦いに負けた勇者の身体を魔王が乗っ取るとかね。そうしたら、落とし所が分からなくなって没にしちゃいました」


「それはひどいですよ」

「そうですよね」


インタビュー記事はこの後も続いていたが気になる箇所はここまでだった。


財櫃はファイルをゆっくり閉じて、本棚に戻した。

響野祥雲のインタビュー内容からして、『黒雪姫物語』は『ブラックスノウ・ファンタジー』で間違いない。そして、『プリンセス・ラブストーリーズ』と連動させようとしていた。


これは収穫だ。なぎさラボに戻らないと。










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