第15話 古文書の真実
ズワルトは鉄格子の部屋の前で止まった。友成も止まる。
鉄格子の間からは本棚や宝箱や剣などが入った壺などがあり、中央にはテーブルと椅子が2脚置かれている。
この中に古文書があるのか。
ズワルトは鍵を開けて、部屋の中に入っていく。友成も部屋の中に入る。
「古文書を」
友成は言う。
ズワルトは頷き、本棚から背表紙がボロボロの分厚い本を手に取る。
「これが古文書だよ」
「殺し合いをしろと書かれているページを開いてください」
「わかった」
ズワルトはテーブルの上に古文書を開き、ページをめくっていく。そして、文字がびっしり書かれているページで手を止めて、「このページだと」と見るように促してくる。
友成は古文書を見る。知らない単語が並んでいる。しかし、全てが読める。
ゲームだから読めるのは分かるが変な感覚だな。知らない言葉を読めるのは。
友成は古文書を読む。古文書には確かに『勇者が災いから世界を救った場合のみ姫の結婚相手は勇者とする。その際、勇者が二人以上居た場合、殺し合いをさせ、生き残った者が姫の夫になる権利が与えられる』と記されている。
本当に記されている。けど、なんだ。俺の目がおかしくなっているのか。文字が少し揺れている気がする。
「少し失礼」
友成は王から距離を取る。そして、「ヴァイルド。ちょっといいか」と小声で訊ねる。
「なんだ?」
友成の身体の中にいるヴァイルドが言う。
「文字が揺れてるように見えるんだけど。俺だけがそう見えてるのか?」
「いや、私にも見えてる」
「そうか、よかった」
目がおかしくなってなくてよかった。焦った。
「あれは強力な呪いだ。魔力が一定以上ないと呪いがかかっている事も分からない」
「なるほど。王様は魔力が一定以上ないから気づいていないって事だな」
魔力がない人間からしたら普通の文字に見えるのか。
「そう言う事になるな」
「それじゃ、呪いってことは解くことが出来るのか?」
「あぁ、出来る。呪破の短剣で文字を刺すんだ」
「それって本を貫かない?」
「大丈夫だ。呪いだけしか刺せない特殊な短剣だ」
「わ、わかった」
ゲームの世界だから納得するけどさ。どんな金属を使えばそんな事が出来るんだよ。
友成は古文書の前に行き、メニュー画面を表示して、呪破の短剣を装備する。そして、呪破の短剣で呪われている文字を刺そうとした。すると、「お、お前何をする気だ」と、ズワルトが慌てている。
「大丈夫、呪いしか刺しませんから」
「の、呪い?」
「あぁ、呪い」
友成は呪破の短剣で呪われている文字の部分を刺した。
「お、お前」
ズワルトの悲痛な声が聞こえる。
呪破の短剣は呪いを解いていく。そして、数秒もしない内に呪いは全て消えた。
呪破の短剣を引き抜く。引き抜いた場所に刺し傷はない。
本当にすごいな。これ。
「傷ついてないでしょ」
「た、確かに。なぜだ」
ズワルトは古文書を触って確認して、驚いている。
突然、古文書が光出した。
友成は目を閉じる。
なんだ、この光は。もしかして、文言が正しいものに変わっていってるのか?
古文書の光が落ち着いていく。
友成は目をゆっくり開ける。その後、古文書の呪われていた文言を確認する。
「勇者が災いから世界を救った場合のみ姫の結婚相手は勇者とする。その際、勇者が二人以上居た場合、話し合い平和的に決めなければいけない。そして、結婚相手に選ばれなかった勇者には最高の地位と名誉を与えなければいけない」
友成は正しい文言を音読した。
真逆じゃねぇかよ。誰だ、誰がこんな事したの。
「そ、そんな」
ズワルトはその場で崩れ落ち、顔を抑えている。自分が正しいと思っていた事は正しくなかった。そのせいで大勢の人達を傷つけてしまった事が耐えられないのだろう。
「此処を知っている人は貴方以外誰かいますか?」
友成はズワルトに訊ねる。
「私は私はなんてことを」
ズワルトに友成の声は届いていない。
「おい、聞いてんのか?」
「私は……私は」
「ズワルト・ロジネージュ」
自分の世界に入ってやがる。一国の王だろ。ちゃんとしてくれよ。
「……私は」
「アンタが今やるべき事は嘆く事じゃないだろ。嘆いているだけで現状がよくなんのか? 国の為に動けよ。シュヴァルブラン王・ズワルト・ロジネージュ」
友成はズワルトの胸ぐらを掴んで力強く言った。
これぐらいしないと心に響かないだろ。ゲームだからどうなるかは分からないけど。
「……グレイ・ヴェレロサ」
ズワルトは涙を流していた。
「アンタの国だろ。アンタが正しい道を歩めば民も正しい道を歩ける。けど、アンタがこのまま正しくない道を歩めば民も正しくない道を歩かなければならない。王ならどっちの道を歩めば民の為になるか分かるだろ」
「……正しい道か」
「この国の命運を握っているのは勇者じゃない。王であるアンタだ」
「……そうだな。私は王だ。王は王の振る舞いをしなければならない」
ズワルトは涙を拭った。ズワルトの表情は愚かだった自分と決別し、王として国の為に動こうと決意した精悍の顔になった様に見える。
「その通りです。シュヴァルブラン王・ズワルト・ロジネージュ」
友成はズワルトの胸ぐらから手を離した。
「ありがとう。グレイ・ヴェレロサ」
「いえ、失礼な発言と行いすみませんでした」
友成はズワルトに頭を下げた。
色々と言ってしまった。それに王様の胸ぐらを掴むなんてやばいだろ。勢いで色々とやりすぎた。マジで反省だわ。
「いいんだ。顔を上げてくれ」
ズワルトは友成の肩を優しく叩く。
「国王」
友成は顔を上げた。
よかった。許してもらえた。
「グレイ。君は私に何を聞こうとしていたんだ?」
「この場所を知っているのは国王以外に誰が居ますか?」
「……私以外に一人だけ居る」
「それは誰です?」
「アーティ・ラナンキュラス大臣」
「そいつが古文書に呪いを」
「……それは違うと思う」
友成の身体の中のいるヴァイルドが言う。
「少し失礼」
友成はズワルトから距離を取る。そして、「どう言う事だ」と、ヴァイルドに小声で訊ねる。
「大臣があんな強力な呪いを扱えるはずがない。扱えるのは守護獣くらいだろ」
「だとすると、ベナフドラが大臣に化けているって事か?」
「そう言う事になる」
「それじゃ、王様に大臣を呼び出してもらって正体を確かめるか?」
「王に危険が降りかかるのは不本意だがそれが一番警戒されないだろう」
「だな。じゃあ、頼んでくるよ」
「すまないな」
「謝んなよ。国の為、ノワールを助ける為だろ」
「そうだな。ありがとう」
ヴァイルドは少し嬉しそうだった。
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