第42話 研究対象
海斗が、次に気がつくと見慣れない天井が目に入った。大の字に仰向けに寝ているらしい。起き上がろうとして右の腕を上げようとしたが、何かの力で押さえつけられていて上がらない。左の腕も同じ。両足も動かない。よく見ると、海斗が寝ている台に取り付けられている革のベルトのようなもので、両手両足が拘束されていた。寝ながら首を回して周りを見渡すと、左右の壁際にはろうそくが何本も立っており、部屋の中は異世界のわりにはかなり明るい。
部屋の中を観察していると、扉からアンジェリカが入ってきた。
「アンジェリカさん、一体これは何の冗談です?」
と、海斗は少しむかついているのを押し殺すように言った。
それに対してアンジェリカは
「あら、これは冗談じゃないわよ」
と、平然と言った。
「一体、アンタは俺をどうするつもりだ!」
今度は感情をストレートに表に出した。
「どうって、あなたの腹をかっさばいて、チャームのスキルを持つあなたの体がどうなっているのか、そしてあなたの臓器から惚れ薬ができないか、調べるに決まっているでしょう」
海斗は思わず絶句した。俺がチャームのスキルを持っていることを知られていたのか。アンジェリカの発言を聞いていると、どう考えてもこのままじゃ命が危ない。
「チャームのスキルや魔法を持つ人間は滅多に現われないから、どのようなメカニズムでチャームのスキルが発動するのか、よくわかっていないのよね。私、チャームのスキルを持つ人の体を調べるの、夢だったのよ」
「俺を
海斗は悔しそうに言った。
「騙すって、何を。私が酔っ払っているふりをしていたこと? それともチャームのスキルにかかったふりをしていたこと?」
「どっちもだ! でも、どうして俺のチャームのスキルが効かない?」
「あら、知らなかったのかしら? あなたのチャームのスキルが効くのは、異世界の人たちだけよ」
「ひょっとして、アンタはこの世界の人間じゃないのか?」
「あれ言ってなかったけ、私の出身はUSAよ」
とアンジェリカはうそぶいた。
なるほど、俺たちと同じ世界の出身だったのなら、俺のチャームのスキルが効かないわけだ。そう言えば、この異世界にはない言葉「ホテル」って、口走っていたっけ。そこでアンジェリカに対して警戒をしなかった自分にも腹が立ってきた。
「騙したのはそれだけではないぞ。肉体労働をしたら、賞金首にした人物を教えてくれると言ったじゃないか」
「あら、言葉の行き違いがあったみたいね。私は『体で支払ってもらおうかしら』って言ったのよ。だから、これからあなたの体で、チャームのスキルの神秘を調べさせてもらうわ。まあ、もっとも臓器を取り出した後の体じゃあ、もう生きていないだろうから、あなたに賞金首にした人物の名前を言っても、無駄かもしれないけれどもね」
体で支払うって、そっちの意味かい! などとツッコんでいる場合ではなかった。とにかく、この拘束具をどうにかしないと。
「無駄よ。身体強化魔法をかけても引きちぎれない強度を持っている魔物の革を使用しているから。安心して、臓器を取り終わった後、死体はちゃんと教会に持って行くから。そこそこいい額の賞金が手に入るのよね。その代わりあなたの死体、教会でそれなりに丁重に埋葬されると思うわ。良かったわね、オーホホホ」
「この悪党!」
アンジェリカは海斗の罵倒を無視して、海斗の服をはさみで切ると、露わになった海斗の腹にメスを入れようとした。
もう駄目だ。海斗はそう思った。
その時であった。部屋の中に何かが投げ込まれると、床から白煙が噴き出し、あっという間に部屋中に煙が充満した。
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