第43話 逃走

「げほげほ、一体何が起きているの。火事?」

とアンジェリカの声が聞こえてきた。すると今度は

「うっ」

というアンジェリカのうめき声が聞こえてくると、人が倒れたらしい音がした。そして煙の中から結衣が現われ、素早く海斗の手足を拘束している革のベルトを手早く順にダガーで切っていった。

 身体強化魔法をかけてもらっても引きちぎれない魔物の革をよくもまあ手際よくやすやすと切れるなあと感心していた海斗だが

「とっとと逃げるわよ!」

と、結衣から催促された。

「結衣、サンキュー」

と、海斗が答えて立ち上がったが、手元にカイアンから借りた剣がないことに気が付いた。

「すまん、剣を探すから先に脱出してくれ」

「そんなもの、今はどうでもいいでしょう」

「いや、カイアンさんから借りた剣なんだ。何とかして探し出さないと」

「しょうがないわね。この部屋を上から見たときには、それらしきものはなかったわ。どこに置いてあるか、心当たりある?」

「もしかして寝室か」

 海斗はこの部屋の唯一の扉を開けて出ると、そこは先程寝室に入るために通過した台所兼食堂であった。海斗は、台所の扉を開けて寝室に入った。幸いベッドの近くに剣が落ちていたので、拾うと、結衣と一緒にアンジェリカの自宅兼魔法研究所を脱出した。

「あの女が、気が付く前に姿をくらますわよ」

 しかし、結衣と海斗が森の細い道を逃走していると、後ろから呪文が聞こえてきた。

「水の精霊ならびに冬の精霊よ、我にその聖なる水と凍てつく寒気の一部を分け与え給え、アイス・アロー!」

 その名の通り、十数本の氷の矢が海斗たちを襲った。海斗は振り返って、剣で矢を叩き落とそうとしたが、四本ほど叩き損ねて先に走る結衣の体に当たろうとした。

「結衣、危ない!」

 すると、結衣は振り返ると、その四本の氷の矢を難なくダガーに当てると、その方向を左右に散らした。

「結衣、いつの間にそんな芸当を……」

 海斗は、疑問を持ったが、今は逃げることを優先した。

 そして、また氷の矢が海斗たちに向かって飛んできたが、海斗の剣と結衣のダガーによって例外なく、叩き落とされたか、別の方向にそらされた。アンジェリカはらちが明かないと思ったのか、

「ちょっと待って。話し合いをしましょう。これ以上攻撃しないから。あなたたちだって、情報は欲しいのでしょう?」

と呼びかけてきた。

「今さら。お前の言うことなんか信用できるか。お前がこちらの欲しい情報を持っているのかも怪しい」

と、海斗は思いっきり疑っている。

「私がローレンシア教の教会内部で飛び交っている情報に詳しいことは、酒場での会話で証明しているわよね」

 確かに、と海斗は思った。それもあって海斗はアンジェリカの話を黙って聞くことにした。結衣も様子をうかがっている。

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