第221話 またクソ強ボスにぶつけられるんだろ?
「とはいえ、実際にじゃあ実験するかって言われたら、できないし積極的にやりたくもないんだけど」
と、呪腐魔病に対する耐性に関しては、一旦保留にすることにした。
実際に効果があるかは、やってみなくちゃ分からない。
ダメだったら感染して終了。
そんなの、怖すぎるじゃないか。
せめて、回復薬が回数無制限でかつ確実に効果があるとかじゃないと、試す気すら起きない。
「……呪腐魔病対策、か」
言ってから、俺は少し自分の発言に遠いものを感じてしまった。
今、俺たちは呪腐魔病に犯された茉莉ちゃんを救うためにここまできている。
だが、茉莉ちゃんを治すことができても、そこで世界は終わりじゃない。
茉莉ちゃんが戻ったところで、世界にはダンジョンとゾンビが溢れたままだ。
俺たちはそれをどうにかする術を持っていない。
南小のコミュニティに協力の感謝をしたり、茉莉ちゃんの両親──大家さんご夫妻の無事を確認したり、友達の安否を確かめたり、そういうやるべき事柄はある。
だが、その先は?
俺たちは一生、ゾンビに怯えたまま、ダンジョンに引きこもって過ごしていくのだろうか?
「いいや、これも今は考えなくていい。今は、まだ」
取らぬ狸の皮算用だ。
茉莉ちゃんを助けて、二人で話し合って、そして未来のことは決めるべきだ。
俺がやるべきことは、茉莉ちゃんが何かの望みを持っていたときに、それを叶える気持ちを持つこと。
つまりは、茉莉ちゃんを助けるまで、話は始まらないってことだ。
『上杉さん、その、考えはまとまりましたか?』
「あ、ごめん」
血液魔術を手に入れたあとにあれこれと考えていたら、クミンと端末くんのことが置き去りになっていた。
血液魔術についても、茉莉ちゃんの未来のことも、今はまだいい。
寝る前にでもゆっくり考えたらいい。
今は、時間を無駄にしないためにもやれることをやらなければいけなかった。
「まず、端末くんは『これ』に関しては気にしなくていい」
『はい。失礼しました』
「とりあえず一点。今の状況でラベンダーの屋敷にたどり着いたら、門前払いされるかな?」
『…………現時点ではなんとも言えません。ただ、仮にされそうになったとしても、上杉様なら力試しで突破することは可能なのではと』
「おう。ありがとう」
正門の鍵だったものは消えてなくなったので、どうなるのかは未知数か。
とはいえ、話し振りを聞いている感じでも、人狼よりも門番が強いってことはなさそうな感じかな。
そもそも、本来の五階層クリアの場合は、吸血鬼ラベンダーとの交渉も可能性に入っている時点で、ぶっ殺して通るというよりは、力を認められて通るって感じみたいだし。
……とか言って油断してるとまたクソ強ボスにぶつけられるんだろ?
騙されんぞ!
とにかくこちらの強化は計画通りに進めていく。
その相手はこっちの想定をはるかに超えてくるだろうから、強化はどれだけしてもしすぎるということはない。
余裕があったらクミンの強化にも手を回したいんだよな。
このグール狩りが何回も可能なのか、可能だとして何回も人狼が出てくるのかも未知数。
もう一回が可能だとして、250体倒すとボスが出てくるってのははっきり分かった。230体くらいでとどめたらセーフなのかな。
数が減ってきたら、穴掘ってそこに落としてしまえばいいんじゃないかと思ったりはしている。
時間は相変わらずない。
グール狩りを今後も継続するか否かについても、まずは今日の予定をこなしてからだな。
人狼戦は乱入ボスみたいなもんで、今日のメインは『ホブゴブリンの塒』だ。
「とりあえず、さっきの収入でレベルを上げて、あとは失った分を補填しておかないと」
稼いだEPは37500(+3000だった)に、これから行うドロップ品拾いでプラスになる分。
失ったEPは主にCP回復薬、再利用できずに消えた鉄製品の数々、あとは秘密兵器こと魔術板に使った鉄と魔術の分。追加で、さっき先行して偵察に出したグール部隊の分。
特に魔術板、あれ使い捨てなんですよ。
一回使うと魔法陣は消えるし、鉄もボロボロになって再利用できなくなる。魔術の土台にするっていうのは、難しいものなんだね。
それでいて、作ったからと言って何日も保つ性能でもないので、ランニングコストもそれなりにかかる。
それでも比較的短時間で出せる最高火力には変わりないから、使ったら作り直しておかないと、後悔するかもしれない。
どうして俺の奥の手は、条件厳しい上に失敗したら即死がついてたり、コスト重い上に召喚したらクールタイムがついてたり、準備にめちゃくちゃコストがかかったり、そういうのばっかりなんだ。
いやそれが普通か? 普通なのか?
などとうだうだ考えながら、俺とクミンは時間をかけてグールのドロップ品を探し回った。
グールの牙はぴったり10個落ちていたので、15000EPのプラスである。
やっぱりグールのドロップ率は20~30体に一個ってところなのか。下振れというよりもそういう設定っぽい。
あるいは、あのグール大戦争だとドロップ率半減とかもありえそうだ。
──────
上杉志摩
所持EP:56598→8598
レベル:20→23
HP 225/275→340
CP 251/367(使用中271/574→638)
力:35→40
魔:104
体:25
速:55→65
運:36→45
──────
持っていたEPで上げられるだけレベルを上げた。
その結果として、ステータスは上のような感じになった。
神々からの魔への全振りは終わった。
今の段階で既にクラスチェンジ後のCPは十分ということだろう。
あとのボーナスは力、速、運に均等に割り振られる形だったので、俺は俺で速を少し強化しつつそれらに割り振る。
もはや神々も俺も、体を上げる気ないっていうね。
いや、上げたい気持ちはもちろんあるんだけど、さっきの人狼で思い知った。
スピードで追いつけない状況で、申し訳程度に体にステ振ったってなんの意味もないって。
そういうのは相手の攻撃を引きつけられる、純タンクのステ振りだって。
スピードで追いつくために『二度と使いたくないスキル選手権3連覇達成中』と俺の中で話題の『背水』を使わざるを得なくなった時点で、体のステータスが完全に死ぬっていうね。
攻撃力と防御力は闇纏で多少の強化はされてるわけだから、なおさら重要なのは速なんですよ。
そもそも俺の速偏重ステで、追いつけない敵が出てくるのがおかしいんだよ。
でも出てきちゃうんだから、もう諦めて他捨てて上げるしかないじゃん。
映画鑑賞とか動画鑑賞とかするくらいの気軽さで、クソボスぶつけてくるのやめてくれよ……。
レベルブーストでかつて味わった体ステータス81に、レベル50になったときにたどり着いている気が全くしねえ……。
あの時の俺は、頑丈だった。
「残りは装備とアイテムの補充に回して……欠損回復薬も予備を買っとくか」
『そうですね。上杉さんには必要そうですね」
「やめてよ」
クミンからの『どうせおまえはまた無茶するんだろ?』みたいなチクチクした視線が痛い。
俺だってしたくてしてるわけじゃないって、朝の挨拶より言ってる。
それはそうと、ここで朗報が一つ。
何回もダメにしまくったせいか、アイテムショップのラインナップにちょっと進化が。
今までは店売りはしていなかった『忍びの地下足袋』が、正式に買えるようになったのだ。お値段一個1000EP。地味に高い。
ただ、他の装備が薄汚れたシリーズから更新されるとか、そういうのはなかった。
これも、クラスチェンジしたら解禁されんのかな……?
というわけで、人狼に穴空きにされた装備も買い換え、回復アイテムも補充し、魔術板も新しく作り直したところで、EPはまたしてもすっからかんになった。
「予備も買っといたほうが良かったかな……」
と思うが、金がないんだからしょうがない。
この、ダンジョン内の全てをEPで賄っているシステムって、シンプルだけど困る。そもそもEPとCPがなんなのか、いまだに良くわかってないからな俺。
「鉄製品の準備がちょっと心許ないが、そろそろ行くか」
時間を確認すると、すでに夜の9時半を過ぎている。
当初の予定では、9時には諸々を済ませて出発したかったのだが、人狼戦の傷が思ったよりも深かった。
それでも、ギリギリ巻いていけば間に合う時間か。
ホブゴブリンの塒が、想像よりも簡単に攻略できるという可能性に賭けよう。
「端末くんからの情報もほぼないしなぁ」
『申し訳ありませんが、規則ですので』
「文句ではないんだけどね」
当然のことながら、端末くんから塒についての情報を聞き出すのは無理だった。
端末くん的には喋りたそうな雰囲気もあるんだけど、こればっかりはな。
だが、逆にこれでいいのかもしれない。
全部喋ることができたとしても、神々やラベンダーの介入でそれがご破算になることだっていくらでもある。
だったら、最初から先入観なしで挑めた方が、まだマシだ。
「そういえば、現在五階層に挑戦中の他のパーティってどうなってるの?」
出発する直前、俺は少しの思いつきで尋ねる。
それに対する端末くんの答えはこうだ。
『現在、五階層に挑戦中のパーティは182組です』
「……減った?」
『はい』
「……クリアしたパーティは?」
『ございません』
ぞっと寒気を感じる。
分かっていたはずだ。自分だって一歩間違えたらどうなっていたのかなど。
それでも、心の中でなんとなく思ってしまっていた。
救世ジョブという、明らかな力を与えられたパーティは、きっと順調に攻略を進めているのだろう、なんて。
安全に安心に、俺よりも快適な冒険をしているのだろう、と。
だが、救世ジョブを与えられていようと、人間は人間だ。
そういうことだって、ある。
せめて、攻略を諦めて一旦地上に戻った、という可能性を信じておこう。
「明日は我が身か」
『ご武運を』
「ああ。じゃあ行ってくる」
ふと、自分が立っている足元を見た。
踏みしめた土は、どこまでも乾いている。
少し歩けば音が鳴る。意識して足音を出さなければ、スキルの力で消えてしまうささやかな音だ。
俺がもし死んだら、このからからに乾いた土に、足音も、血も、存在そのものも、全てを飲み干されて消えるだけなんだろうな。
そんなことを、ふと思った。
──────
──────
ここまで読んでくださってありがとうございます。
前も宣伝した新作がもうひと踏ん張りなので、最後にもう一回宣伝します。
こっちも面白いんでぜひ読んでね。
引退魔術師のカスみたいなスローライフ
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