第2話 アレクサンドル視点
『今年は本命も本命、ド本命のチョコレートをその手に抱くことが出来ますぞ!』
「ルーベルトはそう言ってくれたが……」
ルーベルトが退室し、一人きりになった執務室で、僕は大きくため息をついた。
ここ数日、エリザが何だか僕を避けているような気がするのだ。
寝室は一緒だし、どんなに忙しくてもなるべく食事は一緒にとるようにしている。出張などで顔を合わせられない日が続いた時は、手紙を書いた。そこでたくさんの愛を伝えたつもりだ。あまりに書きすぎて封筒に入らず、小箱に入れることになって、「さすがに読むのが大変だから、もう少し端的でも良いと思うわ」と苦笑されてしまったけど。
夫婦生活は、うまくいっているつもりだった。
だけど、そう思っているのは僕だけかもしれない。
僕は相変わらず言葉にするのが苦手で、大好きなエリザの前では、適切な言葉がスルスルと出て来ない。腰を落ち着けて文にしたためるのならば、いくらでも出来るのに。それでも努力はしているつもりだ。毎日のイメージトレーニングだって欠かさず行っている。
まだ足りないのだろうか。
昨日も一昨日も、予定を聞いてもはぐらかされてしまったり、今日は何をして過ごしたのかと聞いても、「特に何も」と流されて終わりである。しかもどういうわけか、僕の目を見ようともしない。うっすらと頬を赤らめて、ふい、と目を逸らしてしまうのである。もちろん、そんな表情もたまらなく愛らしいのだけれども、彼女にそんな顔をさせるのは、一体何なのだろう。
どうしよう。もしかして、もう僕に飽きてしまったのではないだろうか。それで、誰か別の男を――駄目だ、そんなこと考えたらもう死にたくなってきた。それでエリザが幸せになれるのなら、とも思うけど、辛すぎる。やっとやっと手に入れた最愛の女性だというのに。もう僕は彼女の体温を知ってしまったのに、手放さなければならないのだろうか。何もかも、僕が不甲斐ないせいだ。僕はまた後悔するのか。失ってから、もっとこうすれば良かったと悔いるのか。二度も三度も同じことを繰り返す阿呆なのか。
「まだ間に合うかもしれない」
教会で永遠の愛を誓ってくれた彼女の言葉を信じたい。
まだ心は僕にあると思いたい。
泣いている場合ではないぞ、アレクサンドル!
袖で涙を拭い、お守り代わりのポケットチーフ(エリザのお手製だ)にそっと触れ、勇気をもらって僕は立ち上がった。今日はもう仕事をしている場合ではない。彼女を失えば僕はおしまいだ。そうなればこの領もおしまいだ。ゆえに、現在最優先されるべきなのはエリザだ。
エリザと会って、しっかり話をしなくては。
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