第三十六話「ナイスガイ病院で目覚める」




          


 目覚めるとそこは病院艦だった。


 救命医療艦が戦争勝利と停戦を根拠に魔王城へ着陸して多くの兵士や士官・下士官を癒していく。


 そんな中俺は豪奢な一室にて治療途中だ。


 外では武装解除された敵兵士まで拘禁と治療を受けて行く姿があるがここからは見えない。


ただ魔王国の異国語で罵声を上げる捕虜の声がわずかに聞こえただけだった。


 目覚めた俺は自分に回復魔法を使い、お医者様を驚かせてしまった。


「ゆっ勇者様っ!?」

「悪い、戦況はどうなっている」


「勇者様が魔王を確保し、ティア様が後に魔王城に突入。地下都市を制圧しました。これを根拠に各地で総司令官不在の混乱で一時的な停戦がなされ、勇者様がとらえた魔王を本格的な停戦交渉現場に引きずり出す事に成功、その間我が軍は魔王城と魔都を完全制圧しました」


「仕事が早いな……」


「そうでもありません。勇者様が眠りにつき既に二週間がたっています」


「まじかよ」


「ええ、そろそろ私は勇者復活の報告に向かっても良いでしょうか?」


「どうぞ」


「では看護婦を派遣しますので彼女の命令に逆らわず養生してください」


 そう言われてお医者様は冷静に俺の元を離れ通信設備がある部屋に消えた。


 俺はベッドから起き上がろうとしたが、撃ち抜かれた腹が痛くて無理だった。


 俺の回復魔法でも治療しきれないとは強力な呪いのようだ。


「やれやれ動けんなこれ、魔王の糞親父め、どんな特殊弾頭使ったんだか」


 溜息を吐いていると扉が開き看護婦とシルバーナとティアが入ってきた。


「ご無事ですか勇者様」


「主様お加減どう?」


 心配してくれているらしい、嬉しいものだ。


 看護婦さんはてきぱきと俺を検査し一本の注射をするとぺこりと頭を下げて退出した。


「なあ、戦争はどうなるんだ?魔王は捕らえたが、側近は逃してしまった」


 シルバーナ様はよくやったと言いたげに微笑んで言う。


「ふふふっ大丈夫ですよ。艦隊集結と王都強襲は誘導作戦です。そんな見え透いた戦力再配置と時間のかかる艦隊移動をしている間にこの地の転送魔法陣の行き先を陸上軍が監獄に切り替えていたんですよ。時間軸はそうですね。魔王城攻防戦時の話ですよ」


 そう言って彼女は俺を悪戯っぽそうに覗き込む。


 え~っ!それって俺の最後の努力は無駄って事じゃん。


「うっそ、そんなことできんのかよっ!」


「出来ますとも」


そんな風に驚いているとシルバーナ様は果物を剥いてくれながら説明を続けた。


俺が気絶した二週間の間に魔王軍は神聖王国兵に武装で脅された魔王の発した降伏宣言を受け入れた。


首都本軍敗北とカリスマ魔王の捕縛が決定打らしい。


各地で軍は集結し武装解除。


少数の過激派除き多くが戦争を放棄した。


今は戦時法違反者を裁く国際裁判の準備と没収した兵器管理に人類連合軍は各地に進出中。


「これで、私の、、、私たちの使命は終わりです。この地に色濃く残る邪神の残滓とその研究資料は残りますが、それは次世代たちの課題です。魔族がこれから穏健化できるか、それとも人類とさらなる敵対を選んで族滅の運命を自ら招き寄せるか、それは未来と今の魔族の選択肢にかかっているでしょう」


 う~ん、なんだか壮大だ。


 でも、、、「これで俺たちの義務は完了って事?」


「そうです。この世界では二度と私に神託は降りないでしょう」


「ふふふ自由だな」


「まあ、条件付きですけどね」


「条件?」


俺は不思議に思った。


戦争は終わり、大本であった邪神も大昔に俺が討伐した、


これで何の義務と責任が生まれるか良く判らない。


「私は邪神の残滓である魔族を討滅させる為とは言え、この世界の歴史に干渉しすぎました。干渉するために膨大な政治力と影響力を作り維持してきました。このまま私が世界政府、その原型ともいえる神聖アスカロン王国中枢から急に抜けたら世界中が大混乱してしまいます」


「なんかヤバそう」


「そうですね。魔王軍討伐の為に人類は過剰に兵器を生産しました。経済活動自体が戦時経済にシフトしたままです。つまり兵士と兵器は今もじゃんじゃん生産されています。そんな中、大きな政治的混乱・決裂が起きれば今度は魔王対人類ではなく人類対人類の世界大戦に至るやもしれません」

 

 激やばじゃんか。


 ええっと、という事は俺の嫁さんは当面政治家として王国に責任を持つことになるって事かな?


そう質問すると「そうです」と言われた。


さらにこうも言われた。


「貴方だって無関係じゃあいませんよ?」


「え?」

 

 そこから説明された話では……


魔軍の脅威から人類を守り団結させる錦の御旗が俺なのだそうだ。


そんな俺は不老不死なのだから永遠に人類の守護者としてふるまわなければ、世界中の国が不安に陥り正義を見失う可能性があるそうだ。

 

 そんなどでかい話、背負いきれるわけねえだろうがっ!


と、叫ぶと彼女も苦笑して頷く。


俺が凄い困ってしまった。


「どうしよう」


としか言えないくなり、今まで話に無関心であったティアちゃんが慰める様に俺の頭を撫でてくれている。


「主様頑張って」


頑張ってどうにかなる問題じゃないのよねえ……


「とりあえずカフェオレでも飲みましょう」


シルバーナが助け舟と言うかシンキングタイムくれた!


わ~い。

カフェオレ甘~い。


……全然考えないでまったり過ごしてしまった……


そんな無駄な時間を使っているとそこにシルバーナが笑って俺様の為にこう宣言してくれた。


つまり「次世代勇者様育成計画開始」である。


候補は二名いる。

 

ティアマットのティアちゃんと、


魔王城地下で遭遇し俺が戦い倒した戦乙女である。


彼女の名前がわからないので魔王軍所属第二号決戦兵器第三十四系試作型(魔王血族)さんと呼ぶことにする。


この二名が俺の代わりの人類の新たな希望だ。


 これだと人類から勇者様が出ない事に成る。


が、今なら、救世を成したシルバーナの権威と俺様の権威のごり押しで、出来るとの事。


問題は戦乙女ちゃんのやる気と本人の意思である。


彼女が何考えているか現段階では不明だが、シルバーナ様の話ではいい線行くと予想しているらしい。


次回―――、ナイスガイ、彼女と再会する


伝説の木の下で再開し告白する時二人は結ばれる。


俺は草原に生える一本の木の下で放課後待ち続けた。


愛おしいゴリリーヌちゃんを待ち続けた。


待ち続けて一年やっとであったとき彼女は言った。


うわ、まだ居る。


何でっ!?


何でそんなに冷たいのごりりーぬちゃん!


(嘘です。多分)


星一つで俺様の腹の傷がちょっとだけ癒えるかもしれん……


星三つでシルバーナがもう一杯カフェオレくれるかもしれん……


星五つでゴリリーヌちゃんがちょっとだけ優しくなるかもしれん……いや、無理かもしれん……でも押してくれ。



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