第4話

 昇降口脇の自動販売機前にて――


 パシり中? の彼、風巻かざまき賢吾けんごくんは購入した缶コーヒーを呷り優雅に一服中……って、早くしないと次の授業が始まりますよ!?


 そんな彼を尾行している私が言える事ではないけれど……。


 私は今、階段下の死角で風巻くんを観察中。


 中肉中背で特に目立ったところもなく地味で強いて言えば長めのボサボサな髪で表情が読めないってくらいで、これも特徴と言うには弱い。

 ただ、さっきの遣り取りのように飄々として掴みどころがなくて、隙も無い。

 例の不良の人たちに絡まれていないときの彼は基本的に休み時間は不在で、教室にいても机に突っ伏して寝ていて誰とも関わろうとしない。


 息を殺して覗き込むこと数分――



 キーンコーンカーンコーン♪ キーンコーンカーンコーン♪


 本玲が鳴って授業が始まりました。この時点で私たちの遅刻は確定な訳で……。


「ふぅ、さて……もう授業が始まったよ、?」


「っ!?」


 こちらを見ていない筈の風巻くんあいての呼び掛けに心臓が跳ねた。


 い、いえ、誰かなんて判るなんてこと――


「ここからだと死角になっている階段の下。そうだよね、漣さん?」


 バレてるっ!? しかも隠れている場所までっ!? どうしてわかったの??


「ご、ごめんなさい。ストーカーのような真似をしちゃって」


 観念した私は風巻くんの前に出て素直に頭を下げました。


「別に気にしてないし、そんなことよりもキミの方こそ大丈夫?」


「え、大丈夫って……?」


 相変わらず表情が読めない。読めないけれど、どこか見透かされているような感じがして落ち着かない。


「まだ治ってないんでしょ? 


「ど、どうして……?」


 直接切り出されたその男性恐怖症ことばを聞いて甦る誘拐の記憶トラウマに背筋が凍り体が震えた。

 思い出せば気が狂いそうになって怖いから誰にも、心陽さんと潤さん親友たちにさえ話したことはないのに……。


 それなのにどうして?


「そりゃ、友達が嫌でも覚えているよ。さざ――いや、


 え。


 あ……思い出した。


 今までそんな風に呼んでくれた人はたった一人で、そう……――


「け、……くん?」


「ははっ。その様子だと今の今まで忘れてたって感じ?」


「ご、ごめんなさいっ!」


 誘拐のショックから男性恐怖症になったからって、幼い頃とはいえ初めてのお友達になってくれた人の事を忘れていた恥ずかしさと申し訳なさで少しだけ泣きたくなった。むしろ逃げ出し――たら不誠実な気がするし、うぅ……。


「アヤが謝る必要はないよ。あの時キミを護れなかったことを今でも後悔している」


「そ、そんな……」


 ケーゴくん、風巻くんの事を思い出して次々溢れてくる彼との記憶。


 出会いはいつも一人でいる彼が気になって声を掛けた事から始まって、幼稚園で友達になってから小学校に上がってからも、家に帰るまではいつも一緒にいてくれた大切な友達だった。


 好奇心旺盛で興味を持つとすぐ突っ走ってしまう私に笑って付いてきてくれて、何かあれば自分を犠牲にしてでも私を護ってくれた大切な友達だった。


 思えば振り回して迷惑ばかりかけた挙句、誘拐されたショックから今まで存在すら忘れていたなんて――



 気が付くと頬に涙が伝い――私は泣いていた。

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