第5話

「ほい、落ち着いたか?」


「あ、ありがとう。本当にごめんなさい……」


 場所を移し屋上へ続く階段の踊り場で二人並んで座っている。


 風巻くんから差し出された缶コーヒーをお礼を言って受け取り、プルタブを引いて少しだけコーヒーを口に含むと、微かな苦みが気分を落ち着かせてくれた。


「あの、風巻くん」


「ぅん?」


「私が風巻くん、ケーゴくんの事を忘れてしまっていた間はどうしていたの?」


 今まで彼の事を忘れてしまっていた私に訊く資格はないのだろうけど、どうしても気になって躊躇いながらも訊いてみた。


「普通に小学校と中学校を卒業してこの高校に入学した。勿論、極力アヤに接触しないように気をつけてな」


 私に気を遣って見守ってくれていたらしい……本当に迷惑ばかり――


「まあでも、アヤに合わせてこの高校に入学したのはだから本当に気にする必要はないよ」


「ほぇ?」


 ――感傷に浸ってネガティブになっているところに、意味深な言葉を投げられ思わず間の抜けた声が出た。


「確か法律上女子の結婚は十六歳から出来るらしいから頃合いかと思ってね」


「ちょ、ちょっと待って! いったい何の話っ!?」


 いきなり突拍子もない話が出てきましたけど――っ!?


「やっぱり忘れているか。うん、これも想定内」


「だから何の話ですかっ!?」


 いい加減に答えを教えて欲しいと思いつつ、過去にも何度か彼にこうやってのらりくらりと躱されていたことを思い出した。


「小学一年の頃だったかな。アヤが『将来の夢』を訊いてきた時だよ」


「将来の、夢……あ」


 確かあの頃私は……。



――ケーゴくんは大きくなったら何になりたいの? 私は『およめさん』!


――……特にないけど、何で『およめさん』?


――ケーゴくんに会う前はいつも一人ぼっちだったから、一緒にいてくれる『だんなさん』に憧れてるの。それが『ふつう』なんだって!


――ふぅん……で言う『』みたいなものか……。


――『あねさん』? 何か『およめさん』よりいいかもっ!


――…………気に入ったの?


――うんっ!


――もし、オレと『けっこん』したら『』になれる、と言ったら?


――『けっこん』するっ! 大きくなったら私と『けっこん』しよっ! やくそくだよっ!!



 い、いやぁああああああああああああああああああああああああぁっ!?


 幼かったとは言えなんて約束をしてたのよ私ぃっ!?


「あ。思い出した?」


「…………はぃ」


 もう恥ずかし過ぎて消えてしまいたい……って、さっき風巻くん「だから」って言ってなかった?


「も、もしかしなくても……風巻くんは本気だったり?」


「勿論。でも、今のアヤは本気じゃないんだよな?」


「大変申し訳ございません……」


 ただの口約束とはいえ、彼は本気でこんな私を想い続けていたなんて……罪悪感が膨らんでいく一方で――


「ま、ようやく今日アヤをわけだけど?」



 …………はい?

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