魅力的な話

 メナ星では長らくの間、自分たちでは政治的な判断を行わず、他の惑星の生物を競わせて、その結果で政治に関わる決定を行っていた。なぜなら、どんな判断になったとしてもメナ星人それを遂行する能力を持ち、失敗をすることがないからだ。自分たちの生存活動においてまったくリスクがないメナ星人は、その状況につまらなさを覚え、自分たちの力が及ばない他の生物で不確実性を上げることでリスクを接種し、生物としての実感をかろうじて得ていた。

「次のメナ星の千年の方向性を決めるための生態競争観戦として、白羽の矢が立ったのが、地球のスポーツです。」

 ニエモは学に対して一通りの説明をした後にそう言った。

「地球のスポーツは素晴らしいです。お互いの命を脅かさない範囲で優劣をつけるという文化は他の星だとなかなかありません。そのおかげで長期的なスパンで競技に参加でき、複雑なルールの採用と、競技に対して高いレベルで肉体と技能の最適化を実現しています」

 その口ぶりから、ニエモは心底感心している様子が伝わる。

「なぜ僕なんですか」

 わからないことが多い学は、さしあたってなぜ自分がここに呼ばれたのかを確かめることにした。

「今回の大会では、メナ星がアジアの各地域に分かれ、ジュニア世代の選手を集めて3X3(三人制バスケ)のチームを作って競い合うことになりました。今はバスケが一番人気でしてね。しかもジュニア世代なら我々の介入効果が高いですからね」

「そうだとしても、僕が選ばれる理由がわかりません。バスケットは中学校で辞めましたし、最近はこれと言ったトレーニングもしていません。開催まで三ヶ月しか無い大会で役に立てるとは思えません」

「不安に思うのは仕方ありません。ヒトは自分の可能性に対する解像度が低い生物ですからね。しかし大丈夫です。あなたには素質があります。」

「素質ですか」

「ええ、あなたには他の人にはない素質があります、それに学君ももう一度バスケットをしたいと思っているんじゃないですか」

 ニエモの言葉に学ぶは背筋が冷える思いがする。すべてを見透かされているような感覚だった。当初は警戒していた学だが、段々と目の前の女性が人間であるよりはメナ星人である方が自然に思えてきた。とんでもない話だが、学の人生にとっては、これ以上ないくらいの大きなイベントになるだろう。あっさりと断って明日から今までと同じ日常を過ごすのは惜しい。しかし、とはいえ簡単に首を縦に振ることもできない。まだわからないことが多い上に、もし大会に出るとなれば家のことはできなくなる。光の面倒を見る人がいなくなってしまう。

 学は遠慮がちにニエモの顔を見る。

「声をかけていただいたことはうれしいですが、参加は難しいです。家の事をやらなくてはいけないし、受験勉強もしなくては行けません」

 学の言い分を聞いたニエモはむしろそう言われるのを待っていたかのように深く頷く。

「城北大学への推薦と学費免除、そして奨学金五百万を用意しましょう。」

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