知ってるはずがない
ニエモが言った台詞に学は耳を疑った。城北大学は、学が密かに憧れていた大学だった。バスケの強豪として有名で、学は中学時代に実際に試合を見て、学生らしからぬ高いレベルのプレイに魅せられた。高校卒業後は城北大学への進学を目標にしたかったが、そのすぐ後に父が亡くなったことで、その思いは誰にも伝えること無く、学の胸に秘められたままになっていた。
「あなたのことは、あなた以上にわかっていると行ったでしょう」
ニエモがいたずらっ子のような表情で学を見る。しかし、すぐに真剣な表情に戻すと話を続けた。
「もちろん、条件はあります。政治代理スポーツ大会で優勝が条件です。しかし、だめだった場合も大会後はイタミによる受験のサポートを受けられるようにしましょう。それに、練習中は光君のサポートもメナ星が行いましょう」
学は提案の内容を改めて吟味する。家から国立大学に通う以外の選択肢は金銭的に無理だと思っていた。しかし、奨学金が用意されるのであれば、状況は大きく変わる。五百万あれば、光が大学に行くのに備えていくらか残してやれるかもしれない。普段の学なら疑ってしまうくらい出来た話だが、イタミの家庭への干渉や、誰にも言っていない城北大学への推薦と、既にありえないことがたくさん起きている。
「やります」
慎重な性格の学としては珍しくはっきりとした声で言った。条件を考えるとやらない手は無かった。そして、学は自覚していないことだが、バスケをもう一度やれることに大きく心が動かされていた。返事を聞いたニエモは満足そうに頷く。
「ありがとうございます、これでメナ星の将来を決める第一歩ができました。」
大きな決断をして緊張が解けた学に、ふとした疑問が浮かんでくる。
「でも、何で決めてもいいなら、サイコロを振っても同じなんじゃないですか」
「それは良い質問ですね」二エモは頷く。「実際にそう言う意見もあって、一時期は決定をサイコロで決めていたことがあります。ただあんまり長続きしませんでした」
そう言ってニエモは当時を思い出すように遠くを見る。
「なんでも良いとはいえ、サイコロに将来を決められると納得感がないんです。たとえ意味が無いとしても誰かが汗か血を流さないと」
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