辞められない習慣

「よくあの質問に答えられたなあ、俺全然わかってなかったよ」 

 授業が終わりに話しかけてきたのは、学の友人の高見だ。

「歴史は好きで個別授業でもけっこうやってるからな」

 学は個別授業の進みが早く、かなり先の内容も頭に入っている。まだ二年生ではあるが高校の範囲を一通り終わらせて受験対策に移れるところまで進んでいた。

「学は大学進学っていう目標があるもんな、俺も進路考えないといけないんだけど」

 そう言いながら、高見は悩む仕草をする。この一ヶ月で五回は聞いたセリフだが、二年生になって部活のキャプテンを任された高見は、そんな事を考える余裕も無いのないのだろうと学は思う。

「お前はまずバスケに集中した方が良いよ、全国に行きたいんだろ」

「そうだな、三年生は行けなかったから。代わりに俺らの行くって決めたからな」

 低く自分に言い聞かせるように話す高見からは、強い決意が覗えた。高見は目標に対して退路を立ちながら追い込んでいくところがある。

 こうして周囲に宣言するのも彼なりの追い込みなのだろう。学は高見らしさと同時に追い込みすぎを心配するが、高見の表情からは良い精神状態を保てているように感じた。

「高見なら大丈夫だよ、勉強はできないけど運動は昔から良くできたじゃ無いか」

「勉強はできないけどって言う必要あったか?」

 いつもの軽口の言い合いに二人は目を合わせて笑った。中学校の時は毎日のように一緒に行動をしていたが、今は授業以外で会う機会は減ってしまったので、学はこのやり取りを懐かしく思う。その後も、たわいのない話を続けるが、ふと高見が真面目な表情になる。

「一緒にバスケやってたときが懐かしいな」

 高見の言葉に学は思わず高見から目を逸らす。高見はそれ以上は言わなかったが、もう一度学にバスケをして欲しいと思っていることは薄々感じていた。しかし、直接言わないのは、学の事情を知る高見の優しさだろう。結局その後は、高見の部活の時間になったので二人は別れた。学は自分の気持を整理できないまま自宅への帰路に着いた。

 帰宅途中で学校と自宅のちょうど真ん中にある公園の前で学は足を止める。リングがおいてあるだけの簡素なバスケットコートがあり、ボロボロではあるが、ボールもコートの端にカゴに入って用意されている。

 学はいつものようにボールを拾いドリブルをしながらリングとの距離を測る。地面の感触を確かめ、ドリブルと自分のリズムがあったところで学はシュートを放つ。弧を描いて飛んでいったボールはきれいな軌道でリングに向かって飛んでいった。

 ゴールネットが取れてしまったリングの真ん中を、ボールは音も立てずに通る。学は自分の感覚が鈍っていない事に安心する。そのまま三〇分ほどシューティングをして学は公園を後にした。放課後のシューティング練習。部活を辞めても、これだけは辞められないでいた。

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