宇宙人とバスケで頑張ります

@seiichi_120

少し未来の日本

 二〇六六年の九月四日、とある高校の二年三組の教室で、いつものように教師のイタミが授業をしている。今日のボディはいつものステンレスそのままの銀色では無く、赤い塗装がなされていた。

 生徒がなぜ赤なのか尋ねると「昨日ヘルシンキの生徒に聞いたのですが、フィンランドでは赤が縁起の良い色らしいので」とのことらしい。そういうブームなようだ。

 イタミは指が十本ある手で器用にチョークを掴み、授業を開始する。

「今日は近代史をやります、第一次地球交渉と第二次地球交渉の後、地球が二級文化遺産に指定されてメナ星の保護惑星に指定されてからの歴史です。」

 イタミはそう言うと、日付と同じ出席番号だった川崎学を指名した。「まずは前回の復習から。地球交渉について簡単に説明をしてもらえますか?」学は起立し、視線を左上にやりながら思い出すように答える。

「二〇四七年にメナ成人から地球に保護の提案を開始。第一次世界交渉が行われました。約一八〇の国と地域が提案を受け入れる一方で、アメリカやドイツ、ロシア、中国と言った主要国は拒否。第二次地球交渉では、それらの国と積極的な交渉を行い、各国の理解ある対応により地球は第二種文化惑星に指定されました。」

 学は淀み無くスラスラと答える。

「素晴らしいですね。ありがとうございます。惑星によっては武力行使をしてくる事もありますから、対話で交渉に臨んだ地球は素晴らしいです。」

 イタミのボディの顔に当たる部分は液晶がついており、絵文字のような絵で表情を表す。学の回答を聞くとにっこりとした笑顔が液晶に映された。

 学は着席したが、内心苦笑いをしていた。図書館の本で、教科書には載っていない交渉の詳細を把握していたからだ。実際のところ、地球としてはメナ星人に対して攻撃を仕掛けている。第二次地球交渉が始める前、提案に反対した各国が協力してメナ星人の宇宙船に対して爆撃を試みた。しかし、宇宙船の船体に打ち込んだはずの兵器達は、目標に到達すること無く、姿を消したそうだ。

 大混乱に陥りながら次の手を考えていると、二時間後、使用した兵器達がそっくりそのまま、むしろより綺麗に整備された状態で、戦略本部の前に並べて返却されたらしい。添えられたメッセージには「歓迎の花火感謝します。しかし、我々は音と光で興奮する感性が無いため、もったいないので爆発する前に回収させていただきました」とあったそうだ。当時の各国の首脳達の気持ちに思うと、学はいたたまれない思いがした。

 イタミが黒板への板書を開始し、本格的に今日の授業を開始したので、学は授業に意識を戻した。

 イタミが全世界の教育を担うようになってから、塾やその他の教育機関は無くった。思念体であるイタミは、複数のロボットに意識を移すことで、世界中のすべての子供達の教育を担っている。学校という文化を残すために集団授業も残っているが、個別授業で手厚いフォローがあり、イタミの指導が最も効率の良い学習方法となっている。国立の大学への進学を目指す川崎学にとっては、少しも無駄にできない時間だ。のっぺりとしたイタミの合成音声を聞きながら、学は授業の内容をノートにまとめた。

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