置き去り

stdn0316

第1話

 テニスサークルの大学生5人組が、心霊スポットを訪れた。

 よくあることだが、テニスサークルといってもテニスはおまけ程度で、集まってすることといえば飲み会がほとんどであった。


 大学の夏休み、地元に帰らないメンバーで連日酒を飲んで騒いでいたが、流石に飽きてきた。

 これもまたよくあることだが、そこで誰かが面白半分で見つけた廃旅館に行くことにした。


 廃旅館では、特に何も起きなかった。声が聞こえたとか、人影が見えたとか、そのようなこともなく拍子抜けした。

 よく調べずに行ったが、特にいわくもない場所のようだ。


 ただ、一つだけ妙な張り紙があった。

「置き去りが発生した場合、連絡が行きます」

 

 不法投棄対策だろうか?雑な手書きのその張り紙は少し不気味ではあった。


 翌日5人が集まった時だった。

 5人の一人であるAが、別人になっている。

 背格好から服装、話し方まで完全に別人である。その存在がAとして振る舞い、皆に話しかける。


「飲み会やろうぜ」

 陽気なAの口癖だった。Aではないそれが、他の4人に呼びかけ続ける。無論、その後5人で集まることはなかった。


 大学でもそれは4人に絡んだが、ひたすら無視した。スマホにも頻繁に連絡が来た。そしてその内容は常に「飲み会やろうぜ」であった。


 何故か4人以外の者にとってはAとして認識されているようであった。


 卒業して皆バラバラになってからも、連絡は届き続けた。スマホの連絡アプリに、SNS投稿のリプライに、ショートメッセージに。

 郵便受けにも殴り書きの手紙が届き続けた。

 着信拒否、電話番号を変えるなどしてもどこからか連絡は届いた。


「飲み会やろうぜ」

 その連絡があの日以来現れたものからなのか、廃旅館に置き去りにされたAからのものなのか、分からない。




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