人間代表と、込み入ったお話と

「じゃ、じゃあ……俺も魔法が使えたりする?」


「恐らく『』的には確実に出来るかと」


「どうやったら魔法って使えるの?」


「まずは加護を受けている精霊を確認する必要があるので……すぐには難しいかと」


「今はそんな事を確認している時間はない、後にしろ」


「えぇー! マジか。知りたかった。ウェルター後でやり方教えてっ」


「はい、勿論です」



 不機嫌クオ様が、カリカリとしだしたので話が打ち切られてしまったが、後での楽しみが出来たので俄然がぜんやる気が出てきた。まずは頼まれた事をこなす事に専念しよう。



「そ、それで……この後人間の来客があるんだよね? もしかして、その内容はさっき話してくれた妖魔についての事ですか?」


「そうだ、数ヵ月前に一度エンデュラムの力を抑えたが、また最近力を増してきたからな」


「一緒に協力してまた倒しに行こうって事?」


「いや、そう簡単な内容ではない」



 人間と協力してエンデュラムを倒しているって言ってたからてっきりそんな友好的な話し合いなのかと思えば、そうでもないらしい。

 更に聞き出そうと口を開いた時、入り口の扉が開かれ新たな人物が入ってきた。



「クオ様、サイロード国の奴らが到着致しました」


「ご苦労だったヤーン。そのまま此方こちらへお連れしてくれ」


「はーい、です!」



 人懐っこそうな笑顔でそう呼ばれていたヤーンという男は、女子顔負けの綺麗な顔をしていた。線は細い感じだが、身長はそこそこあり声も低い。

 髪型はショートボブで、女性のような顔立ちなので、見た目だけではどちらかわからない位だ。


 彼が一度視界から消えてしばらくすると、ぞろぞろと知らない人達を連れて感情の読み取れない不自然すぎる笑顔を浮かべて戻ってきた。



「クオ様、お待たせしましたー! サイロード国の皆様です」


「ご無沙汰いたしております、サイロード国軍分隊長のスクラム・ジョンダルクでございます」


「シフ・ワラドールでございます」



 八人の集団の中の先頭にいた二人が順に頭を下げていく。

 スクラムと名乗り出た男は、紺色の長めの髪を全てオールバックのポニーテールでまとめている。切れ長の瞳で耳にはピアスをしていて、見た目だけだとちょっとチャラめのお兄さんという感じだ。

 軍隊を率いている人と言っていたからか、重たそうな鎧を身に付けても全く平気そうな顔をしていた。


 シフと名乗った男は……綺麗な白髪のおかっぱ頭で、色素が全体的に薄くて儚い印象だった。

 華奢きゃしゃ繊細せんさいな雰囲気を持っているのに、何か内に秘める恐ろしさを感じて気味が悪かった。


 クオが俺の方にすっと顔を寄せ、俺だけにしか聞こえないように小声で忠告を入れる。



「とにかく、お前は何も喋るな。全て我々がやり取りをする」


「……何度も言われなくても分かってます」



 さすがに、情勢も人間関係も知らない俺が手を出せる案件ではないのはバカでも分かる。

 取りあえず、魔王という人がどんな人なのかは分からないけど、それっぽく見えるように出来るだけ迫力が出せるように顔を作り込む。


 ふっと笑う気配を感じて隣を見上げれば、せっかく実行した俺の努力に笑っていたウェルターが口元を腕で隠している。

 視線だけで『笑うなんてヒドイよ!』と送ると、軽く頭を下げてから緩んだ口元を引き締め、ようやく真面目な表情に戻していた。



 クオとマーレイは連れ立って降壇こうだんし、階段の下にいたアダインとヤーンより更に前に出て、スクラムとシフの目の前まで歩み寄る。



「遠路遥々はるばるとご苦労様でした。本日は如何いかなるご用事でいらっしゃったのですか」


「……それはそちらが良くご存知なのではないでしょうか、ルバート宰相閣下」



 シフと名乗った男は、透き通るような綺麗なアルト声でクオに向けてそう告げた。ルバートとは恐らくクオの名字だろう。思わぬ所で彼のフルネームを教えて貰った。

 クオ・ルバートは、とがめるような彼の物言いに、ややムスッと顔をしかめていた。



「――領地の結界の件でしょうか?」


「はい、左様でございます」



 領地の結界? とは何の事だろうかと聞きたいのは山々だけど、ここはクールな顔のまま見守ることに専念する。しかしながら、さっきまでタメ口だったクオが必要以上に敬語を使うと逆に威圧感が増して怖い気がする。

 シフが、一歩さらに前に出て付いた様子もなく淡々と告げる。



「妖魔の力が増した為なのか、結界の魔力が弱まっているのかは存じ上げませんが、近頃結界を抜けて領内に侵入してくる妖魔の数が増しております。つきましては、結界の強化を魔王様にお願い出来ればと参りました」



 なんとなく内容を推理してみるからに、結界を張ってる事によって街に侵入してくる妖魔を防いでいたのだが、その力が弱まってるから助けてって事か。

 この世界の人間も魔法って使えるのか? 結界もきっと魔力が必要だろうから、人間の誰かが結界を作っているのか、強化を此方に頼むという事は、結界は魔族が作っているものなのか……多分後者の方が正解に近そうだな。



「簡単に強化と言われますが、此方こちらも相応の対応はしておりますので、これ以上の魔力を裂くのは難しいのですよワラドール殿」


「恐れながら、近頃魔王様のお力が弱まってきているのでは? という風の噂を耳に致しまして、その影響のせいかもしれないと心配になった次第です。ですので、魔王様のご様子伺いも兼ねて参ったのでございます」


「それはそれは……ご心配をお掛けしたようで申し訳ないですが、我が王はお元気でらせられますので杞憂きゆうかと」


「……それは、ようございました」



 腹黒い笑みを浮かべながら笑顔とは裏腹にバッチバチに威嚇いかくしあう二人。

 二人の上部うわべだけで交わされる舌戦を、ヒヤヒヤと見守っていると、チラリと何かを見定めるかのごとくシフが俺に視線を向ける。

 げ、元気ですよー! と伝えるのが正解なんだろうと思って、軽く微笑み返したが、いぶかしげな表情に変わった。やべ、何かやらかしたか。

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