よそ者扱いの俺と、謎のネックレスと

 よく見る戦争ものの漫画とかだと、確かにお偉い人が居る所であれこれ会議とか外交とかしてるのは見るけど、別にお偉い人が出られないからって代わりの人間を置いてまでしないといけないものなのか。



 衣装部屋を出て、廊下を更に奥へと進んでいくと、ドでかい大きな扉の前に辿り着いた。

 俺達が目の前で立ち止まると、どんな力で動いてるのか分からないが、勝手に内側へと自動的に両開きの扉が開いていく。



「ぜ、全自動?」


「この城の『魔力』で動いています」


「へぇ、魔力とかあるんだ。さすが異世界だな」



 魔力とか魔法というワードを聞くとちょっとワクワクする。ゲーム勢からしたら、一度くらいは絶対に魔法に夢を抱くはずだ。

 ミーハーな俺を呆れたように見下ろしていたマーレイは、少し先を歩いていく。この全く見知らぬ場所にも地味に慣れつつあった俺は、自然とその背を追いかけて小走りで付いていく。



 だだっぴろい空間で、赤い絨毯が中央にすうっと伸びていて、その先に数段の階段を登った少し高い場所にはいかにも……という重厚な王座っぽい椅子が置いてある。

 金銀の装飾で縁取られていて、座面は赤を基調に作られていた。


 階段の手前辺りに、ウェルターとクオが何やら会話をしていたが、俺達の気配に気が付きこちらに体を向けた。



「ほう、着飾ればそれなりだな」


「……楼人様」


「あのー……俺は喋らなくて良いって聞きましたけど、他には何かすることあります?」



 取りあえず、この中で一番偉いっぽそうな雰囲気のクオという男に尋ねてみると、無言で懐から謎のシルバーの鎖だらけで出来た洒落しゃれっ気のないネックレスのような物を取り出した。



「……これは?」


「魔王様が常に着用している鎖だ。今は諸事情にて着用出来ないので、お前に着けて貰う」


「え、そんな大事なものを俺が? どのみち着けても服の下に入るから見えないし、別に無くてもバレないんじゃ?」


「――いいから、早くしろ」


「……クオ! 何の説明もなしに」



 クオの威圧に負けて受け取ったネックレスの鎖を外して首に掛ける。ウェルターが何故か焦っていたのが少し不安だったけど……カチリと結び付けた瞬間、急激な目眩が襲ってきて、立っていられなくなる。



「うぇ……な、んだこれ」


「楼人様!」



 ウェルターがすかさず駆け寄ってきて、ふらつく俺の背中を支えてくれた。一瞬襲ってきた目眩は治まったけど、何となく身体をむしばむような薄気味悪い気持ち悪さが常にまとっている感覚にゾワゾワする。



「こ、れ……このネックレス、のせい?」


「申し訳ありません楼人様。説明の方が後になってしまいますが、そのネックレスは王族の『血』にしか反応しない物で、今の状態の王が着けていてもあまり効果を得られない為、代わりに楼人様に着けて頂かないといけないのです」


「そ、なんだ」



 本当の目的は『コレ』だったんじゃないかと思う。誰かと会合するから代行で居ないとって言ってたけど、ぶっちゃけ社長やら王様なんて、たまに居なくたって問題はないはずだ。

 あと、気になったけど『王族の血』にしか反応しないものを俺が着けて意味があるの?


 何かを見定めるように観察しているクオとマーレイの視線がめっちゃ不快だが、何となく負けたくなくて気持ち悪さに耐える。



 ようやく慣れてきたのか、変な気持ち悪さは無くなった気がする。ただ、凄く運動をした後みたいな疲労感のようなものは感じるけど、さっきよりは全然マシだった。



「……大丈夫ですか?」


「ありがとうウェルター。大分良くなった」


「ふん、そのままヘタるようなら即刻追い出すつもりだったが――根性はありそうだな」


「クオ! お前って奴は」


「ウェルター。今は喧嘩をしている時間ですら惜しいのでさっさと説明を始めますよ」


「……ちっ」



 ここまで乱暴な言葉を扱うなんて。今までの優しくて穏やかなあの人の方が仮面を被っていたのかと思ってしまう。

 ただ……乱暴な言葉とは裏腹に、俺への対応はとても優しくて丁寧だった。


 まだ少し足元がもたつく俺の背を支えながらゆっくりと壇上へ誘導して例の豪華な椅子へと座らせてくれた。

 座り心地ははっきりいって微妙だった。クッション的な素材が入っている訳ではないので、尻に固い材質の板が当たってなんなら痛いくらいだ。


 ウェルターは俺が椅子に座ると、そのまま俺の左隣に留まった。

 同じく壇上に上がってきたあとの二人は、それぞれ俺の正面に並んで立ち止まると、説明の続きを始めた。




「取り急ぎ今必要な事を端的に説明します。現在サイロードの国の代表の者どもがこちらに向かっています。サイロードとは、人間達の住んでいる国の名前です」


「えっと、この世界にも人間が住んでいるってことですね」


「そうです……貴方の表現に言い換えると、この世界には彼ら『人間』の住む地域と、我々『魔族』の住む地域が分かたれております。ここまでは理解できましたか?」


「はい。ゲームやらで魔族耐性は付いてるつもりなんで、特に抵抗や偏見はないです」


「理解が早くて助かります。そして、その二つの種族以外にももうひとつ別の種族がいます」


「もうひとつ……?」



 マーレイ達の不快そうな顔を見るに、それがあまり良い話ではないと予感した。

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