金髪ツーブロックと、魔王のお城と
昔から上留さんにはお世話になりっぱなしだった。理人が熱を出して保育園から連絡があった時も、俺達の授業参観にも来てくれた。
三者面談も、仕事で来られない父の親代わりとして一緒に来てくれて嬉しかった。
血は繋がってないけど、本当のお兄さんみたいにいつも側で見守ってくれていた上留さん。
俺はいつも助けて貰ってばかりで、上留さんから頼み事をされたことなど思い返してみれば一度も無かった事に気が付いた。
そんな彼が、初めて俺にお願いをしている。内容はちょっと良くわからない不思議な話だけど、俺に何か出来るなら力になりたい。
「……俺で、力になれるの?」
「貴方でないと、ダメなんです」
「俺じゃないと?」
それは、どういう事なんだろう。もう少し内容に突っ込んでみても良いんだろうか。
「それでも、俺は……私は迷っています。今とても幸せに過ごされている貴方の人生を、大きく変えてしまうことを」
「え、人生って……そんな大袈裟な」
「もうそろそろお話は済みましたかウェルター」
んんんんん!? 全く気配を感じなかったのにいきなり背後から誰かの声が混じってきた。てか、ウェルターて何? え、名前なの。誰のよ。
飛び上がり様に後ろへ体を反転させれば、全く知らない男が疲れた様子で腕組みをしていた。
ていうか、何だこの人……コスプレの趣味でもあるのか。
中性ヨーロッパ風の白を基調としたローブみたいなのを身に付けてる。そしてそれが似合いすぎている。
金髪ツーブロック。目鼻立ちも綺麗でスラッとした無駄肉のない高身長。
普通に日本語を使ってたけど、絶対ハーフか外国の人だという雰囲気だ。
見知らぬ人物の透き通った空色の瞳が俺へと定まると、少し驚いたように目を見開いた。あんまり良く聞き取れなかったけど「これ程までとは」という小さな呟きが聞こえた気がした。
何なのよ。俺の知らない所でどんどんと話が進んでいきそうな予感に不安が募る。
「マーレイ、少しだけ待ってくれないか」
「もう充分待ちすぎましたよ。本当ならばもっと早く実行したかった所を、ここまで待っていたんです。クオの眉間のシワが増えすぎて、見た目だけ老化しまいそうですよ」
マーレイ、というらしい。やはり外人か。そして何やら待ちきれないらしい。
マーレイはゆっくりとこちらへ近付いてくる。俺の目の前でピタリと止まると、観察するように上から下へと眺めていく。
近くで見上げると、迫力が増した。というか上留さんもだけど、マーレイという人もデカいからそれだけで威圧感がある。
181センチと言ってた上留さんよりほんの少し背が大きく見える。くそ、身長寄越せ。
「これなら、うまく成り代われそうですね」
「ん、成り代わる?」
「マーレイ!! それはまだ……」
「まだ話してないんですか?」
成り代わる……という不穏な言葉を聞き、顔をしかめると、上留さんの焦ったような声と、呆れたように言葉を返すマーレイの声に挟まれる。
デカい二人が俺を間に挟んで会話を始めるのやめてくれー! ていうか俺の話なのかこれ。だとしたらなんで除け者にされてるんだ。
「まあ、話は着いてからで良いですかね。予定より早く奴らが到着するらしいので、とにかく今は時間が惜しいのですよ」
「ちょっと待って。着いてからって、
「マーレイ、まだ楼人様の承認を得ている訳では無いんだ、だから」
「ウェルターの生温いやり方で進めていたらいつまで経っても進展しませんよ。とにかく今回は急を要する事態なので、強制的に連れていきます」
この少しの間だけで、何やら物凄い気になることだらけの内容が語られてません!? 何やらどこかへと移動するという事と、何故か上留さんが俺の事を『様』付けで呼んだ事と、さっき気になったウェルターというのが恐らく上留さんの事っていう。
そして上留さん、このマーレイという人には敬語を使ってない。なんとなく、この話し方の方が本来の上留さんのものなのかと思えた。
何から考えたら良いんだろうか。頭がパンクを起こす前に……腹に何かが巻き付いたと思えば、ふわりと両足が地面から離れた。
「……はへ?」
「マーレイ、待て!」
どうやらマーレイというやつに腹を抱えこまれて持ち上げられていたらしい。チビとはいえ男の俺が片手で簡単に抱き上げられてしまうとは、何という屈辱だ。
マーレイは謎の呪文らしき言葉をぶつぶつと呟き始める。日本語でも英語でも無いような気味の悪い言葉が始まった瞬間から周囲がモヤモヤと暗闇に包まれていく。
「え、これ何!? 何が起きてるの?」
「ちっ、扉が開き始めてる」
普段の丁寧な口振りの上留さんらしからぬ、乱暴な言葉遣いにも驚いたけど……広がり始めた暗闇は既に辺り一面を覆っていた。
すると、急に下から大きな力で引っ張られるみたいな感覚がして、気持ち悪くなる。
「うわぁ……何なにっ!?」
「良し、着いた」
「…………」
一気に視界が切り替わる。目の前にはゲームで見るような大きなお城と、その周りを囲うように森林が広がっていた。
一見、ゴージャスで華やかな城に見えなくもないんだけど、城の奥底からただならぬ暗い闇のような物を感じてゾクリと身体が震える。
これは、ゲームでいう王様が住んでいる
「ナニコレ、魔王城?」
「はい、その通りです」
え、まさかの正解!? いや、冗談? それとも大真面目に言ってるの?
雰囲気的に明るさを感じなかったから魔王の城みたいだなと思って冗談を言ってみたのに……。
コスプレお兄さんには冗談が通じないのか、ガチのガチで本物の魔王城なのか判断が付かない。
マーレイはゆっくりと俺の体を地面に下ろすと、付いてこいと声を掛けてきた。どうしたものかと上留さんを見上げれば、困ったように眉を下げながら頷いたので、二人並んでマーレイの後ろを付いていく。
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