工業&室内デザイナー柳瀬 3
さて、恵一の個人的な嗜好から始まったモンキータクシー稼働時非稼働時の脳波測定実験の目的は「バッググランウドミュージック」ならぬ「バッググラウンドパチンコ」、つまり「BGP」としてスマパチ仕様のパチンコ個機を使用した際に、良好な脳波、ミッドα波の数値を増すのに貢献度あるのかないのかを推し量るいうところに眼目があり、つまり自室パチンコ稼働というものが生活の質の向上の役に立つのか否かを知る、ということであったのだが、恵一モンキータクシーのケースでは、ミッドα波の比率が他のβ波、ファストα波、スローα波、θ波、等と比べて明示的に高まる円グラフの具体的データを得たのであった。
「スマパチルーム実験ラボ」は最早、恵一の個人的な嗜好うんぬんでなく、今現在、社会的な風圧高まる逆境のさなかにある「パチ」に、プラスの側面ほんとうに皆無なのかどうなのかを検証する、というかなり公的な側面を帯びた「任務」のような性格の仕事になってきているので、施設の規模も組織の人員数もそれなりに大きなものになっており、実験用の個別の台そのものも、わざわざ中古市場から調達せずともメーカーから無償提供されるルートが出来上がっていたし、なんなら絶版状態で中古市場にも全く出回っていないような「幻」の機種も改めて作り直して提供しますよ、くらいな積極姿勢をみせるメーカーもでてくるしまつ。まあ、それだけ心底、業界の「復興」を願う者も多いということであろう。どんなかたちであっても。
メーカーからすれば「マイスマパチルーム」なんてものは、スケールメリットのかけらもないし、本質的にはむしろ流行らないでほしいくらいな評価であってもおかしくはないんだが、少しでも「悪評」が取り除ければ手段は問わない、っていうくらいに追い詰められていた側面もあったのだと思われる。
今やすっかり「パチ」がらみの仕事オンリーになってきた恵一。ラボにおける大半の実験業務は分担しての流れ作業システムが構築されているし、高所から大局的に見はっていればいいだけ、というような立場の所長職ではあったが、とっかかりの「モンキータクシー」とは究極の正反対な性格をもつ「eフィーバーからくりサーカス2 魔王ver(三共)」の実験結果には興味津々だったので、自ら実験台になろうとまでしたくらいだが、(先生の好みの偏りがデータに現れかねないのでやめてください)と止められ、とにもかくにも「立ち合い」だけはする、ということになった。
でまあ実験やるまでもなかった話ではあったが「eフィーバーからくりサーカス2 魔王ver(三共)」に関しては「バッググラウンドパチンコ」としては演出がうるさすぎて不向き、という結論が早々に出た。被験者のミッドα波の比率が上昇するような傾向が全くみられなかったのである。
そりゃそうだ、ってことだ。何しろこの手のものは「画面やギミックの演出を鑑賞する」ことが目的化して作られている側面が大きすぎて、クオリティーライフの足しにするうんぬんかんぬん、でなく、全神経をこちらに集中せよ、って話になってるわけで、ライト感覚で接するのは無理ということなのであった。しかも確率399分の1で「重い」し。
とにかく、ありとあらゆる機種をありとあらゆるシチュエーションの「部屋」で、実験したところ、やはり恵一の試行した「和室風味」&「羽根モノ」の取り合わせが、ミッドα波が高まる状況を産みやすいことがわかってきた。同様の事を他国、他国現地の人、で実施したらどうなるのか興味は尽きないのだが、いずれにせよ「パチ」は相変わらず本邦独自のドメスティックな娯楽であったから、そこはいま考慮に入れる必要はなかろう、と、とりあえず結論づけた。
従来、台にきちんと向き合っての「遊技中」の脳波データしかなかったところへ、「BGP」のデータが新たに加わり、このようにいままで全く知る由もなかった興味深い事実もわかってきたところで、ラボ建設に深い所で関わっていた「野党連合」=「大陸東連合」中枢の者たちはハタとひらめいた。自陣営の精神的支柱でグローバル時代の新たな「革命理論」を打ち立てた、コードネーム「北の華族」ことプレトノフ元KGB幹部が現在重度の「鬱状態」にあり、もう2年も「療養」の状態が続いており、これは勢力全体にとっても由々しき問題なのであった。なんとか復活してもらわないことには今後の戦略立案にも支障を来すであろうことは間違いない。
様々な治療方法を試行錯誤してはみたものの一向に回復の気配が見られない。と、そこへ「BGP」のミッドα波効果に関する新たな知見が入ってきたので、藁にも縋る思いで試してみることになった。
まずは恵一のモンキータクシーから始めてみた。モスクワ郊外に多摩武蔵野とほぼ同様の施設を建設してまでプレトノフただひとりの治療を始めたのである。
モンキータクシーで、早くも良い傾向が見て取れた。なので、次々、羽根モノ各種、各種「和風」内装の部屋、をあれこれ組み合わせて、次々と試みたところ、目覚ましい効き目があり、開始3日後には、プレトノフ自らの意志で立ち上がって部屋の中を歩き回り、トイレや洗顔、歯磨き、最低限の食事、以外のことにも注意が向くようになってきた。というか当然パチンコ台そのものに近づいてあれこれ興味深く観察した。4日目には、言葉を発して、これはいったいなんであるのか?を問い質した。言葉を発するだけでも驚きなところへもってきて、質問までするとは!?とプレトノフ復活を願う側近たちは色めきたつ。
これは、わが連合が日本国民皆兵化のために廃絶を目論みつつも、その一方で異端分子を排除するためにも使おうとしているパチンコという遊技器具です、というその説明が終わるか終わらないか、のタイミングで、「ああ、パチンコか。これが現実の生のパチンコというものなのか」と何やら感慨深い様子で言葉を発した。パチンコをもともと知っていたということなのか?
ああ。昔ウラジオストックの郊外の廃屋に実験的にパチンコホールを再現させてみたんじゃ。わしは実際に打つことはなかったが報告用の映像はモスクワで見た。映像みてるだけだと、いったいこれの何が面白いんだ?としか思わなかったんだが、打ってる者どもの様子をみているうちに、これはただ事ではない、という気になってきたんじゃ。ああ、確か『北斗の拳』の台だったな。まあ北斗マニアもわしらの兵には多かったから、それでああも皆夢中になっておったのか、それともパチンコそのものの魔力なのか、その時はまだ判断つかなかったのじゃ。ただいついかなるときも冷静沈着、時に大胆かつスピーディーに任務遂行やってのける優秀な我が部下たちが、あんな呆けたような表情になるっていうのには純粋に驚いた。これは武器にもなるし薬にもなるかもしれん、とすぐに考えた。そうじゃそうじゃった。そしていま現にわしにとっては「薬」になったということなのじゃ。しかし、こいつはあれじゃな、あの時映像でみた北斗の台とは、だいぶ趣がちがうようだが?
なに?「羽根モノ」とな。ふーむ。なるほど、こいつは確かに北斗の台のようにうるさくはない。それにあれだな、どちらかといえばピンボールのように、玉の動きそのもの自体に意味を見出す、という類のものじゃな。そうじゃそうじゃ、わしがまだまだヨチヨチ歩きだった頃に聞いたような、最も初期の頃の電子音じゃなこれは。
いや、これは見れば見るほど実に趣深いものじゃのう。うむ、ちょっとこの固定したアースを外して、ふむ、自分でハンドルを握ってだな、よしよし、で球はいちばんうえの4本並んだ釘の左端の釘の手前あたりに弱めに当たるようにするわけだな。「ぶっこみ狙い」?わかった、わかった、皆まで言うな、こちとら戦闘現場の経験も豊富なんじゃ。だいたいのことは見れば一瞬で察しがつくわい。
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