第2話 覚醒する力

悠人は額に手を当て、頭の奥から響く奇妙な感覚を振り払おうとした。


(なんだ……この感じ……?)


 事故の直前、確かに三浦が何かを叫んでいた。

だが、その声の意味を考える間もなく意識を失い、気がついたら高校時代の自分に戻っていた。


 未だに現実感が伴わないが、これが夢でないことは、すでに理解していた。そして——現在に至る。


「……本当に、過去に戻ったんだな」


 言葉にしてみても、事態の異常さは変わらない。

悠人はベッドから降り、軽く体を動かしてみた。


 社会人として長年培ってきた感覚とは違い、どこかぎこちない。

それも当然だ。十年前の、自分の体なのだから。


 部屋の中を見渡すと、目に入るのはどこか懐かしい物ばかり。

だが、さっき目を覚ました時にすでに確認したことだ。


(過去に戻ったことはもう分かった……問題は、これからどうするかだ)


 昨夜の飲み会で三浦が言っていた。


『もし過去に戻れたらやり直してみたい?』


 あの時は酒の席の冗談だと思っていたが、まさか本当に戻ることになるとは。


「こんなのラノベでしか見たことねぇよ……いや、逆にラノベ脳だからこそ、この状況をすんなり受け入れられるのか?」


 悠人は思わず笑みを浮かべる。


「いや、待てよ……つまり俺、人生リトライ系主人公ってことだよな?

これ、完全に俺のターンじゃね?」


 興奮を抑えきれず、拳を握りしめた。


(チャンスだ、これはチャンスなんだ! 今度こそ後悔のない人生を——!)


 悠人はベッドから飛び起き、勢いよく部屋のドアを開けた。


(まずは状況整理だ。とりあえず朝飯食いながら考えるか)


 階段を下り、ダイニングへ向かうと、母親が食卓で料理を並べていた。


「おはよう、悠人。ちゃんと起きられたのね」


「まぁな。今日はちょっと色々考えることがあってさ」


 悠人は適当に返事をしながら、椅子に腰掛けた。その瞬間——


『なんだか今日はいつもと雰囲気が違うわね……何か悩みでもあるのかしら?』


 ——母親の声が、直接頭に響いた。


「……え?」


 言葉を発したわけではない。それでも、まるで耳元で囁かれたようにクリアに聞こえた。


(いまの……心の声?)


 悠人は戸惑いながらも、母親の目を見つめた。


『顔色も悪くはないし、病気ってわけじゃなさそうだけど……』


 まただ。


 これは偶然じゃない。


(俺……人の心が読めるようになった?)


 戸惑いと混乱、そしてわずかな興奮が入り混じる中、悠人は母の声に返事をすることすら忘れていた。


(何がどうなってるんだ……?)


 過去に戻った理由もわからない。だが、それだけではなく——この能力まで手に入れてしまった。


 悠人の新しい人生が、今、確実に動き始めたのだった。

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心を読めたなら(仮) @ka1994

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