第7話 美少女との再会
「よろしくー」
「どこ中出身?」
「あ、俺はねー」
少しだけそわそわした雰囲気の教室内。落ち着かないのは私だけじゃないんだと胸を撫で下ろす。
1番後ろの席に最上君が足でイスを引き、荒っぽく腰を下ろすところを皆が緊張した面持ちでこっそり見ていた。もちろん、私も。
「あけび。席決まってるらしい」
それは黒板に【入学おめでとう】の文字と共に張り出されている座席表を軽く指差す薫君に、私が頷くのとほぼ同時だった。
「……え、あけび?」
私たちに背を向けて楽しげに男子と話していた女の子が、私の名前を呟いて振り返った。
色が白くて小さな顔。形のいい鼻に、ツヤツヤのピンク色の唇。長い柔らかそうなまつ毛に縁取られた大きな目をまん丸くして私を見つめている。小首を傾げると、彼女の肩までのふわふわしたオレンジがかった髪が揺れた。サイドを編み込んだハーフアップがとても似合う。
こ、こんな可愛い子、見たことない。
思わず見惚れていれば女の子は私に近寄ってきて、頭のてっぺんから爪先まで視線を2往復させた。
「ねね、あけびって、姫後 あけび?」
スカートから伸びるスラリとした足をこちらに踏み出して、ゆっくり私の顔を覗き込む彼女に「は、はい」とぎこちなく頷く。
この子、意外と背が高い。160半ばくらいあるんじゃないかな。それに、女の子にしてはちょっとだけ低めの声だ。
彼女は不意に顔を輝かせたかと思えば、勢いよく私に飛び付いてきた。
「あけびちゃんだ!!!」
「おわっ!」
変な声が出ちゃったけど、仕方ない。
だってこんな展開、誰が予想出来ただろう!!
「あけびちゃんあけびちゃんあけびちゃん!!会いたかった!夢みたい!」
「えっ、はっ、えっ!?」
私を抱き締める腕にぎゅううっと力が込められ、心臓が破裂しそうだ。
す、スキンシップが!私には未知の領域すぎて!
待って!私にはこんなに可愛い知り合いはいないよ!!あ、いや、可愛くなくても知り合いなんていないけど!!
というか、力が強い……!
助けを求めるために薫君を縋るように見れば、彼は腕組みして私たちを眺めていた。たぶん彼女のことを思い出そうとしているに違いない。
私が呼吸困難に陥りかけた頃、ようやく解放された。
彼女は満面の笑みで私を見つめながら「僕、またあけびちゃんに会えて嬉しいな」と、はにかんだ。
ぼ、僕?
最近の女の子って1人称が【僕】なの?もしかして、私も変えた方がいいの?
いや、そんなことより。
私が貴重な知り合いを忘れる筈がない。でも、この子のことは、知らない。相手は覚えていてくれてるのに自分は忘れてるって、なんて失礼なんだろう!私!
「……あの、その、すみません。お会いしたこと、ありますか?」
失礼を承知で眉尻を下げながら勇気を出して尋ねると、反対に彼女の眉が吊り上がった。
「あ?」
あ?って言った!?今!
「僕のこと、覚えてないの?」
お腹の底から出したような低い声。眉間にシワを刻んでも可愛いことには変わらないけど、怖い。
彼女のジェットコースター級の変化に冷や汗を流しながら頷くと、「まぁ、こんな格好だしね、仕方ないか」と溜め息を吐かれた。
「鈴原 真澄」
すずはら、ますみちゃん。
頭の中で反芻してみてもピンと来ない。
おかしいな、私、人の名前を覚えるのは得意なんだけどな。
必死で記憶を遡っていると、鈴原さんがジトリと私を睨みつけた。
「……まさか、思い出せないわけ?」
「ご、ごめんなさい鈴原さん!待ってね、今思い出せそう……!」
本当は全く思い出せないけど、だんだん彼女を取り巻く雰囲気が険悪になってきたので慌てて言い繕う。
周囲の目もだんだん気になってきた。
薫君は我関せずだし。
でも、どうやら私は地雷を踏んだみたい。
彼女は肩を跳ね上げて、悲鳴に近い声を小さく上げた。
「【鈴原さん】!?止めてよ、そんな呼び方!……信じられない。本っ当に覚えてないんだね」
恨めしそうに私を見る鈴原さん、えーと、真澄さん、ちゃん?に本気で申し訳なくなってくる。
でも、信じられないのは私も同じなんです。本当に思い出せない。まさか自分がこんなにも薄情だったなんて!
「じゃあ結婚の約束も覚えてないんだ!?」
けっ、
「結婚!?」
「えっ、何の話?」
「あの可愛い子が」
絶句する私をよそに、ざわめいたクラス中が一斉にヒソヒソ話を始める。
け、けけけ結婚って誰と誰が!?
私が口をパクパクさせていると、いつの間に立ち上がったのか、隣から不機嫌そうな声が聞こえた。
「うっせぇ、女装野郎。ぴーぴー騒ぐな」
「口を挟むな方向オンチ!僕が自分に似合う格好するのは勝手だろ」
ええっ!?
迷惑極まりないとでもいうように眉根を寄せる最上君、そんな彼に人差し指をビシリと向ける真澄ちゃん。
って、ちょっと、え。知り合い同士?
というか……真澄ちゃんって、男の子!?!?
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