第5話 プーチン大統領のプランB
小中コラム
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夏休みの自由研究に植物の栽培をすることにした。プランA、旅行中に枯れてしまった。今からだと時間がない、じゃぁ、昆虫採集をして標本をつくろう。プランB、十分な数の昆虫か取れなかった。プランCとして考えていた読書感想文にしよう。
最初に思い付いたプランAを実行してもいつも思い通りになるとは限らない。そんなときのためにプランBやプランC を用意しておくと何とかなるものだ。
プーチン大統領は、頭の良い大統領だから、いくつものプランが用意されているはずだ。プランAは、3日でウクライナに傀儡政権を立てるというものだった。それが、うまくいかなかったので、ウクライナ4州をロシア領土に編入するという法案を議決した。プランB だ。こうなると4州はロシアの憲法に守られることになるので、ウクライナはロシアを敗戦国にするほか取り戻すことは困難になる。
ロシアの行為は、クラスの乱暴者が教科書を忘れたから友達の教科書を奪い自分の名前を書いて俺の教科書にするというような行為なのだ。
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第1節
「特別軍事作戦」は、人的損害を最小限にして、「ネオナチ」政権を転覆してロシア化を図ることだった。それがウクライナ軍の思わぬ反撃にあって、ロシア有利な状況であったが、戦闘は膠着状態になっていった。
そのような状況になった時、プーチン大統が、記者会見で「この軍事作戦は仕方がなかった」と言ったのだ。いつもは冷静沈着な大統領の所作には事態が大変になったという、焦りと動揺がにじみ出ていた。また発言も言い訳めいていて本音を吐露しているように感じられた。
子供のケンカではないのだ、大規模な戦闘が生じるような事態を起こしておいて仕方がなかったと一国を預かる大統領が発言してよいのだろうか。
確かに、ロシア連邦の軍事ドクトリンに則りロシアの議会が法案を決め大統領にドネツク、ルガンスクの独立を承認するように要請があったのだ。大統領としても議会を無視することはできない。だから安全保障委員会を放映するという小芝居を打ち、委員全員の賛成を根拠に「特別軍事作戦」を決行することに決めたのだ。
さすがに、国際情勢に長けているラブロフ外相は作戦がうまく遂行されたとしても国際的にはまずい状況になることを見通して口籠ってしまった。だが、プーチン大統領はこれだけ事前の準備をしたのだから楽観していたのであろうし、みんなの総意ということで腹をくくった。
事前にプーチン論文さえ用意したのだ。特別軍事作戦はウクライナ軍の反撃にあって侵攻速度は減衰したがプロパガンダの国なのだから確実に前進を続けていると国内向けに国営放送でいい続ければ言えばまだ大統領の威厳は保たれたに違いない。
しかし、思わぬ事態になったため動揺を隠しきれなかったのだ。だが、頭の回転は早い。自給率100%の国力を生かした持久戦に戦略を変えた。
時間は何時もロシアに味方する。膠着状態の体力勝負ならいずれロシアが勝つはずだ。
旧ソ連時代第二の軍隊であったウクライナ軍の手強さを初戦の戦車軍団壊滅で思い出したようだ。航空戦力はロシア空軍の方が圧倒的に優勢であるが、国境付近でミサイルを発射しては戻るというビビった戦法を繰り返している。
60~70億円もする航空機を1億円以下の地対空ミサイルで撃ち落とされたらコスパが悪すぎると考えたのかもしれない。
初戦の挫折の後、ウクライナとロシアの間で3回の停戦交渉がおこなわれたが、上から目線の交渉ではウクライナが同意できるはずもなく、交渉はまとまらなかった。勝手に侵攻してきて降伏しろと言われても、はいそうしますとウクライナが言えるはずもない。
ウクライナが本気で戦うことを選択したと判断したNATOは、ウクライナが負けないように兵器を供与することを決めた。だが、それはロシアの怒りがNATO に向かないように小出しの支援だった。ロシアのことを一番知っている国はウクライナと言える。NATOとアメリカが、全力で兵器をウクライナに与えていたら、この紛争は長引かなかったかもしれない。
ウクライナの思わぬ反撃にあって侵攻を止められた北西部のロシア軍は撤退していった。
その地に進攻したウクライナ軍が目にしたものはブチャでの大量虐殺の跡であった。
指輪物語に登場するモルドール軍オークの大軍勢が、通り過ぎていったような惨状だった。そして、70万人の子供が連れ去られた。ロシアは国際的に非難され、プーチン大統領は、国際司法裁判所(ICC)から国際手配されることになった。この処置によってプーチン大統領は、友好国以外の国へは、交渉に赴けなくなった。交渉上手の大統領が自由に動きまわれなくなったのは、相当な痛手であったろう。
第2節
プーチン大統領の手腕
1991年にソ連が崩壊して社会主義国から資本主義国家へと変貌していく。インフレ率は2600%というとんでもない状況だ。1998年には、国家財政が破綻して銀行倒産、庶民の貯金は消えた。そのようなとき、強い国家をつくるため選ばれたのが、プーチン大統領だ(2000年5月7日)。
豊富な天然資源をヨーロッパに売って国家を再建させるためドイツへ乗り込んでいった。工業国のドイツは、エネルギーを欲しがっていた。西シベリアに巨大油田があったが、技術と開発資金のないロシアは、外国の資本を利用したかった。プーチン大統領の交渉は巧であった。交渉を担当した関係者は、プーチン大統領の交渉は一分の隙も瑕疵もなかったと証言している。
2005年4月11日、プーチン大統領とシュレーダー首相とでノルドストリーム1の調印式が行われた。ロシアのガスがドイツへドイツの資金がロシアへ行く。こうしてプーチン大統領は、ドイツの歴代の首相を手玉に取っていくことになる。典型的な人たらしといえよう。いや、能力の違いと言っておこう。それともドイツの首相は、お人よしが多かったと言った方がよいだろうか(ロシア関係企業から利益供与を受けた首相もいる。ドイツの売国奴ともいえるが、大金を目の前にすると人は弱い存在ともいえる)。
聡明なプーチン大統領は、小説中の007に勝るとも劣らない人物なのだ。善悪を問わなければ超一流の詐欺師にも成れただろうし、幸運が続けばロシアマフィアの大物にも成れただろう。実際、脱税、横領の常習犯であるオリガルヒ21人を招集し、脅迫して彼らの株を提供させ50%以上を国家のものとしたのだ。
プーチン大統領に逆らうことは許されないのだ。プーチン大統領を批判したアンナ・ポリトコフスカヤは、自宅で射殺された。
プーチン大統領が殺したと発言した元ロシアの諜報部員、アレクサンドル・リトビネンコは、1ケ月後死亡した。体内からは放射性物質が検出された。自殺したと発表されたが、入手困難な物質だ。誰が自殺と思うだろうか。
プーチン大統領の考える大ロシア主義が完結するまで大統領を邪魔するものは排除されるのだ。
ロシアにエネルギーを依存することを懸念したアメリカはドイツに忠告したが自国の発展を進めるドイツに聞く耳はなかった。国益という蜜の前では、信義や安全保障を重んぜよという忠告はいつも聞き流される。その後、ロシアはガスの元栓を閉めたり開けたりを繰り返し、「ガス」を武器としてヨーロッパに圧力をかけることになる。
2018年、9月25日国連総会でノルドストリーム2の開通を各国が非難するが、ドイツは完全にロシアのエネルギーに依存することになった。
2022年、2月24日、ウクライナへロシアが侵攻した後、嘗て、ワルシャワ条約機構の支配下にありロシアのやり方を知っている東側のヨーロッパ諸国は率先して武器をウクライナへ供与したが、歴史的にしがらみがあり、また、エネルギーに未練のあるドイツがウクライナへ武器の供与を始めたのは侵攻後半年経ってからであった。
8月31日、対抗措置としてロシアはノルドストリームを停止した。これによって一月3万円だったドイツのガス代が15万円に跳ね上がることになる。
9月26日、元栓が閉まって使えないものはいらないとばかりに、ノルドストリーム1と2が、何者かによって爆破される。4本のうち3本が破壊された。米中央情報局(CIA)は、ウクライナ軍による攻撃計画を把握していたと報じたが、ウクライナ当局は否定している。ウクライナとロシアでは情報が、筒抜けになっている可能性がある。
ドイツのエネルギー状態を混乱させ、ウクライナのせいにして、欧米の足並みをかく乱するメリットは、ロシア側にあるが、のちにウクライナ人が逮捕されている(ロシアから資金提供を受けたウクライナ人と考えることもできる)。
この事件によって、ドイツは、化石燃料に頼らないエネルギー政策に転換した。
2023年、9月8日、建造物エネルギー法案(通称、暖房法案)がドイツ連邦議会(下院)で可決された。
「暖房法案」は、新しく暖房システムを設置する場合、65%以上再エネを利用することを義務づける法案で新興開発地での暖房設備が化石燃料だけの住宅は建てられなくなった。
再生エネルギー比率が85%の隣のデンマークから今度はエネルギーを買うことになる。
ノルドストリーム破壊から一年も経たないうちに国民に負担の大きい決議がなされた。ドイツの危機に対する決断は早い。福島原子力発電所の事故後、原発の廃止を決めたのも早かった。もし、ノルドストリームの破壊がプーチン大統領の指示であったら、EU地域の化石燃料脱却への舵を大きく切ったことになる。中国やインドには、行先のなくなった天然ガスを売り続けているが、戦費を担保するやむを得ない事業と考えることもできる。
第3節
話を少し元に戻そう。
北西部からの侵攻が失敗したロシア軍は方針を東部4州の攻防に切り替えた。4月ごろから、司令官の交代や罷免が続く。ブチャの虐殺には、FSB(ロシア連邦保安庁)が、関わっていたとされるが、その後、FBSの情報機関とプーチン大統領の間に軋轢が生じ、大将を自宅軟禁の状態にした。元諜報員の大統領は、暗殺や不審な事故死は好みだが、虐殺は好みではなかったらしい。
米国や欧州からの支援によってウクライナ軍は遠くにあるロシア軍の弾薬や燃料の集積所を攻撃できるようになった。ロシア軍の火力の低下によってウクライナ軍の一日の戦死者は最大六分の一程度(約30人)まで減った。ここで軍事援助を拡大していたら、ウクライナ戦争は終結していたかもしれないしプーチン大統領は再選されなかったかもしれない。
2022年の夏ごろには、主導権はウクライナ軍に移ってきていた。だが、欧米は第3次世界大戦に発展することを危惧して手放しに支援を拡大することには抑制的であった。
圧倒的火力を持つロシア軍に対してウクライナ軍は、常に兵器と弾薬の不足に悩むことになる。ロシア軍が使用する兵器と同等のものを与えるべきなのに、ロシア本土に届く武器は与えられなかったのだ。つまりウクライナが負けない程度の武器しか供与されなかったのだ。少量の戦力の逐次投入という最も愚かな選択をしたのだった。戦争は継続され犠牲者が増え続けることになる。
欧米はウクライナが勝てるだけの支援はできたが、ロシアが、NATO を敵とみなすことを恐れた。連合軍に勝てる国などないが、核のボタンを握っているのは、プーチン大統領なのだ。
プーチン大統領は、ロシアの存在しない世界など意味があるのかと過去に言っているが、モスクワが攻撃されない限り核のボタンは押さないとも言っている。キーウをミサイル攻撃で破壊しつくしているのに随分と勝手な言い草ではあるが、それがロシア人らしいともいえる。その口調を変えてもらうにはやはりロシアに負けてもらうしかない。
短期間で決着をつけるための「特別軍事作戦」であったが、2月24日の開戦から、ウクライナ軍が持ちこたえた、2週間後には、プーチン大統領も戦争になってしまったことを理解していた。それでも5月9日、の対独戦勝記念日に西側が予想していた総動員に踏み切らなかった。戦争を宣言すれば国内は混乱し内外ともに問題を抱えることになる。エスカレーションしては、再選が、危ぶまれる。核のボタンを他者に任せることはできない。
聡明なプーチン大統領は、一瞬で理解しているはずだ。対独戦で勝てたのは連合軍が西から反攻したからだ。ロシアでもしない二正面作戦をドイツはしてしまった。エニグマ信仰があったかもしれないが、チューリングマシーン(現在のコンピューターの基本原理となったもの)に暗号を解読されては勝ち目がない。連合軍は強いのだ。小国であっても団結すれば強いのだ。後ろにはアメリカが付いているのだし、プーチン大統領には敗戦の道筋も見えたに違いない。
ウクライナに必勝する確信があるなら慌ててロシアの歴史教科書を新たに作ったりしない。大統領の考えるロシアの歴史を残したかったのだろう。
緩いつながりの中国と、北朝鮮以外は、非友好国という四面楚歌の状態でどれだけ持ちこたえることができようか(アフリカ諸国とG 77 の多くが親露国であるが、参戦することはない)。
ベルリンの壁が壊されてから、ロシアの勢力圏は小さくなるばかりだ。アフリカに影響圏を拡大しているが、ヨーロッパに拡大することはもう歴史的に無理だろう。核の使用基準を失くしたのも、大統領の判断にのみ委ねるということだ。
前にも書いたように、近隣での使用はロシアに多大な核汚染被害を与える可能性がある。通常兵器で負けてもロシア国民は生きながらえるが、核を使用すれば、どれだけ生き残れることであろうか。核を使用しなければ、ロシアは生き残る。ロシア国民に影響を及ぼさない負け方なら、受け入れるであろう。
欧米は、ウクライナに戦う意思がある兵士がいる限り、ロシアが使用した武器と同等の武器をウクライナに供与するとロシアに通告すれば核を使用の選択肢は少なくなる。欧米は、ロシアに何と言われようとウクライナの求めに応じて武器を供与しているだけだと空惚ければよい。
プーチン大統領は、常々NATOと敵対するつもりはないと言っているし、NATOもロシアと敵対する気はないと表明すればよい。ウクライナの求めに応じて武器を提供しているだけだ。
ウクライナ戦争は、ルーシー家の兄弟同士で決着を付けさせるのがよいだろう。ウクライナの人はどう思っているのかわからないが、ロシアは間違いなくキエフ・ルーシー大公国を継承する国でありウクライナの弟分なのだ。ロシアがいつもウクライナに対して上から目線なのは、キエフ・ルーシー大公国の時代、一地方に過ぎなかったという劣等感の現われであり、ロシア帝国時代、ソ連時代にウクライナ人を奴隷のように扱ってきた歴史があるからだ。
第4節
プーチン大統領の亀作戦
3日間でウクライナを支配する予定だった「特別軍事作戦」は、失敗に終わった。
この時点で、聡明なプーチン大統領は、すべてを悟ったはずだ。ドイツにノルドストリームを開通させる交渉では、歴代のドイツ首相を手玉に取り、交渉相手に一部の瑕疵もない素晴らしい交渉人だったと言わしめたほどの男だ。人誑しだったかもしれないが、能力は抜群だったのだ。
特別軍事作戦が、膠着状態になったことで、この戦争は簡単には勝てないと判断したはずだ。その時のためのカードは、いくつも用意していた。
1. まず、この特別軍事作戦を遂行するように、大統領に上奏したのは下院議会の決議だ。ラブロフ外相は、とんでもないことだと考えていたので、大統領もこれは大きな決断になると考えたはずだ。最後にはロシアの法に則って署名したが、あくまでも法に従っただけだ。
2.「連合国家共通軍事ドクトリン」に書かれていた、核兵器の使用基準が削除された。使用基準が曖昧になったともいえるし、大統領の判断で核兵器が使用できるという柔軟性を持たせたともいえるが、使用基準があるとその状況になった時には法に従って自動的に使用できることになる。大統領は常々、モスクワが攻撃されない限り核は使用しないと言っているので、大統領が何等かの事情で交代したとしても、状況に応じて使用できないようにした処置ともいえる。
1985年のレーガン=ゴルバチョフによる共同声明「核戦争に勝者はなく戦われてはならない」は、ロシアの指導層は理解しているはずだ。
ロシアの核攻撃態勢が第三段階に入り、この共同声明を破棄すると通告されるまで核による攻撃はないと考えられる。世界的に食料危機が叫ばれる中で、肥沃な土壌を持つウクライナを核汚染したり、ロシアの小麦を核で汚染することは全人類に対する犯罪と言える。
現在、同位体分別の分析技術の発達によって、プルトニウム、240と239の比率によって、そのプルトニウムが、核兵器によるものか原発事故由来の物かが判別できる。
1950年前後、アメリカやソ連が行った大気中核実験による放射性物質は、成層圏にまで上昇して世界中に広がった。その核物質は、南極の氷床からも発見されている。
つまり、ロシアがウクライナだけに核攻撃を行ったとしても、その放射性降下物は世界中の国々へ落ちてくることになる。
直接の破壊がなくとも、10万年残ると言われている核物質が、各国の領土に降下する。これは全世界に宣戦布告したのと同じ意味を持つのだ。
戦争に勝っても全世界を汚染する行為は自殺行為に等しい。プーチン大統領は、それを十分に理解している。
3. 次の選挙で大統領に選ばれるためには、強い指導力を発揮しなければならない。国内の混乱を封じ込めるには危機感を煽らなければならない。開戦三日後、ロシアは欧米に圧力をかけるために、戦略核部隊に特別警戒態勢を命令、ベラルーシで憲法改正を施行して、非核化と中立に関する文言を削除させた(明らかに三男坊扱い)。
これによりロシアからの核兵器配備が可能となったが、ロシアが発射しない限り、ベラルーシが先に核を発射するとは思えない。欧米のウクライナ支援の牽制として脅しをかけたに過ぎない。また、それは多分ロシア国内向けに継戦の意思を表明したに過ぎない。
まだまだ、カードは持っているが、今は伏せられている。切り札と言えるカードを出すためには、2024年の大統領選挙に当選して死ぬまで権力を握る必要があった。
強い指導力を発揮する大統領をイメージさせるために強硬姿勢は仕方なかった。
2022年5月9日の対独戦勝記念日のプーチン大統領の顔色はさえなかった。侵攻から2週間後には戦争になってしまったことを理解していた。ドイツ戦に勝ったのも連合軍が西側から反攻を開始したおかげなのだ。決してソ連対ドイツの一対一で勝ったわけではないのだ。そして、ロシア国民の総動員に踏み切れない限り勝ち目はない。
落としどころ、負け方が焦点になってくる。中途半端な負け方では、自分を倒した誰かが自分に変わって戦闘を継続するかもしれない。核を使用するかもしれない。中途半端な負け方は許されない。
取り敢えずは、どちらかが相撲でいう死に体になる迄戦争を継続することを決意する。ウクライナ国民もこの時点では80%以上の人が、国土の割譲を否定している。ウクライナもまたレイムダック(死に体)になる迄戦争を継続することになる。
2022年9月5日、ウクライナを支援する日本に対して北方4島へのビザなし渡航破棄を通告。
2022年9月30日、住民投票の結果によりプーチン大統領は、4州の併合を宣言する。
10月3~4日、ロシア上下両院4州併合の条約を批准し関連法を可決する。
プーチン大統領は、ウクライナを支援する欧米を威嚇するために様々な手を打つが、これはロシアを硬直させる雁字搦めの始まりとなる。柳に雪折れなしの例えとは反対の路線を進む、外交のロシアが、外交手段を自ら封印したのだ。
柔軟さを欠いたロシアの外交は破綻するであろう。それはロシアの敗戦を意味する。プーチン大統領は、雁字搦めを意図的にやっている節がある。ロシア強硬派の上下院議員を抑えることができないのであろう。
大日本帝国の統帥権を持つ天皇が、強硬な軍部の方針を抑えられなかったのと同じ構図だ。ロシアでは、逆に軍部はプーチン大統領に従順で議会の方が強硬だが、議会が求めた侵攻案を大統領は、蹴ることができなかった。だから安全保障委員会を公開するという茶番を演じたのだ。ロシアを再生させるには敗戦しかない。
大日本帝国が、神の国から国民の国に生まれ変わったように、国民を慈愛している大統領は、国民に危険を及ぼさないようにロシアを生まれ変わらせる作戦に出たのだ。
それにはいくらロシア強硬派が、戦いを主張しても戦えないようにすることである。兵の損耗を多くして、ロシアの継戦能力を奪うことである。また、歴史を振り返ると戦費の増大した国は必ず疲弊している。時には崩壊さえありうる。
第5節
ソ連の衰退と崩壊とその後のロシア
ソ連時代、NATOに対抗するためにソ連は、東欧を支配下に置いてワルシャワ条約機構(友好協力相互援助条約機構)を作っていた。1988—1991年にかけて内部分裂を起こしたソ連は、支配力を弱めワルシャワ条約機構は1991年7月1日解散することになる。
面従腹背だった東欧諸国は次々にNATOに加盟していった(それほど、ソ連共産党は嫌な存在だったのだ。ロシアでさえソ連共産党は嫌な存在だったからロシア大統領エリツイン大統領はウクライナ、ベラルーシを誘って離脱を決意した)。
ソ連が崩壊した後、集まったメンバーはロシアとCIS(独立国家共同体)の8か国だけだった。そのCISも、ソ連崩壊時、ソ連資産の大部分をロシアが独り占めしたことに不満を持っているし、ウクライナ4州の併合には賛成していない。
プーチン大統領は、当初は、NATOに加盟しようと考えた。軍事的脅威がなくなるのだ。合理的な考えだろう。だが、加盟できなかった。戦争になった後でもロシアがヨーロッパから離れることなど考えられないと言っているのだから、EUの流儀に従えば加盟できたはずだ。
なぜだかわからないが、水清ければ魚棲まず。汚職とコネに慣れたロシアの政治家や警察官たちは、既得権益を手放さないのだろう。特権を失うようならプーチン大統領を排除するかもしれない。ロシアでは、親が子供や手荷物から目を離すと犯罪者が持っていき二度と戻ってこない国なのだ。ロシアばかりではなく日本以外の国では、戻ってこないことが普通らしい。
欧米の経済制裁に反発してロシアは非友好国と名指しして次々に敵対的対抗策を発表する。
2022年、10月7日、石油ガスを生産している「サハリン1」をロシアの管理下に置くことを一方的に決定する。
2023年5月9日 侵攻後、二回目の対独戦勝記念日にプーチン大統領は、「本物の戦争」と発言した。今までの進攻は戯れとでも言いたいのだろうか。あまりにも戦死傷者が多いのに。
これ以後、戦争推進派の議員の求めに応じて、外交のロシアが、次々に交渉の窓口を閉じていく。のちの戦場に亀戦車が登場したように国家自体が、亀が手足を引っ込めて防御を固めるように、経済制裁をする他国との交渉を拒否する。
交渉の始まりはウクライナが4州を放棄することから始まるのだから、話にならない。図体が大きい依怙地なガキ大将みたいな振る舞いなのだ。
G8として話し合いをしてきた仲間に唾を吐きかけるような行為だ。
侵攻後、核兵器関連施設への査察受け入れを停止。
2023年2月22日 新START(新戦略兵器削減条約)の履行停止を表明
2023年4月18日、北方領土周辺で軍事演習、軍艦と支援艦167隻(潜水艦12隻)、飛行機とヘリ89機、ミサイル発射と射撃訓練を行いG7広島サミット牽制した。
2023年5月10日「欧州通常戦力(CFE)条約」破棄
2023年6月21日、ロシア上院は、「第2次世界大戦終結の日」を「軍国主義日本に対する勝利と第2次世界大戦終結の日」に改称した。軍国主義は間違っていないけれど、世界第2の軍事国がわざわざ言うことでしょうか。また、破棄を通告してもその後、1年間有効だった日ソ中立条約を無視して日本に侵攻して勝利しましたと但し書きをつけてもらいたい。米軍の反攻で死に体に近づいていた日本に反撃する力はないと判断しての侵攻だろう。(ロシアの法則5)
2023年7月17日、ウクライナ産穀物輸出合意離脱
ロシア産、ウクライナ産小麦を黒海経由で輸出する手続きを両国と国連、トルコで合意していたことを停止した。ロシア産の穀物や肥料の輸出は制裁の対象でないのにもかかわらず、欧米による制裁でそれらの輸出が難しくなったためだと言っている。言いがかりも甚だしい。ウクライナの小麦の輸出が滞ると国際価格が上昇し中東やアフリカの困窮している人には大打撃になる。日本でも小麦製品の価格が大幅に上昇している。世界にケンカを売っているのかと言いたい。自分のことは棚に上げ、欧米に責任を押し付ける。(ロシアの法則7)
2023年8月、侵攻1年半余りで、ロシアは、ウクライナの2倍から3倍の12~25万人の戦死者をだした。
2023年9月4日、対日戦勝記念日を9月3日に制定し、中国の抗日戦争勝利記念日にあわせる。アメリカと敵対している中国に胡麻を擦って味方につける姑息な算段か。
2023年9月13日、露朝首脳会談、ロシアは、ロケット、原潜などの技術移転と引き換えに、北朝鮮からは弾薬、武器、ミサイルの供与を受ける。安保理決議違反を繰り返し、暗号資産を盗んでいる「ならず者国家」にG8の一員ともいえるロシアが頼ったことになる。
先見性のあるプーチン大統領は、北朝鮮に罠を仕掛けたかもしれない。ロシアが負けた時には、スターリンの負の遺産である北朝鮮も一緒に潰れてもらおうと、その時武器弾薬の在庫が少なくなっていれば、抵抗はできない。(ロシアの法則6,受けた恩は必ず仇で返す)。
北朝鮮製のミサイルの配線は粗雑で、ロシア兵が怪我をした。危なくて使い物にならなかった。言いがかりはいくらでも思いつくのがロシアだ。技術移転も正確に教えたかは不明だ。ロシア設計の新型エンジンを積んだ偵察衛星打ち上げロケットは爆発した。打ち上げが成功しなかったとしても、北朝鮮の加工技術が低かったと言い訳するだろう。ロシアの法則7,約束を破った時こそ自己正当化する。
その後の情報では北朝鮮製のミサイルは技術的に改善したとある。
プーチン大統領は、特別軍事作戦が失敗した時点で、この戦争は勝てないと判断しただろう。それでも戦争を続けることには深い意味があるのだろう。
2023年12月、ロシアのミサイルや無人機の部品を分析した調査結果が発表された。74%が、米国製であった。次いで、スイス製、日本製の部品が多かった。ロシアが誇る巡航ミサイル「カリブル」や超音速ミサイル「キンジャル」からは、ロシア製の部品が見つからなかったという真実をプーチン大統領は、どう解釈しているだろう。経済封鎖が続けば、やがて武器は枯渇する。
ウクライナに対抗してロシアも無人機の量産体制を強化したが、歳出の3割が国防費となってきた。戦争を継続すると国は疲弊していく。生産経費が安い無人機によって、高価な戦車が破壊されていく。ロシア黒海艦隊の20%が、破壊された。劣勢ながらウクライナは善戦していると言える。
2023年10月22日、英国防省発表によると20万人近くの戦闘不能者がロシア軍に生じている。12月4日、動員を132万人に増やす大統領令に署名しているが、総動員令がない限り、いずれ兵は枯渇する。ウクライナの兵が枯渇するか、ロシアの兵が枯渇するかの勝負になってきた。ウクライナ兵の損耗はロシアの半分くらいであるが、総兵力が違い過ぎる。
2024年になって、ウクライナは囚人4000人を兵に加えたが、多勢に無勢である。
2023年12月31日プーチン大統領は、「我々は、決して後退しない。ロシアを分断し発展を阻止できる勢力など存在しない」と発言しているが、あくまで国内向けの発言に過ぎない。
歴史的にロシアは何度も敗北を味わっている。北朝鮮や中国に頭を下げ、助けを求めている。強かな中国には足元さえ見られている。爆弾の原料になるニトロセルロースは、欧米に売り渡す2倍近い値段で取引をさせられている。泣き面に蜂の様相になってきているが、それでもプーチン大統領は、国内の政治家や軍人を鼓舞している。鼓舞というより強硬派議員をアジテーションだ。
もとより、強硬派議員の求めに応じて始めた特別軍事作戦だから、この時期は、前線での戦果を強調して次期大統領選を確実なものとするために意図的に戦闘を激化させていた。
他国の軍事評論家は、ロシアは勝てないだろうと評価している。勝っても得はない。自ら荒廃させた土地を手に入れるだけだ。
第6節
日本の援助
侵攻以来、11ヶ月でウクライナでは3人の地雷除去作業員が死亡した。
2024年、4月には、ウクライナの国土の約25%に地雷が埋まっているという。PFM-1という通称花びら地雷が空中から散布されている。日本に置き換えると北海道と九州と四国を合わせた以上の面積に地雷が埋まっていることになる。北海道だけでもばら撒かられた地雷を撤去することがいかに困難か簡単に想像できるであろう。
日本製の地雷除去機の協力もあって今までに48万個の地雷が除去されたがそれはまだまだほんの一部にすぎないのだ。ロシアの安全保障のため緩衝地帯を作ることに目的に変えたとしても遣り過ぎであることは明白であろう。将来地雷を撤去するのにどれだけの時間と労力がかかることであろうか(沖縄でも、毎日1発以上の米軍が落とした不発弾の処理が行われている)。また、花びら地雷は、半永久的に機能するというからどれだけの犠牲者が出ることであろうか。
占領するために侵攻したのに利用できない土地に変えている。負けないために闇雲に突っ走っているとしか言えない。ロシアが反ウクライナであったことはないといったプーチン大統領の論文は、何だったのだろう。プーチン大統領の苦悩が窺える。いずれにしろロシアは、大日本帝国が歩んだ滅びの道に足を踏み入れたといえるだろう。
第1章で紹介した倉山満氏のロシアの法則の反対を西側が実行すればロシアを潰す法則になる。ロシアを潰すことはロシアを滅ぼすことと同義ではない。むしろ仲間になってもらいたいというメッセージである。
2018年、プーチン大統領は、「もし、誰かがロシアを滅ぼすことを決めたら、われわれはそれに対抗する法的権利がある。それは人類と世界にとって破壊的なものになるだろう。しかし、私はロシア市民であり国家元首だ。ロシアが世界に存在しないとしたら世界が必要?」と発言している。
西側の圧力を宣戦布告とプーチン大統領は、認識しているが、われわれは仲間になってほしいだけである。プーチン大統領は、ロシア国民を守る最大の義務がある。戦争に負けても国民の安全は守られる。核のボタンを押すと確実にモスクワとサンクトペテルブルグは、地上から消し去られる。
核戦争でG8は、消滅し中国の世界制覇が始まる。大統領のお言葉ですが、ウクライナにも法的権利は存在し、ウクライナの存在しない世界は考えられないのである。世界は、ロシアに十二分にお世話になっていので、ロシアの存在を自分で過小評価しないで貰いたい。世界はロシアを必要と考えている。
第7節
ロシアを潰す法則
1. 外交で自滅させる
外交のロシアが、非友好国とみなした相手に対して外交を継続させないような強硬策を次々に打ち出している。いくらでも譲歩を引き出すことができる立場なのに、それを頑なに拒否してまでも有利な交渉をしようとはしない。むしろ、プーチン大統領は、国内の強硬派を抑えるためにそれを意図的に行っているとさえ思える。
G8から自ら出ていったのは、明らかに失敗だった。ほかのメンバーはほぼ連合軍のメンバーだから大国と言えロシア一国だけでは太刀打ちできない。NATO連合のほぼすべての国が、ウクライナへ軍事支援をしている。武器弾薬の生産が追い付かないロシアは、北朝鮮に頼ることになった。
ロシアは安保理常任理事国として北朝鮮への制裁決議案を主導したが、包括的戦略パートナーシップを、北朝鮮と締結し、決議案を反故にした形だ。(ロシアの法則、6と7)そのうち上手な言い訳を発表することだろう。
ウクライナ侵攻後も他国と一線を画してロシアと友好な関係にあった韓国は反発した。北朝鮮が第三国と戦闘状態になったら、ロシアが軍事支援をするという条項が含まれていたためだ。韓国の安全保障に危害を及ぼすことは、両国の関係に否定的な影響を及ぼすだろうと警告したのだ。
韓国はさらに踏み込んで場合によってはK兵器(韓国製の武器)をウクライナに売り渡すとさえ言い切った。今までは、殺傷能力の高い武器をロシアに遠慮して売ってはいなかった。それに対してプーチン大統領は、そうなれば対抗措置をとるとだけ言った。
反論もできたが先刻承知していることだからだろう。K兵器が、大量にポーランドに販売され、ポーランドからウクライナへ供与されたK兵器が、ロシア兵を殺傷していることには言及しなかった。アルメニアからも離縁状を突き付けられ、四面楚歌では、ならず者にでも頼らなければならない。外交的には手詰まり感が出てきている。それも、プーチン大統領の深謀遠慮なのかもしれない。
2. 国を小さくする
ロシアは力関係がすべてと考えているのでウクライナに負けた時、領土を切り取られても文句は言わないだろう。ウクライナが復興するまで膨大な賠償金を支払うことになるか、ウクライナに領土を切り取られることになるだろう。
ロシアが負けた時のために、既にNATOは、賠償金の額を算出し続けている。もともとロシアの中心はウラル山脈以西だ。荒野を切り取られても、痛手はない。国が小さくなることで尊大な態度をとることは少なくなるだろう。
3. 東西から攻撃する
ロシアが北方領土で演習をしたのは、日ソ平和条約を締結していないことと、4島の不法占拠と日本が見做しているからだろう。ウラジオストックの軍がウクライナに移動して手薄になっている。
こんな機会はない、ロシアの習性では、日本が不法占拠されたと言っている北方領土を取り返す機会だと考えるのは当たり前だと思っている。相手に非がなくても領土を拡大するのがロシアの習わしだ。日本国憲法があるので好機であってもできないのが日本なのだが、ロシアは、懸念を持って牽制したのだ。
西と東の二正面で戦うようなことをしない(ロシアの法則3)のがロシアである。まして、NATOを刺激してトルコ側から攻められたら、ひとたまりもない。3正面になる。フィンランドから攻められれば4正面になる。NATOと対決することはないとプーチン大統領は、言っているが本音である。制裁に対する対抗措置はとるが、NATOと対決する意思はない。なぜなら連合軍に勝った国はないからである。
包括的戦略パートナーシップを、北朝鮮と締結したが、再度朝鮮戦争が勃発したとしても、ウクライナ侵攻が続いていれば、軍事援助は形だけのものとなるだろう。(ロシアの法則3と6)それどころか、ロシアが負けた時には、一蓮托生の運命が北朝鮮に待っている。ドイツ第三帝国の勢いに騙されて、同盟関係を結んだ大日本帝国の二の舞になるだろう。
4. 経済制裁で財源を潰す
ロシアは鎖国しても自立できる国である。プーチン大統領のエネルギー戦略で世界はロシアのエネルギーに頼っている。電気エネルギーを作るために、米国内の原発が、使用しているウランの24%が、ロシア製の濃縮ウランであり、経済制裁をしながら年間約1600億円をアメリカはロシアに支払っているという矛盾、イギリスも嘗ての植民地であるインドから迂回してロシア製の原油やガスを調達しているという矛盾、つながりを持ちながらやり合うという矛盾、世界はロシアを必要としている。
ロシアへの経済制裁は、思ったほど効果を上げていないが、それでも軍事の頂点に経済の専門家を据えなければならないほど、戦費のやりくりに困ってきている。
5. 団結して弱腰を見せない
弱い相手の話など聞く耳を持たないロシアであるが、連合軍となれば話は別だ。ロシアとの直接対決を防ぐために、NATO ではなく各国独自にウクライナと安全保障条約を結んでいるが、準連合軍のネットワークは出来つつある。それに対してロシアは、北朝鮮と包括的戦略パートナーシップを結んだ。
短期的には武器弾薬の補充が主な意図だが、暗号資産を他国から奪い取る「ならず者国家」に頭を下げたことになる。長期的には、ロシアが潰れるときスターリンの負の遺産である北朝鮮も潰れることになる。
包括的戦略パートナーシップを結んだこともプーチン大統領の陰謀かもしれない。優秀なロシア人をシベリア送りにして多くを死なせたスターリンをプーチン大統領は、憎んでいる。フルシチョフ書記長もスターリンを批判した。北朝鮮はそのスターリンの負の遺産なのだ。ロシアが潰れた時清算される可能性が高い。クルスク州での北朝鮮兵の損耗率でプーチン大統領の意図が判断されるかもしれない。
6. 恩を売り許す
ロシアの軍事ドクトリンに沿って、ロシアの議会が決めて、プーチン大統領が、承認した特別軍事作戦の責任を人間には問わない。ロシアが負けた場合であるが、ウクライナの復興が元に戻る迄賠償を続けるか、国土の45%を、割譲するかを迫り、戦争指導者への罪は問わないことを保障する。ただ、議員の公職追放は新たなロシアを作るために必要であろう。
7. 約束を守らせるために、NATO,EU に加盟させる。
大統領になったころは、NATOに加盟する意思があった。ロシアが、ヨーロッパを離れることは考えられないとも言っていたが、このままではロシアは、昔のように東アジアの野蛮国のレッテルを張られる。NATOに加盟できないのは特権階級に属する者たちの反対があるからだ。このシステムを潰さない限り、ロシアは紛争を起こし続けるだろう。
8. ロシアのごまかしや言い分を十分に聞いて非を指摘する
プーチン大統領の話を聞きたくても、ウクライナ4州のロシアへの帰属が前提なのだから話にならない。国際法を主導してきたのはロシアだが、有利になると常に破るのがロシアだ。拒否権を提案したのもロシアだ。国際連盟の轍を踏まないように、国際連合設立時に大国を引き留めるために拒否権が作られたが、アメリカも拒否権を乱用している。
大国のダブルスタンダードを失くすには拒否権を廃止するのがよい。往年の大国インドやトルコが力を付けてきたら拒否権をよこせというだろう。14億人のインドが拒否権を持っていないのは明らかにおかしい。6人に一人はインド人だ。多数決は民主主義の基本だ。国連の総会の平等な一票で世界の方向性を決めていくことが戦争を少なくするだろう。
ロシアを潰す反ロシアの法則はこんなところだろう。竹中半兵衛や黒田官兵衛クラスの策士を連れてこなくても、方針さえ見つかればロシアを追い込むことができるだろう。いや、追い込まなくてもプーチン大統領自身が、すでにそのコースに入っているか、或いは、自らが誘導している節がある。
なぜなら、外交のロシアが、頑なに外交を拒否している。もちろん一部の友好国とは、外交をしているが、それは外交とは程遠い、四面楚歌の状態から友好国に泣きすがっているようなものだ。
兵を軽んじて、無謀な突撃を繰り返し、大火力によって圧倒するのが、ロシアの伝統的な戦い方であるけれど、損害がひどすぎる。軍事の素人である、プーチン大統領が、前線の作戦に介入しているのか、軍事の損耗率がひどすぎる。
「戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり」プーチン大統領の外交能力ではそれが可能であったはずなのだ。裏があると勘繰りたくなるのは当然なのだ。
24年、6月20日、ロシア軍は装甲車両を伴わない歩兵だけの突撃を繰り返している。人的損害は50万人に及んでいる。毎月3万人の新兵を集めている。それにしても適切な装甲車両を持っているのにもかかわらず、歩兵だけの攻撃を繰り返してくるロシア軍の行動をウクライナ兵も不思議に思っている。
これまでに戦闘車両が4400両撃破されている。月、160両ほどの損害である。兵の練度が悪いのか4月には300両ほど破壊されている。北朝鮮に頼るのも仕方ない状況である。
24年、10月には923両破壊と戦果は著しく、直近の13ケ月で9479両の装甲戦闘車両がウクライナ軍によって破壊された。
一方、ウクライナ軍は、これまでに戦闘車両1,300両ほどを失っている(24年6月)。
月45両ほどの損害でロシア軍に比べてかなり少ない損耗である。ロシア軍に比べて保有数が少ないからこういう結果になっているのかわからないが、ロシアの年間生産量は1000両くらいと言われているので、直にロシア軍は戦闘車両に守られない歩兵が前線で戦うことになる。ロシア奥地には、まだまだ、戦闘車両があると言われているので、兵を見殺しにしている状態だ。
ワグネルのプリゴジン氏が、バフムトで戦果を挙げ、突破口を開いた時にも、ロシア軍は好機にもかかわらず動かなかった。精鋭戦車部隊がプリゴジン氏に続けばかなり前進したはずなのだ。軍事の専門家もこの行動に首をかしげている。
上層部から進軍するなと指示が出ているようだ。
プリゴジン氏が戦果を挙げた戦いは壮絶だった。刑務所から集められた犯罪者からなる軍隊だったので、反乱を防ぐためか小銃を与えられるのは、一列目の兵士だけだった。
突撃して兵が倒されると二列目の兵士がその銃を回収して突撃をするというものだった。兵の損害はひどいものだったが、戦果を挙げたのだ。十分な銃と弾薬があればもっと戦果を挙げただろう。だが、武器の補充はなかった。
それでプリゴジン氏、ショイグ国防相やゲラシモフに吠えたのだ。ショイグ、ゲラシモフ、弾薬をどこに隠している。多分弾薬は、お金に変わっている。ウクライナ内部でも軍事物質の横流しや私物化が問題になったが、ロシアはその比ではない。何しろショイグ閥が、できるほどショイグは、私腹を肥やしたのだから。
日本人には信じられないかもしれませんが、ロシア人は、誰も正義を信じていないので今も誰に対しても正義を求めないのです。訪日したロシア人の女の子が、ロシアでは「見つからなければ泥棒とは言えない」と言っている。
それどころか、戦車の上にウクライナ人の家財を積んで引き上げていく映像を見れば、「見つかっても捕まらなければ泥棒と言えない」と思えるほどです。
習近平国家主席は、「ハエは叩き潰す」と言いましたが、ロシアではハエは自由に飛んでいるのです。
汚職とコネはロシアの潤滑油、ショイグ国防相は、戦費の一部を懐に還流していたかもしれないのです。
ブチ切れたプリゴジン氏は、モスクワに向かいます。説得によって途中でやめましたが、その後暗殺されました。
ロシアには、30ほどの民間軍事会社があり、これを許しては国内が混乱したときに、ほかの軍事会社も反乱を試みるかもしれません。見せしめのためには仕方のなかった暗殺でした。
軍事作戦の方でも齟齬が多い。ウクライナ軍の反撃を恐れてか或いは、占領地帯を死守するためか、竜の歯と地雷原と塹壕の三重の防御地帯を構築したが、塹壕は三本線のようになっており前後の進退ができない。
塹壕は阿弥陀籤のように状況に合わせて進退できなければ、孤立してしまう恐れがある。上官が無能であったか、指導部の指示であったかは定かでない。また、砲と違って機動力が命の戦車を埋めてトーチカのようにした。
埋める手間よりカモフラージュした方が手間もかからず状況に合わせた機動性を残せると思うのだが。また、ロシア軍は、都市部の民間施設やインフラをミサイルで攻撃しているが、少数の死傷者は出ているものの戦果はほとんど上がっていない。
パトリオット迎撃システムの効果も大いにあるのだろうが、集中して直接軍部隊を攻撃した方が、はるかに戦果が上がるだろう。ほかにも不可解な点はあるが、君子は豹変する。聡明なプーチン大統領は、考え方を変えたのかもしれない。
第8節
プーチン大統領の苦悩
ソ連崩壊後、ロシアをダメにしたのは新興財団のオリガルヒが、脱税を繰り返し、国家財産を横領したためだ。そしてその資金で政治家を操り、私腹を肥やしてきた。そのせいでロシアの政治家たちは、賄賂とコネのしがらみにどっぷり漬かっている。ロシアに正義を信じる者はだれもいない。大統領自身が、暗殺者なのだから誰も文句は言えない。その大統領も議会の強硬派を止めるのが難しいのだ。みんなが賛成している議案にあからさまに拒否はしがたい。ロシアお得意の拒否権も内政では使えない。
国家安全保障委員会を公開するという茶番で、みんなの総意だから独立を承認するという判断をしたのだ。議会が侵攻を推し進めた責任があるということだ。ロシア軍とロシア連邦保安庁が、事前に十分に計画を立てたのだ。2014年のクリミア侵攻と同様に何ら問題は生じないだろうと高を括った。
多少の犠牲を伴うが3日で終わるはずの特別軍事作戦は失敗に終わった。
事態は、泥沼化した。プーチン大統領の慌てた表情の会見映像が残っている。ソ連崩壊後、ロシア軍は弱体化しているが、これほど使えなくなっているとは思わなかったろう。
ロシア連邦保安庁も内部の汚職がはなはだしい。ウクライナへの工作資金もかなりの額が使途不明金になっていた。この国を立て直すには潰すしかないと思ったことだろう。これは、頭は切れるが冷酷な殺人者に時折みられるパターンだ。自分が手塩にかけて面倒を見て育ててきた人間が使えないと知った時、怒りで殺人を犯すという事例のようなものだ。
ただ、2024年春の大統領選挙に勝って事実上の終身大統領になる迄は、ロシアのために戦わなくてはならなかった。
プーチン大統領が、一番恐れていることは、自分が失脚して、核先制論者を信じる権力者が現れることだ。モスクワが攻撃されるまで核のボタンは押さないと言ったことは本音であろう。
ウクライナは市街地がこれだけ攻撃されて民間人の死傷者が多数でいるが、ロシア国内の攻撃では軍事施設と関連するインフラしか攻撃されていない。ロシア国民の被害者は少数だ。ロシアがこれだけひどいことをしているにもかかわらず、ウクライナは、国際法規に準じた戦争をしている。
それは、法と正義と人権を信じているからだ。これをロシアの政治家に納得させるのは難しい。
ルネッサンスの精神が当時到達したのは、ポーランドまでだった。隣接する、ウクライナとベラルーシには徐々に伝わったが、ロシアには伝わらなかった。ロシアの政治家と話をすることは、平安京の強面の検非違使に話を付けるようなものなのだ。国が一度壊れない限り国際協調は永遠にできない国なのだ。
今のロシアの状況は、往年の大日本帝国が滅んだ状態に似ている。第一次世界大戦後世界の五大国になった日本は、傀儡国の満州からの撤退を勧告され国際連盟を脱退した。大国の驕りから軍部は戦争への道を突き進んだ。そして敗戦。
神の国であった日本は国民主権の国になった。教育勅語は無くなり、民主主義を教える教育に変わっていった。体制が変われば国が変わる良い例だろう。今の日本に、特別高等警察や憲兵隊が帝都を闊歩する世を望む人はどれだけいるだろうか。国の方針に反対する人は、彼らによって拘束されるのだ。
ロシアでは、軍に関するフェイクニュースを発信しただけで刑務所に収監されることになる。他人の迷惑になる発信は厳禁だが、検閲されたSNSは、自由度を失う。
ロシア国内の情報が統制されているにもかかわらず、戦争に不満を言わない国民が大多数なのは、この戦争が軍人だけの戦争だからだろう。国民を徴集するようになったら大混乱が起こり得ることはすでに述べた。
予備軍人を入れてロシアが集められる軍人は130万人だ。補充のために月給が2~3000円と安い他国から支度金20万円、給与35万円で兵士希望者を募っている。アフリカやキューバや東南アジアの低所得者から応募があるが、前線に出て一月もしないうちに戦闘不能な傷害を受けて本国に送還される例が、多々出てきており、人命を尊重しないロシア軍への応募者は減少していくことだろう。
ロシアがカタストロフィーを起こすのは、戦死傷者が70万人を超えたあたりであろう。ウクライナも兵士不足に悩んでいるが、戦死傷者の数は、ロシアの半分程度だ。ロシアは、効果的な戦術を考慮することなく、いたずらに戦死傷者を増やし続けている。大統領も軍部もそれを考慮しないのは明らかにおかしい。大統領自身が、自滅を待っているかのようだ。
大日本帝国では軍部が癌であったようにロシアの癌は、上下院の古い考えの議員たちなのだ。プーチン大統領は、ロシアの法律で選ばれた大統領だから、法律に背くことはできない。議員たちを潰すわけにはいかないのだ。潰すには、外力が必要だ。ロシアの最高権力者ではあるが、議員たちをひれ伏させるほどの権力は持っていない。
完全なシーザーに成れなかった大統領は、自らをブルータスにすることで、ロシア国民を導こうとしている。プーチン大統領は、国民の慈父であり、国民を幸福にする義務がある。ロシアをこんな国にしたのは、新興財閥のオリガルヒであり、その賄賂でぬくぬくと私腹を肥やしてきた議員たちなのである。安全保障委員会を公開するという茶番は、これらの議員たちを潰す言質を取るための小芝居だったのだ。そのためにはプーチン大統領は、ロシアのために戦っているふりをしなくてはならない。
今は、苦戦しているがウクライナの勝利は確実である。なぜなら、ウクライナが負けるということは、G7が負けるということだからである。プーチン大統領も、それは望んでいない。さらに世界は混乱するからである。プーチン大統領が、望んでいるのは、ロシアの兵士が少なくなって継戦不能になることである。
そうなると、誰もプーチン大統領に変わって権力を取り、戦争の責任を取ろうとは思わないだろう。プーチン大統領が、恐れているのは、ゴルバチョフを監禁したようなロシア強硬派が、核のボタンを握らないようにすることである。核を使用しても自滅が見えるような状況では、降伏するしか生き延びる手段はないのである。
プーチン大統領が、意図していなくてもすでに滅びの道にロシアは足を踏み入れている。
ロシアを新生させるためには軍人の消去が、必要なのだ。軍人が残っていて、それが強硬派の支配下に置かれると、まだ戦えると戦術核の使用を考えるかもしれない。全く戦えない状況になればいくら強硬派の議員であっても、自ら銃を持って前線に赴くだけの度胸はないだろう。自己保身に走るだけだ。あともう少し、20万人ほど戦力を失うとロシアの戦闘力は、減衰していく。
戦術核の使用が第3段階に入ったら、欧米は勇気をもって、ウクライナに戦う意思のある兵士が一人でも残っていればロシアがウクライナに使用した兵器と同等の兵器を供給すると通告すればよい。
モスクワが、地上から消えても仕方ないと、プーチン大統領が、決めたならそれを止めることはできないが、ロシア国民を守る義務のある大統領の選択肢には含まれないだろう。
ロシア兵の損耗を意図的にしているプーチン大統領は、負けることを意識しているはずだ。ロシアが、ヨーロッパから、離れることは考えられないと言っている。勝てば、当分の間、ヨーロッパから疎外される。つねづね、プーチン大統領は、日本のことで知っていることは柔道位と言っているが、本当は日本に関心を持っているのだろう。もしかしたら歴史にも詳しいのかもしれない。前駐日ロシア大使のガルージン氏を外務次官に任命している。
西欧、東欧文明圏と違う文明圏を意識している。仲介役を頼むとしたら欧米とは考え方の違う日本しかない。
ロシアは、1736年にサンクトペテルブルグに日本語学校ができて以来日本に関心を示している。今のロシアの状況は、大日本帝国が突き進んだ時の状況や明治維新の状況と似ている。
硬直した思想は、挫折するまで変更されない。
陸軍幼年学校から陸軍大学校に至るまで徹底した軍事エリート教育を受けた東條英機が信念を曲げることはなかった。偽の大本営発表までして戦争を続けたのだ。戦争を否定する者、徴兵を忌避する者は非国民の烙印を押され、社会から抹殺された。
今のロシアでも情報統制で世論を操作し、軍の足を引っ張る者は、刑務所行きか、不審死の末路をたどる。大日本帝国下とどこか似ていないだろうか。似ていないところは、戦況が不利になったとしても国民を総動員できないことだろう。
現代戦は、総力戦にならなければ負けると言われている。国民との暗黙の契約によって総動員はできないのだ。ゼレンスキー大統領も言っているようにウクライナ戦争はロシアに敗北を味合わせる機会でもあるのだ。ロシアは歴史的に何回も敗北を味わっている。それでもしぶとく再生している。
新しい世界が訪れるとき、古い世界にしがみついているものは少なからず犠牲になるものだ。新しい世界が開かれたとき一部の古いものは捨てなければならないが、それは粛々と円満に実行されることはない。
西南の役がそのよい例である。外国の植民地になることを恐れた江戸末期、薩長土肥は、「日本を今一度せんたくいたし申候」という坂本龍馬の掛け声の下、明治維新を敢行した。
坂本龍馬は、西郷隆盛のただの使い走りに過ぎなかったという説もあるが、プーチン大統領のように大変な人たらしだったことは間違いないだろう。
明治政府は、強国にするために、明治6年徴兵制を開始する。それまで戦士の中心は武士であったが、誰でも兵士になれる時代になった。
そして明治9年、廃刀令、刀を武士の魂として重んじていた元士族の出る幕は無くなった。
止めが、秩禄処分だ。士族に支給されていた俸禄が打ち切られたのだ。士族は経済的に追い詰められて不満が爆発する。
有能な士族もたくさんいたが、戦うしか取り柄のない士族の使い道として征韓論(明治6年)が浮上する。大久保利通の反対にあって征韓論者は政府を去り、不満は募るばかりだった。
明治7年、佐賀の乱、明治9年神風連の乱(熊本)、明治新政府の設立の貢献した肥前、肥後、薩摩の士族の不満は高まるばかりだ。
最後が、西南の役だ。西郷隆盛は、負けることで武士の世の終わりを導いたのだ。
薩長土肥の武士の力で新政府ができたのに、その者たちの存在を、無視するような、徴兵制の開始、廃刀令、秩禄処分という新しい政策を次々と遂行していく「明治政府」は、設立のために奮闘した旧武士たちには「ネオナチ」のように思えたことだろう。
ベルリンの壁崩壊以来、ロシアの勢力圏は衰退の一途だ。ウクライナ侵攻以降では、中央アジアの友好国でも苦言を言う。せめてルーシー3兄弟で仲良くやっていこうと思っているのにウクライナは「ネオナチ」に侵されてしまったとロシアは、感じた。ネオナチがどんな意味か言っている本人もわからないのに。
大事なウクライナがNATO に取り込まれようとしている。ロシアが、焦るのは致し方がないが、これが歴史である。変化を止めるものは時代に取り残される。変われるときに変われないものは歴史の闇に消えていくだけである。
プーチン大統領が、変化を求めても、議会が許さない。汚職やコネの潤滑油にどっぷり漬かっている議員たちは、敗北することでしか、きれいなオイルで身を清めることはできないのだ。
プーチン大統領は、この戦争の落としどころとしてどちらかが継戦不能になる迄戦争を続けるしかないのだ。そして、G7が、後ろ盾している限りウクライナの負けはないだろう。G7が負けた後の混乱よりロシアが負けた方が世界の混乱は少ないだろう。
欧米は、ロシアに仲間として戻ってきてほしいだけなのであるから、ただ、ロシアの国境は世界の果てまでとか、ロシア人が住んでいるところは、ロシアの領土という考えは改めてほしいのだ。
第9節
プーチン大統領の葬儀でのエピソード
もちろんこの時点でプーチン大統領が死んでいるわけではない。他人の葬儀に参列したときの振る舞いについてだ。
ミハイル・カラシニコフ技術中将2013年12月23日死去
アサルトライフル、AK47、カラシニコフ銃の開発者だ。ベトナム戦争時、南ベトナム解放民族戦線の非正規軍事組織ベトコンに供給され、この銃はベトナムから世界最強の軍隊であるアメリカ軍を駆逐した。
カラシニコフ銃は、銃本体を入れて8つの部分からなる。6歳の子供でも一度教えれば組み立てることができ、10歳児に一度射撃訓練を行うだけで自分の意思で自由に乱射できるほど扱いが簡便である。ジャングルという過酷な状況で泥水に漬けても砂塵が舞い上がる悪条件でも故障知らずで、装弾不良を起こし、修理に手間取っているアメリカ兵を次々に制圧していった。
簡単で故障知らずの銃は、今ではアメリカ製カラシニコフ銃が、製造されるほど評価されている。現在、世界の80人に一人がこの銃を所持している、大勢の人を殺傷し続けている悪魔の銃でもある。部品が宙に浮くような構造をしているので遊びが大きく、精巧に作らなくても組み立てが可能で、不良品が出にくいので大量生産が可能だ。安いものでは、10ドルで買える。おもちゃではなく本物の銃が、わずか1600円で手に入るのだ。貧困にあえぐアフリカで多用されている。
ソ連の偉大な軍事力を築いた功績により表彰され中将にまでなったが、大統領に比べれば格下でもある。葬儀に参列したプーチン大統領は、献花を捧げ右手を軽く棺に触れて死に顔をちらりと見て弔意を示した。
参列者が多かったせいかもしれないが、いたって簡単な弔意であった。
ミハイル・ゴルバチョフソ連初代大統領2022年8月30日死去
葬儀当日に政務があるということで、葬儀に参列できなかったプーチン大統領は、葬儀の二日前に一人で葬儀会場に弔問に訪れた。
キリスト教における正式な献花は左手で花の茎を上から持ち右手で花を下から支え、花を自分の方に向けて捧げるのだが、「円柱の間」に入ってきたプーチン大統領は、右手に花の茎を握り左手を前後に振りながら10歩ほど歩いてから献花した。
死者に対する礼儀を重んじ、歩行によって乱れた衣服を正すと死に顔を11秒ほど見つめた。
ソ連のため東ドイツで工作活動をしていた時にベルリンの壁が崩されたのだ。半生をソ連のために捧げてきたのだ。色々な思いが去来したに違いない。
この男が、グラスノスチとペレストロイカでソ連を潰したのだ。プーチン大統領は、ベルリンの壁崩壊は,20世紀の地政学的大惨事だと言っている。
確かに祖国ソ連のために戦ってきたプーチン氏には、目の前でベルリンの壁が、壊されたことはショックだったに違いない。
再びロシアを偉大なものにするため志を新たにして大統領まで上り詰めたのだ。国営のガス会社迄作り西欧をエネルギーで支配するまでになった。エネルギーを武器にしていくらでも西欧に圧力をかけられたのだ。それをすんなり議会の求めに応じて侵攻という手段をとった。
シーザーであっても元老院すべてを罷免することはできない。議会を潰すには外力に頼るしか方法はないのである。11秒ほどソ連初代大統領の死に顔を見つめた後プーチン大統領は、5秒ほど写真として傍に置いてあるソ連大統領の遺影を見つめた。この16秒の間に聡明なプーチン大統領は、走馬灯のようにソ連とロシアの現状を思い浮かべたことだろう。プーチン大統領の半生が凝縮されているのだ。
プーチン大統領は、棺に歩み寄ると左手を棺に添えて再び哀悼の念を捧げた。テレビ放映では、ずいぶん長い時間棺に手を添えて深い哀悼の念とこれからの揺るぎない決意を伝えたように見えたが、ユーチューブを見直したところ、手を添えていた時間は1秒ほどであった。ただ、時間は人の思いによって長さを変える。
苦痛の時間は長く感じるのだ。テレビ中継の画像は静止画像であったかもしれないが、筆者にはプーチン大統領が長い時間棺に手を添えておりその所作が、深い哀悼の念とあなたの遺志を継ぎますという強い決意が感じられたのだ。
侵攻後、六ヶ月が経った時期だ。勝算は五分五分になっていた。欧米のウクライナへの武器供与が拡大すれば負けるかもしれない。瞬時にそれは理解していただろう。
ゴルバチョフが実行しようとしたグラスノスチ(情報公開)とペレストロイカ(再建、改革)、これは濁った潤滑油の中で蠢いていた既得権者には受けいれられないことだった。澄み切った潤滑油の中では、汚職、賄賂は白日の下にさらされる。
国内を混乱させたゴルバチョフが、旧保守派に拉致された事件も脳裏に宿っただろう。
2024年春の大統領再選まではロシアのために戦う。あらゆる手段を講じてロシアのために戦う。しかし、終身大統領になった暁には、もし負けることがあればゴルバチョフ、あなたの遺志を継いでこのロシアを開放しますと左手で元大統領に告げたように私には思えた。
同じキリスト教でも、十字を切るときカトリックと東方正教では動きが異なる。それで宗教的に右手と左手では意味が異なる場合がある。
キリストの地上における代理人、ロシアの首席エクソシストのプーチン大統領が、その意味を知らないわけがない。左手は悪魔の手なのだ。プーチン大統領が心血を注いで尽くしたソ連を崩壊に導いたゴルバチョフを呪って左手を棺に添えたのか、それともあなたの政策は、引継ぐに値するから私が成し遂げると左手に告げたのか。
プーチン大統領は、カメラ撮影はあったが、誰もそばにいないことで油断して聖書に書かれている「左手に告げるなかれ」の禁を破ったのだ。ロシア国民の「慈父」プーチン大統領は、国民のためロシアを潰す覚悟を決めた。絶対君主シーザーに完全になれなかったことで、自らをブルータスになることを決めた瞬間であった。この評価は、時期によっては、プーチン大統領の足を引っ張るプロパガンダにもなるし、大統領を称賛する言にもなるかもしれない。
ともあれ、プーチン大統領の一連の施策は、ロシア崩壊への道筋を密かに進行させているように思える。本人が自覚していなければ、ウラジーミル(宇語ではヴォロディーミル)聖公の導きかもしれない。
ウクライナが占領された4州とクリミアを取り戻すまで、戦争は続き、いったん領土と宣言したロシアは取り戻されるだけで敗北となる。一旦優勢になったらウクライナは補償を求め、ロシア領に進軍して圧力をかけるかもしれない。ロシアが負けた時には、大国が二度と戦争を起こす気が無くなるような処置が必要であろう。
それには、大日本帝国の敗戦がよいお手本になるだろう。侵略戦争で敗北した日本は、領土の45%を、放棄したのだ。戦争をすると国の半分近くを失うということを恒例にすれば二度と戦争を起こす気が無くなるだろう。コザックが貢献して今のロシアを築いたのだ。ウクライナ再建のためにロシアの国土を開放することは、世界のためになりプーチン大統領の功績となるだろう。
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