第4話 プーチン大統領のプランA
| 小中コラム
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小中学生の皆さんで政治の世界に少しは興味を持っている人はいるだろうか。昔は、出来の良い子供がいると末は博士か大臣かと言われたものだが、いま日本の政治を司っている人たちは本当に出来の良い立派な人たちであろうか。
一介の諜報員から大統領に上りついたプーチン大統領は、かなり頭の切れる人だということは理解できるであろう。こういう人物は常に3つ以上の腹案を持っているものだ。会見で話す言葉がすべてではないことと知っておこう。いまはロシアで崇拝されるくらいの絶対的権力を持っているということを知っていればよい。
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第1節
嘗て、田中真紀子外務大臣は、「外務省は伏魔殿のようなところ」と発言したが、それ以来、外務省官僚による外交機密費搾取、ホテル代の水増し請求などの不正疑惑、財務省の公文書改竄、総務省の接待問題、経済産業省の新コロナ支援金搾取事件、総理による森本加計問題、自民党の裏金問題等々、国民主権の民主主義国家であっても、国民の代表として国家の未来を託されている政治家、官僚が問題を起こしている。
どんな集団においても一定数の犯罪者は存在するが、国民の行く末を託されている人たちが、責任を取らず説明責任にさえ口を閉ざしているのは問題であろう。民衆主義国家でもこのありさまなのである。
独裁者のいる国では、こんなものでは済まないだろう。今問題となっているウクライナ侵攻を起こした国ではどうだろう。
プーチン政権初期の頃には、政府と国民の間には「不可侵条約」のようなものが存在していたらしい。ロシア政府は国民の生活を保障する代わりに国民は政府の方針に異を唱えないというものだった。それは「自由や繁栄と引き換えにロシアの偉大さを約束する社会契約」と言われるものだったらしい。国家によるオリンピックのドーピング問題を見るとそれは国民に「幻影のロシアの偉大さ」を嘘で固めて見せていたものに過ぎない。
ソ連邦崩壊後、国民の声が封じられている間に特権階級の人間たちは勢力を拡大していった。
ロシア国民の若い人の声を拾ってみた。ロシアでは、政治家や警官たちの汚職が蔓延して複雑に絡み合ったコネの世界が広がっている。裕福なものと貧しいものの差が大きく(日本でも同様であるが)治安の悪さに心が痛むとツイートしている。
腐朽した体制の改革は心ある国民には困難な状態である。声を上げるものは政権によって次々に葬り去られるか刑務所に収監される。
ロシアに問題が起こるたびにロシア人は海外に移住していく。その数は、ロシア革命以来1千万人以上である。日本の海外移住者も100万人を超えるが、ロシアは、日本と比べ物にならないならないほど国に希望が持てずに移住する国民が多い。
ロシアから優秀な国民が流失しているのである。いずれ政府のプロパガンダを信じる創造性に欠ける国民ばかりになるのは自明であり、亡国の始まりとなるだろう。
またウクライナ侵攻によって若い命が失われて、今世紀の終わりには人口は半減すると言われている。
ロシア革命が起きた時には裕福な白系ロシア人が亡命。皇帝一家は皆殺しにされたから当然だろう。第二次世界大戦後には、国に嫌気が差したソ連の一部住民が脱出し、戦争でドイツに攻め込んだソ連兵は腐敗した国に帰るよりもドイツ領内にとどまることを選んだ。
その後、ポグロムで傷ついたユダヤ系住民やドイツ系住民の出国が続きソ連崩壊後には、ロシア国民のドイツやアメリカへの出国が、ウクライナ侵攻後では富裕層や知識人など100万人以上が出国している。
そのうちの8割が大学卒業かそれ以上の高学歴の人で、高収入の人や政治的理由で国内にいられない人も出国を選ばざるを得なかったようだ。言論の自由の
ない国での国民のとるべき選択肢は、3つだ。
沈黙する。反発の声を上げて暗殺されるか拘束される。海外脱出。
フェイクニュースは、困り者だがロシア軍に関するフェイクニュースを流した者は8年6ケ月刑務所に収監されることになる。戦争をする国に居たくないと思う気持ちは世界共通である。「頭脳流出」した国家に輝かしい未来は訪れないだろう。
戦争とは国家と国家の決闘であり、国民の参加しない戦争は結果が見えている。
では、なぜプーチン大統領は、この戦争を起こしたのであろうか。ただ、初期の頃、プーチン大統領は、国民への説明には「特別軍事作戦」と表明している。戦争と発言したら国民の総動員は避けられず国民は「自由と繁栄」の契約を破棄した権力者に深い失望と怒りや恐怖を覚え、それが社会全体に広がると動乱になるかもしれないからだ。
政権基盤にひびが入ることは避けたいのは当然であろう。開戦を宣言できないプーチン大統領は、軍人だけの作戦「特別軍事作戦」をひねり出し、通常西側に対する備えとしての西部軍管区や南部軍管区ばかりではなく、東部軍管区、中央軍管区などロシア中から軍隊を集めた。
第2節
ロシア軍がウクライナ国境に集結し始めたのは、2021年1月頃からである。3月には6万人以上の兵が集まった。ロシア軍の演習として軍を集めたのであるが、欧州で1万3000人以上の兵力の移動は、他国のオブザーバーを受け入れるというウィーン文書(2011年版)に違反していた。4月にはさらに兵が追加され11万人以上の兵が集結した。
2014年のクリミア併合と、東部ドンバス地方(ドネツク、ルハンシク両州)の紛争後、ゼレンスキー大統領は、戦争でドンバスを取り返すことに反対していた。戦争が始まれば勝つしか交渉はまとまらないことを理解していたからだ。
ロシアはそれをゼレンスキーの弱腰とみなして、国境に軍を集め、ゼレンスキー大統領が、不利な条件で交渉を受け入れるか、ウクライナから逃げ出すか、選択を迫るためにロシア中から軍隊を集めて圧力をかけたのだ。
ロシアはウクライナに対しては、いつも上から目線だ。他国に対しても上から目線の時が多い。また、他国の外交官に対して感情を逆なでにする発言が多々ある。これはロシア人の性格的なものであるからよほどひどい目に合わない限りその性格を矯正することは難しいであろう。
日露戦争で負けた時でさえ、小国日本に対して上から目線で交渉に当たった。
日本は戦争を継続する資源を消耗尽くしていたので、賠償金をもらうことなく南樺太を切り取ることで決着をつけた。
日清戦争で台湾・澎湖諸島を手に入れ、賠償金二億両を手にして戦勝国の旨味を知っていた日本国民は、この決着に怒り、交渉をした小村寿太郎外相の家を焼き討ちにした。前にも記載したが、戦争は勝っても負けても国は疲弊する。商売ではないが、損して得をとれ、余程の無理難題を押し付けられない限り譲歩した方が、その後の国の発展にどれほど貢献できることか政治方針次第である。
しかし、ウクライナは、譲歩しなかった。長年ロシアの支配下に置かれていたウクライナは、ロシアの性格を十二分に熟知しているからだ。譲歩すれば再びウクライナという国は無くなる。ロシアの狙いはウクライナをマイダン革命前の親ロシア政権に戻すことだ。
世界第2位の軍事大国が、国中から軍隊を集めたのだ。NATOはビビッた。ロシアを白熊に例えるとヨーロッパ諸国はツキノワグマ以下だ。だからNATOを作って対抗しようとしたが、今のロシアは、狂犬病に感染した白熊の態≪てい≫だ。近づくのは危険だ。だから、万一の時は、ゼレンスキー大統領に国を逃げ出し亡命政府を作ってロシアに抵抗することを提案した。
粗暴、凶暴、狂暴、なんとも形容しがたい国際法を無視した行動を度々取っているロシアを刺激することを、極力避けたいヨーロッパ各国は、クリミアと2州だけの地域紛争に抑えたかったのだろう。ゼレンスキー大統領の側近たちも亡命を勧めた。
ロシアもプロパガンダで攻勢を強める。事態の責任は全て西側にある。これ以上手出しはするな。ウクライナが抵抗することは終わりの始まりである。ロシアの言うことに従えと。他国からこんなことを言われ「はいそうですか」と言える国があるだろうか。
ゼレンスキー大統領は、戦争を回避するためにプーチン大統領と直接交渉を何度か試みるが、「ハゲの悪魔(プーチン)と交渉して誰も死なせないようにする」とのゼレンスキー大統領の発言に機嫌を損ねたのか、プーチン大統領は、悉く面会を拒否。話し合いはできない。ゼレンスキー大統領に状況を打開する力なない。プーチン大統領は早くウクライナから尻尾を巻いて出ていけとばかりの態度で圧力をかける。
2021年初旬から強大な軍事力でウクライナに圧力をかけ続けたロシアであったが、事態は膠着して動かない。将来起こるかもしれない侵攻の大義名分として、2021年7月にプーチン論文が発表された。
プーチン大統領の主張は次のようなものだ。
「古代ルーシーの継承民族である、ウクライナ、ロシア、ベラルーシは、分かちがたいものである」
過去にさかのぼれば、渡来人である日本人は大陸の人々と分かちがたい存在になってしまう。しかし、現在の日本は、どこの文明圏とも交わらない独特の文明圏として認識されている。
「ウクライナという民族はいない」この言葉は正しい。しかし、同時にロシアという民族も生物学的にはいないのだ。
21世紀になって初めて可能になった古代ゲノム解析によって人類の集団は離合と集散を繰り返すことで遺伝的な性格を少しずつ変化させてきたことが分かった。
20万年の歴史を持つ現生人類に純粋な民族という概念ができたのはわずか数千年前なのだ。しかも、ヒトの遺伝子は99.9%同じなのだ。民族とは、言語や宗教などの文化的な違いによって一括りにされる人類の集団に過ぎない。
ウクライナ人は似ているところが多いのでロシアが未練を持っているに過ぎない。ウクライナがロシアとは袂を分かつと決めたのだ。独立した以上ロシアとは別の国なのだ。
「ウクライナ語はポーランド訛りのロシア語に過ぎない」
言語は、使う地域の人によって変化していくものであり、国となったウクライナの言語である。イタリア語をイタリア訛りのラテン語だという人はいないだろう。
プーチン大統領は、1922年にソ連が成立したときに共産主義政権が民族別共和国制度を導入してウクライナやベラルーシをロシアと対等なソ連構成共和国としたことを間違いだったと主張している。これは、日本の総理が大政奉還は間違いであったと言っているに等しい。過去を変えることはできない。どうしてもというならプーチン大統領自身がタイムトラベラーになり当時に戻ってレーニンを倒してもらうしかない。
最後にプーチン大統領は、「ウクライナがどうするかは、その国民が決めるべきことだ」と結んでいる。今までの論文の流れからはウクライナのアイデンティティーを否定していたのだが、ウクライナ人が頑強な抵抗を試みてロシアを阻止できるなら逆に主権を認めている様にも受け取れる。開戦前の論文だ。ウクライナ人の心を誑かしているようにも思えるし国内向けのプロパガンダのようにも思える。
西側の考えるプーチン大統領の思惑は、マイダン革命前の政治体制にウクライナに戻すためゼレンスキー政権の退陣の要求。ロシアに楯突くものは暗殺、抹殺、消去するのがプーチン流。ウクライナの非武装化、10年後、NATOのミサイルがウクライナに配備されるのは困る。(モスクワを東京に例えて日本の距離間に当てはめると北朝鮮のミサイル基地が神戸に配備される感じだ)プーチン大統領の不安はわからないでもないが、戦費にかかる予算を考えれば、ウクライナに不満を訴えるロシア系住民をロシアに移動させてその財産を保障する方がよっぽど安く上がるだろう。
第3節
2022年2月、「連合国家共通軍事ドクトリン」では、核使用基準に関する簡単な文言が削除された。これはプーチン大統領の判断で核を使用することができると受け取ることもできるが、逆に核使用基準があると事態がその基準に達したとき自動的に核を使用しなければならないことを恐れたともいえる。プーチン大統領はモスクワが攻撃されない限り核の使用は考えていないと発言している。
1985年のレーガン=ゴルバチョフによる共同声明「核戦争に勝者はなく戦われてはならない」は、まだ生きている。各種条約の破棄や国際協調を拒否し続けているロシアも、さすがにこの声明の破棄を通告していない。
ロシアが、モスクワもサンクトペテルブルクも地上から消えても良いと思わない限り、核による先制攻撃はないだろう。
天気は西から、爆発で飛び散った放射性物質はロシアに戻ってくる。汚染された小麦はどこの国も購入しない。ポーランド国境で爆発させて放射性物質がポーランドに流れ込んだらNATOへの宣戦布告とみなされるだろう。
黒海を汚染したら長年の宿敵トルコが黙っていないだろう。放射性物質が、大気中に拡散したら世界中が黙っていない。一部は、偏西風によって中国にも運ばれていくだろう。核汚染水をALPS処理して基準値以下のトリチウムになった水さえ、汚染水と呼んでいる中国はどんなに非難するだろうか、弁護するのか、どう反応するであろうか。
小中コラム
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核兵器によって被曝した国は日本だけです。1945年、第一の被曝地広島、第二の被爆地長崎です。
その後、アメリカは南太平洋で数々の原水爆の実験を行いました。
1954年、ビキニ環礁で、水爆の実験を行い日本の漁船が第三の被曝を受けました。1958年には海上保安庁の船が第四の被曝を受けました。
被爆者の訴えは、すべてアメリカによって黙殺されてきました。
被ばく者の方々の中にはアメリカを恨んでいる人もいるかもしれません。それを口に出さず核廃絶を願っているのが日本人の心なのです。
放射能汚染を恐れてアメリカは遠く離れたビキニ環礁で実験を行いましたが、数年後放射性降下物はアメリカ本土にも落ちてきました。
アメリカの大統領さえ放射性降下物を吸入して肺がんになる可能性があったのです。因果応報です。
その時の放射性降下物は、全世界に降下して南極の氷からも発見されています。
プルトニュウム239は極めて毒性が強く、肺に対する許容量は、4000万分の1グラムです。地球の大気中ならどこで核爆発させても、それは全世界に対する宣戦布告と同じなのです。
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第4節
ロシア全軍の圧力に屈しないウクライナをどうすべきか2022年2月24日の開戦迄プーチン大統領は、逡巡の時間を過ごしたことだろう。
2021年10月、プーチン大統領の影武者ではない、替え玉のメドヴェージェフ国家安全保障局会議副議長(元大統領)は、プーチン大統領と同じ主張を繰り返したが、ウクライナに対して感情的というか理性が伴っていない支離滅裂な発言で、どのような結末が訪れればロシアが満足するのか理解できないものだった。
ウクライナ(長男)に対するロシア(次男)の嫉妬とか恨み、或いは離れていく家族に対する複雑な感情ともいえる。第1話でも記載したが、ルーシー3兄弟は、それぞれ不動産業を営んでいた。いま、ウクライナ不動産がNATO 不動産と合併しようとしている。今までさんざん、ウクライナ不動産の利益を横取りしてきたロシア不動産に長男は愛想が尽きたのだ。ロシアはその態度が口惜しいのだ。今のロシアがあるのは、ウクライナのコザック兵のおかげなのだ。
ポーランド王国の傭兵として、仕事のない時は海賊としてトルコ船を海上で襲ったり、トルコ沿岸部の都市を襲撃して戦利品を挙げて生活の糧にしてきたコザック兵は、戦いに慣れていた。ロシア帝国はそれに目を付けコザック兵を利用してアラスカまで手に入れた。
凶暴なヨーロッパ列強からロシアを守るため白ロシア(ベラルーシ)と小ロシア(キエフ→ウクライナ)を盾と矛とした。その矛先がロシアに向けられるのだ。感情的に動揺してもおかしくはない。ウクライナの立場からは、今までさんざんロシアに利用され搾り取られ、下僕のように扱い続けられてきたのだ、ロシアにもうこれ以上大きな顔をされるのは兄として屈辱なのだ。
日本的にわかりやすく説明すると、世界の超一流メーカーであるトヨタ自動車が、歴史的には豊田織機の子会社であったのと同じようなものだ。親会社のキエフ・ルーシ公国があって、モスクワは、その一部に過ぎなかった。その後、タタールの襲撃によってキエフは寂れたが、住民がいなくなったわけではない。
事実、ロシアはウクライナ、ザポロージェのコザック兵を使っていた。ウクライナ人と自覚する国民がいる限りウクライナは存続し続けたのである。
ロシアの圧政によって何度も独立を妨げられただけなのである。ロシアが強かったのはウクライナのコザック兵がいたからである。そのコザック魂を持ったウクライナ兵に基本的には弱いとされるロシア兵が数と数倍の兵器を頼みにウクライナを蹂躙しようとしていた。
第5節
開戦前には、いろいろな動きがあった。
2月14日、テレビ中継のプーチン、ラブロフ外務大臣会談、ラブロフでさえ開戦には消極的であった。ラブロフの意見に大統領は、「ハラショー」いいだろうと答えた。続いて、ショイグ国防相が、演習の終了を報告した。大統領は、「ハラショー」と答えた。これはウクライナを油断させるための茶番だったのか。
2月15日、プーチンとショルツ独首相がモスクワで会談、ロシアの要求に歩み寄る合意をゼレンスキー大統領が認めたことを伝えた。ロシア側優位に話し合いは進んでいた。
だが、同日、ロシアの下院からウクライナの親露派武装勢力(プーチン大統領の信念によれば、背後で操るものがいなければ大衆は立ち上がらない。親露派であるから背後で操るものは、言わずもがなのことである)自称「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立を承認するようプーチン大統領に要請する決議が可決された。
ロシアにも議会政治があり、プーチン大統領はその長だ。日本に当てはめると自民党議員と野党の提出した法案が決議され、総理にその実行を迫った形だ。決議案を総理が独断で蹴る権利はない。あるとしたら解散権だろう。
プーチン大統領も議会を無視するわけにはいかないから、その趣旨に賛同し法案を預かりの形にした。
一方、第二次ミンスク合意によれば停戦後両地域はウクライナの一領域として再統合されることになっている。国内の政治的決議と外交的決着はジレンマを抱えることになった。
その後の1週間はプーチン大統領が腹を括る時間だったに違いない。議会を無視することは議会政治の否定であり、ロシアの法律を無視することになる。
完全な独裁者として皇帝のように振る舞い長年同胞だったウクライナに戦争を仕掛けることは良い事とは言えないと議会を窘めることもできたはずだ。(事実上、誰も大統領の意にそぐわない意見は言えないのだが、大統領はこのように望んでいるはずだという忖度が議会で働いたともいえる)
プーチン大統領は、力の信奉者ロシアの大統領なのだ。ジレンマは、力で決着をつける決断をしたに違いない。だが、完全な独裁者として国民の目に映ることを避けたかったのか茶番を演じることになる。
それが、2月21日の国家安全保障会議であった。この会議は、国家の方針を決める重要な会議であり、会議は非公開である。通常は、プーチン大統領の挨拶だけが公開されるだけで、会議の議論は公開されない。だが、この日は違っていた。会議は、テレビで中継され挨拶に続いて、ドネツクとルガンスクの国家承認に関する下院の要請を認めるかどうか話し合うと述べたのである。
国家安全保障会議のメンバーが一人ずつ壇上に呼び出されプーチン大統領に発言の機会が与えられた。
最初に指名されたのはラブロフ外相であった。国際政治の舞台では、しばしば暴言を吐くラブロフであったが、国家承認はさすがにまずいと思っていたのか西側との対話継続を提案した。
2月24日にも対話が開催される予定で、ロシアの望む結果になろうとしていた。だが、プーチン大統領は、ラブロフの発言には否定的であった。
ラブロフは議案に対する意見は述べずに下がった。委員の中で意見を述べなかったのは、ラブロフ一人であった。このことがあったためか、ラブロフが侵攻を知らされたのは、侵攻数時間前であった。
ほかのメンバーは、大統領を忖度してか次々と議題に対する賛意を示したが、ナルィシキン対外情報庁長官は、ウクライナに対して第二次ミンスク合意の履行を提案した。すぐさま議題を決定することに躊躇したのだ。
国際情勢に明るいラブロフとナルィシキンは、この決定がどういう状態を招くかある程度予想がついたに違いない。その発言にプーチン大統領は、パワハラで「はい」か「いいえ」で答えてくれと迫った。魔王プーチン大統領の前では、対外情報庁長官であっても子羊のようにおどおどした態度で「はい」と答えざるを得なかった。
こうして、下院から提出された議案に対してコザク大統領府副長官、パトルシェフ国家安全保障会議書記、メドヴェージェフ国家安全保障会議副議長(元プーチン大統領の替え玉大統領)、ヴォロジン下院議長、マトヴィエンコ上院議長、ミシュスチン首相が、明確に国家承認を支持した。これによってプーチン大統領は、みんなの意見を引き受けざるを得なくなった形を作ったのだ。「ハラショー」いいだろう。あとは、俺に任せてくれ。
茶番の上演は成功裏に終わったと言えるだろう。プーチン大統領と言えども、独断で、ウクライナ侵攻という世界に衝撃を与える決断はできなかった。
第6節
特別軍事作戦(ウクライナ戦記、最初の3日間)
ロシアは、侵攻に当たって事前の準備を手配していた。ウクライナ国内にロシアの協力者を配備することであった。ロシア参謀本部情報総局から数十億の資金が総元締めのデルカチという人物に供与されウクライナ各地に民間警備会社を設立して侵攻後のロシア軍の進撃路確保や警備を担うことになっていた。
ウクライナ保安庁内部にさえ協力者を確保していた。その一人に、ゼレンスキー大統領の幼馴染がいた。開戦直後持ち場を離脱して行方不明になっていたのだ。
ウクライナ内部の協力者たちは、積極的に攻撃に参加するのではなく、持ち場を放棄することで現場に混乱を招きロシア軍への反撃を少しでも遅らせる目的であったようだ。ロシアの上層部の腐敗は著しいが、長年ロシアの一部であったウクライナに腐敗している箇所が多々あるのはしかたがないだろう。
ロシア連邦保安庁も暗躍していた。彼らから見れば忠実に任務を果たしていただけであるが、協力者のウクライナ政府関係者からの情報の引き出しや持ち場の放棄を金で依頼していた。結果は捕らぬ狸の皮算用であったが、ご丁寧に占領政府総督(ロシア版GHQ)の担当者のアパートをキーウに確保していた。
2014年のクリミア侵攻があまりにも簡単に成功したので、ウクライナ軍を甘く見ていたに違いない。ロシアの指導部は、兵士に抵抗勢力は住民の10%程度で、60%の住民は政治には無関心で、30%の住民は、花束を持って出迎えてくれると説明していたらしく、旅行気分でパレード用の軍服とヘルメットを持参して侵攻に参加した兵士がいたくらいだ。
ある部隊は戦勝パーティーを催すためにキーウのレストランに予約を入れていた。ウクライナはロシアの一部に過ぎないという認識だった。
ロシア指導部の考えは、侵攻初日にウクライナの防空システムを破壊し、軍事施設の武器弾薬の破壊、ベラルーシから戦車大隊のキーウへの侵攻、ヘリボーン作戦による、キーウ近郊の飛行場の乗っ取り、飛行場から送り込んだ軍隊による大統領府の包囲、ヘリでゼレンスキー大統領が逃亡しなければ、抹殺して傀儡政権を樹立。内通者の導きによってロシア軍がウクライナ全土を占領するという壮大な計画だった。
プーチン大統領は、72時間で特別軍事作戦は終了すると思っていた。プーチン大統領は、元諜報員であり数々の修羅場を潜ってきた。
一方、ゼレンスキー大統領は、大統領役を演じて人気をとって大統領になったコメディアン上がりだ。
プーチン大統領は、政治経験の少ない大統領と甘く見ていた。そして、万全といえる工作活動と侵攻計画は練りに練られた。逡巡の時も過ぎ去った。
第7節
2022年2月24日、AM4:50(ウクライナ時間)
プーチン大統領は、「私は、特別軍事作戦を開始することを決めました」と宣言した。
侵攻が開始された初日、ベラルーシのロシア軍基地と航空機からミサイルが発射された。ロシア国内の基地と航空機から、ドネツク州、アゾフ海、黒海から航空機によるミサイル攻撃、黒海の潜水艦から、クリミアの基地から100発以上のミサイルがウクライナの防空システムを、軍事基地を、破壊するために発射された。
ウクライナにとって不意打ちに等しい侵攻であった。同時に19万人のロシア軍が侵攻を開始した。
キーウで異様な爆発音が起き,ゼレンスキー大統領の伴侶が目覚めたとき、すでに大統領は起きており、妻に向かってただ「始まった」とだけ言った。
アメリカバイデン大統領からの助言や米情報局からの警告でロシアが侵攻してくることはわかっていたのだ。直ちに執務室に向かったゼレンスキー大統領のもとへ、イエルマク大統領府長官、シュミハリ首相、軍幹部、閣僚、議長が集まった。
AM6:48ゼレンスキー大統領は、軍治安部隊・防衛部門は機能しているので平静を保つように国民に呼びかけた。
開戦から6時間後、隣国ベラルーシから40機のヘリコプターが奇襲攻撃を仕掛けてきた。大統領府周囲の空港を占拠して大部隊を送り込み12時間で大統領府を制圧する計画だった。
侵攻に先立つ2日前、ウクライナのレズニコフ国防相は、ベラルーシのフレニン国防省から電話をもらい、ベラルーシからの攻撃はしない、軍人として嘘はつかないとまで念を押されていた。
これは、ウクライナ軍の主力を東部地域や南部に張り付かせるための陽動作戦と言われているが、ここまで念を押されると逆にベラルーシからの攻撃はあると疑念を持った方がよいだろう。ベラルーシ(三男坊)は、ロシア(次男坊)の言いなりだからだ。
あまつさえ、レズニコフ国防相は、ロシアの司令官から侵攻の作戦指令書すら見せられている。これは、例えると、北朝鮮が日本に侵攻をする計画書を自衛隊の幕僚長に見せるようなものである。
世界第二位の軍事大国であるという驕りが見えないだろうか。あまりにも上から目線である。旧ソ連時代、ロシアの軍隊の中核をなしていたのはウクライナの軍隊だったのだ。
凶暴なヨーロッパ列強からロシアを守るために大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射基地まであったのだ。それをロシアは失念していた。情報の過剰な漏洩はルーシー家三兄弟のなれ合いとも他国には映るほどであるが、それだけ旧友も多いということだろう。ともあれ、侵攻は続く。
PM12:18 大統領府まで30Kmの地点にあるアントノフ空港にロシア軍の精鋭空挺部隊が舞い降りた。
PM3:35には管制塔が制圧されたが、ウクライナ軍は反撃し、滑走路を破壊して大量の後続部隊が送り込まれることを阻止した。その後、アントノフ空港は、35日間ロシア軍に占拠されることになった。
また、ロシア軍は、廃炉になったチェルノブイリ原子力発電所を占拠して電源を止めようとした。もし電源が止まれば、東ヨーロッパ全体とロシアに死の灰が降る。
福島原発事故の16倍以上の地域が汚染されることになる。福島でも風評被害は多大だったが、ウクライナ産、ロシア産の小麦は売ることができず大変な小麦の高騰を招くところだった。
原発職員の必死の説得によって大惨事は防がれたが、ロシア兵は高濃度汚染地区に塹壕を掘って36日間被爆し続けた。
第8節
ゼレンスキー大統領暗殺計画
ダニロフ国家安全保障・国防会議書記は、侵攻二日前に大統領暗殺計画の情報を入手し大統領に報告した。
ロシア側の情報をどのようにしてどの程度入手したのかはわからないが、ウクライナ保安庁の特殊部隊は、大統領の暗殺を13回以上阻止した。
自動車爆弾、スナイパーなどの襲撃を特殊部隊がいかに優れていてもこの回数の襲撃をすべて阻止するのは困難だと思う。
単発の襲撃でもアメリカ大統領は結構死んでいる。つまり、ロシア側にもかなりの数のウクライナへの内通者がいたともいえるのではないだろうか。
政府要人の住宅や重要施設であろうか工作員たちは10ケ所以上の家屋の屋上に印を描き攻撃目標をパイロットに知らせた。
大統領府緊急用地下通路にも工作員が侵入してきた。工作員がどこにいるかわからない、身近にいるかもしれない。
大統領はじめ政府要人たちはこの日から、拳銃、自動小銃、防弾チョッキ、ヘルメットを身近に置いて寝ることになった。
侵攻2日目、AM9:40ロシアの戦闘車両が、大統領府9Kmの地点まで侵攻してきた。
度重なる工作員の襲撃を次々に回避するゼレンスキー大統領であったが、ロシア軍優位の戦いであった。しかし、ロシアの目論見であった大統領府を開戦後、12時間で制圧する目標には達していなかった。ロシア指導部に焦りが生じ始めた。
PM1:00 ベラルーシのフレニン国防相からイエルマク大統領府長官へ、これ以上の犠牲者を出さないためにも降伏を勧める電話がかかってきた。もちろんウクライナは拒否した。二日前には、ベラルーシからの攻撃はないといった、二枚舌の言うことなんか信じられるわけがない。
PM4:45 プーチン大統領は、ウクライナの兵士にクーデターを起こして麻薬中毒患者でネオナチ思想のならず者たちを倒すように呼び掛ける。
ウクライナ大統領府には、軍事の顧問がいて軍を統率している。麻薬中毒患者はいないことは自明の理であるからプーチン大統領の呼びかけに蜂起する兵士は皆無だ。
プーチン大統領はなにを血迷ったのかとんでもない暴言を吐いたことになる。多分、侵攻が予想以上に進展していないための焦りから国内向けのプロパガンダとして放送したのだろう。
プーチン大統領の論文に書かれたネオナチ思想が何なのかわかっている人はいるのだろうか。独裁と軍事力による侵攻を起こしたプーチン大統領こそネオナチと言っていい。
ロシア軍の思惑通りに侵攻は進んでいなかったが、これ以上の戦乱の拡大や市民の犠牲を危惧した欧米のパートナー(米、英、仏、独)は、亡命政府を用意するからヘリコプターでキーウを脱出することをゼレンスキー大統領に提案する。
大統領府に続々と詰めかけた人々、大統領顧問、与党幹部の大半が、「諦めよう、その方がいい」と口々に言っていく。サリブナ報道官は、うんざりしたことだろう。彼女の役割は、権限のない人の観念や弱気を聞くことではない。大統領の意志を政府の方針を報道することだからだ。
諦めたらウクライナの民主化の物語はそこで終わる。ロシアに支配されたら二度とウクライナの民主化は訪れない。(ロシアの法則5弱いヤツはつぶす)弱いヤツの意見は聞かない。潰れなかったときにはじめて話し合いが始まる。
ウクライナが占拠されてしまえば第二次ミンスク合意など、それはウクライナが存在していた時の話だと一蹴されるだろう。
ロシア議会の考えるウクライナ侵攻は、ロシアが今までチェチェン共和国、南オセチア自治州、アブハジア自治共和国でやってきたことの延長に過ぎない。ウクライナが占領されれば、次はモルドバにある22万人のロシア人が住んでいる未承認国家沿ドニエストル共和国の独立と拡大だ。ロシアによってポーランドが消滅したのは230年ほど前のことだが、ポーランドだって過去のトラウマがある、NATO に加盟しているとはいえうかうかできない。
力の信奉者ロシアの国境は世界の果てまでという信念がある限り、これからも弱い地域への侵攻は続く。フィンランド、スウェーデンが、慌てて200年続いた中立を放棄してNATOに加盟したのは歴史を理解しているからだ(合従連衡)。
長年ロシアの一部にされていたウクライナはロシアの考えを十二分に理解している。世界は、ウクライナに任せるしかないのだ。
国民を見捨てて亡命政府を作った大統領となるのか、命を懸けてロシアと戦うことを決意した大統領として歴史に名を残すのかゼレンスキー大統領に決断の時が迫ってきた。
ゼレンスキー大統領は、民主的な社会を望む国民の負託を受けた大統領なのだ。逃げる訳にはいかなかった。
側近たちに話しかける、私はここに残るが、君たちはここに残るか去るかは自分で決めてくれと、自分の意志で決断することを迫った。
大統領府顧問は今の状況では勝てないことを理解していた。西欧はウクライナを助けることに否定的だったし、ロシア軍の先鋒は大統領府から9Kmの地点まで迫っていたのだ。
誰もがもう終わりと考えていた。
第9節
キーウにサハイダチニー通りやウクライナにフメルニツキー紙幣があるのは、彼らが往時、ヘトマン(コサックの首長)としてウクライナの独立のためにロシアやポーランドと戦った英雄だからだ。
長い間の艱難を経て独立したのだ、それを無に帰することはできない。ゼレンスキー大統領は、プーチン大統領の嫌うナワリヌイ氏と同じ鋼鉄の意志を持った男だった。国民の期待に応えるために命を懸けることを決断したのだった。
ゼレンスキー大統領の勇気に敬意を表する。
国民が一番困ることは大統領の安否だった。ロシア軍に殺されたのか、逃亡してもう国にいないのか、国民の士気にかかわることだった。
ゼレンスキー大統領は、電力の確保とインターネット回線の手配をした。
侵攻37時間後のPM6:35
インターネットの力を使ってゼレンスキー大統領が、大統領府の近くで声明を発表した。
政府の要職についている人は、みな逃げないでここにいる。国民に大統領の安否を伝え鼓舞し、国の独立を守るため徹底抗戦を国民に呼びかけた。
この時点でウクライナ軍がどのくらい抵抗できていたか情報はつかめていなかったので、大統領はじめ側近たちは死を覚悟していたに違いない。
サハイダチニーの意志は現代まで続いているのだ。斃れても次に続くものが必ず現れる。
黒川祐次氏の本によると30年ほど前になるが、キーウ・モヒラ・アカデミーの大学生へのアンケートで11%の学生が将来大統領になると答えていた。小学生ではなく大学生のアンケートでだ。日本の国立大学の学生にアンケートを取って何人が将来総理になると答えられるだろうか。モノ、カネ、人、地盤の日本では、総理になると即答できる学生は皆無と思う。
万が一、ゼレンスキー大統領が倒されたとしても、ウクライナ魂が続く限り、ウクライナでは大統領候補の人材に事欠かないのだ。独立継続の強固な意志を伝えることが重要なのだ。
ゼレンスキー大統領の徹底抗戦発言に逆切れしたロシア政府は、ウクライナへ無差別とも言えるミサイルの猛攻を再び開始した。豊かなウクライナの国土を焦土へと変えようとしていた。
3日目、侵攻に耐えること57時間後のことだった。前線からロシア軍異変の一報が届いた。進軍が減速しだしたのだ。ウクライナ軍の反撃が効果を出し始めた。
米国からの情報や衛星画像によってロシア軍の侵攻は確実であると判断されていた。それに備えてウクライナ軍は極秘裏に1ケ月前から軍を分散させ武器や弾薬を常に移動していたのだった。おまけに、ロシアの司令官は、ウクライナ軍のレズニコフ国防相を子ども扱いにするがごとく、侵攻の作戦指令書さえ開示しているのだ。
端から高を括っていたのである。それとも、せいぜい対策を練ることだなとアドヴァイス気分だったのであろうか。
旧ソ連時代にウクライナ軍は中核を占めていたことを忘れている。ともあれ、初日にロシア軍が実行した防空システム、航空機、武器弾薬庫を破壊するミサイル攻撃はほぼ空振りに終わったのだった。
ゼレンスキー大統領の健在と激を聞き、散開していたウクライナ軍は、侵攻するロシア軍に向かって集結しだしたのだ。また、市民が侵攻してくる戦車に向かって武器を持たずに抵抗したことも大きかった。上官から歓迎されると聞かされていたロシア兵は困惑した。
民主的な社会を知ってウクライナ国民は自ら行動する人の国になっていたのだ。プーチン大統領の言う操る人間が後ろにいないと人々は立ち上がらないのではなかった。
ウクライナ国民の82%が、ロシアに領土を譲歩しないと言っているのに、某国の元大統領が、領土を譲歩して早くウクライナ戦争を終結させろと言っている。民主主義を本当に理解しているとは思えない発言である。
ロシア軍が進行しようとしていた橋をウクライナ軍は自ら破壊して進軍路を限定していた。慌てたロシア軍は特定の道を使って侵攻しなければならなかった(混水摸魚の計)。
初日のミサイル攻撃で敵の戦力は著しく低下していると甘く見た戦車群は一目散にキーウを目指して進行を続けた。
限定した進路にロシア軍をおびき出したウクライナ軍は、侵攻する戦車群の先頭車両群を次々と破壊した。破壊された戦車群が進路をふさいだためロシア軍の侵攻は止まりそこを一網打尽とばかりに狙い撃ちにされた。
身動きが取れなくなったロシア軍の車列は60Kmに及んだ。航空機による支援があったら北部戦線の戦いは、ウクライナ軍の歴史上最大ともいえる圧勝になっただろう。60Kmに及ぶ戦闘車両をすべては破壊尽くすことになる。
欧米がウクライナの求めに応じて重装備の武器を供与していたら、戦闘は1日で終わっていたかもしれない。だが、欧米が供与した武器は歩兵が肩に担げる軽装備の物ばかりで質も量も十分なものでなかったため、ロシア軍の進攻を押し留めるだけで大勝利は叶わなかった。
先頭の戦車集団だけの損失で、それ以上の攻撃を受けなかったロシア軍はその後、悠々と撤退していった。この戦闘でロシア軍は、師団長を失った。ロシアに抵抗できるかもしれないというわずかな希望が確信に変わった瞬間だった。
こうして3日でキーウ占拠し親露派政権を樹立して2022年夏までにはウクライナを併合するという絵に描いた餅をロシアは食べることができなかった。
世界の認識を変えた3日間だった。
ウクライナは48時間でロシアのものになると思っていた欧米は認識を改めた。もちろん、48時間でウクライナがロシアのものになった場合供与した武器はすべてロシアの物になるのであるから供与を渋ったわけもわからないわけではない。
しかし、態度を改めた欧米は、これ以後、遅々としてではあるが、武器の供与を始めた。そして、ウクライナ戦争は長期戦となっていった。
世界でロシア(次男)のことを一番知っている国はウクライナ(長男)なのだ。
どんどん武器を供与してウクライナに決着を付けさせることが早く世界の安定につながる。
第10節
プーチン大統領の論文に書かれていることに真実があるのなら、ロシアが反ウクライナであったことは一度もないしこれからもそうならない、と明言している。ウクライナは今のロシアの仕打ちに敵意を持って臨んでいるわけで、ロシアが引けば反ロシアとはならないだろう。
ロシアが、ウクライナを打倒できない相手と知った時にはじめて和解の道が開かれる。欧米はウクライナが倒れないように支え続けなければならない。最大で自国にある兵器の45%位まで供与してよいだろう。それだけの武器を供与すれば、ロシアと十分に対抗できる。表明しなくてもNATOとロシアの代理戦争の態をすでに示している。50%以上の武器を供与しないのは、ロシアを打ち取った返す刀で自国を攻撃されないためである。それが安全保障というものである。
嘗て、友好関係を結んだロシアのスパイに自衛隊の教本をお土産に渡した教官がいたけれど、他国に手の内を知らせるとは愚の骨頂である。その本が、自衛隊の教本とは全く違うダミーの教本であれば十分安全保障とは何か理解していることになる。
ロシアは、G8の一員として世界を指導していく立場にある。ヨーロッパでは、もう二度と火砲を使用する戦争は起こらないと思われていた。その地域に20世紀型の戦争を引き起こした責は重い。
ウクライナは、国際的に認められた独立国家なのだ。決してロシアのものではない。在住するロシア国籍の住民はウクライナの法律に従わなければならない。ロシアの行為は、台湾に移住したアメリカ人が不当な差別を受けているから、台湾をアメリカとして独立させるというような行為なのだ。
ともあれ、足を止めた兄弟の殴り合いは続く。
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