💫❄️3🎅💫
「ありがとうございましたー!」
午後三時ごろ。
店内にいたお客さんを一人見送って、人のまばらになった時間を見計らって休憩に入る。
「お疲れ様です。ゆきりん先輩」
更衣室に入ると、テーブル前の椅子に座っていた男の子が僕にお辞儀をした。
この子は、やっくん。
四月から入った新人バイトで、市内の大学に通ってる学生なんだって(ちなみにここのバイトは、全員店長命名のあだ名やニックネームが職場の名前。だから僕もやっくんもお互いの本名を知らないんだ)。
「お疲れ様。どう? バイト慣れた?」
「大変ですけど、はい。少しは」
「ここのお店メニュー覚えるの大変だもんね。困ったら何でも相談してね。って言っても、僕も一ヶ月前に入った新人だけど」
「いえ、助かります。ありがとう、ございます」
猫背気味の背中をさらに丸めてやっくんが小さく頭を下げる。それと変わらないタイミングで、今度はドアから「おつかれさまでぇ〜す」と女の子が入ってきた。
格好も声も甘いお菓子みたいな可愛らしい女の子は、ココちゃん。
ココちゃんも市内の高校に通う現役女子高生なんだけど、こう見えて僕より一年先輩の学生バイトだ。
口数の少ないおとなしいやっくんに、きゃぴきゃぴしたイマドキの女の子のココちゃん。
このお店だと比較的年齢の若い二人なんだけど、仕事となると僕より何倍も働くしっかり者で店長にもバイターさんにもいつも頼りにされている(僕も頼りにしてるうちの一人だ)。
「ゆきりんさぁ〜ん。土曜はシフト急に代わってもらってすみません〜。チョーたすかりましたぁ」
眉尻を下げながら手を合わせるココちゃんに「ううん、気にしないで。予定入ってなかったから」と返した。実際、こないだの土日はアキオも疲労困憊で倒れてたし、やる事と言えば買い物ぐらいだった。
「ゆきりんさんっていっつも昼シフトですよねー。夜入れないんですか?」
「入れてもいいけど、夜はなるべくご飯用意して待ってたいんだ」
「え~優しい〜。旦那さんですかぁ? それとも好きぴ?」
「ん、んー? 幼なじみ……かな?」
「じゃあ同棲かぁ。イイナー」
「どっ?! ちがっ、ちがうってば」
「ちがくなくない? ねぇーやっくん」
ワンテンポ遅れて「……あ、ハイ。なんですか」と返事をしたやっくんは、いつのまにか頭に大きいヘッドフォンを着けていた。手元にはなぜか旧式の液晶端末(たしかスマートフォンだったっけ)を持っている。
「あぁ〜! ココ達のハナシ聞いてないでしょ〜」
「すいません。おれ、ハナシ聞かない方がいいと思ったんで」
「ってかソレ、スマホ? エっモぉ〜! ねーねーねーなんでぇ〜?」
「あー……。えっと……うーん……」
ココちゃんの興味は完璧にやっくんに逸れたみたいだ。
ごめん、やっくん。
質問攻めを受けて若干引き気味のやっくんに心の中で謝りながら、ほっと胸を撫で下ろす。
僕とアキオの関係、かぁ。
10年振りに再会した幼なじみ?
友達以上、恋人未満の同居人?
いくら考えてもやっぱりどれもしっくりこない。
それもそうだ。
——オレは気持ち変わんねーから。何年でも待ってっから
——少しずつでいいから、好きになってくれますか
僕が告白の答えを、ちゃんと返していないから。
アキオとの距離が近くなっていても、ぼんやりとした関係を続けてるから答えられるはずがないんだ。
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