💫❄️2🎅💫

 ドタドタと慌ただしい足音でハッと目が覚める。


「んん……?」


 ぼんやりとした頭で隣のアキオの布団を見るともぬけの殻。布団脇の目覚まし時計に目をうつすと、時間はまだ朝の六時だった。

 気だるい体を起こすと、アキオは向こうのタンスの前でリュックに荷物を詰め込んでいた。


「おはよ……」


「おう」


 一度もこっちを振り向かずに返すアキオの目には、うっすらとクマができている。


「昨日何時に帰ってきたの?」


「一時」


「朝ご飯は?」


「コンビニ」


 そう素っ気なく答えて、支度が終わったらしいアキオはさっさと家を出て行ってしまった。


「別に、起こしてくれればいいじゃん」


 ひとり取り残された部屋でつい愚痴がこぼれる。


 数年前、空飛ぶ車——飛空車が一般的になった頃、日本で誕生した民間サンタクロース。


 貧しいお家や養護施設の子供達へクリスマスプレゼントを飛空ソリで届けるための資格を取って、春から正式にサンタに任命されたアキオなんだけど、この四月から三ヶ月間、厳しい研修の毎日が続いている。


 六時には家を出て、アパートから飛空車で一時間半以上もかかる山中の研修センターに着いたらすぐに研修スタート。


 午前は基礎トレーニング。坂道ダッシュから腕立て、腹筋、スクワットを100回ずつ。それが終わったら、今度は警察OBから柔術や護身術の講義を受ける(万が一強盗に襲われた時の対策なんだって)。

 お昼を挟んで午後からは勉強と実習。民間サンタクロースの規則だとか心得、特殊な飛空ソリの操縦練習をして、八時から十七時までの厳しい研修はようやく終わる。


 和やかなサンタのイメージとはかけ離れた軍隊顔負けのハードな研修は、バイトを複数掛け持ちするぐらい体力があるアキオでもヘロヘロになるぐらいらしい。


 で、それが終わって真っ直ぐ帰れればいいんだけど、サンタの世界にも夜の飲み会はあるみたい。

 四月中はずっとサンタ事業に協賛してる各企業の歓迎会にほぼ毎日参加させられて、結局アパートに帰ってくるのはいつも深夜——もう僕が布団に入ってる時間だ。


 だから、最近の僕たちは結構すれ違い気味。


 僕は昼からラーメン屋のバイト。

 アキオは、朝から深夜まで研修と飲み会。


 平日に僕たちがまともに顔を合わせられるのは早朝だけで、土日休みも僕がバイトだったりアキオが疲れて寝ちゃったりしてると結局ほとんど話もできずに終わってしまう。


 アキオと僕が一緒に暮らし始めて一年とちょっと。

 僕はやっとただの居候じゃなくなって、アキオも夢のサンタクロースになって良いことばかりのはずなのに、今の状況を僕はあんまり喜べていない。

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