幻想雑貨店

最高血圧

幻想雑貨店

 そう、そこから三つ目の角を右に曲がって50メートルほど歩いてください。道幅が急に狭まった裏通りに出るでしょう。むかって右手に、こじんまりとした古い時計店があります。店の外にだいぶ背がのびて二階のベランダに葉先が届かんばかりのカポックの鉢植えが出されていますね。暗緑色のまるい葉がかさなったその下で黒猫がよく昼寝をしています。ガラス越しの店内には年代物の手編みのチョッキを着た金縁鼻眼鏡のおじいさんが、前かがみでルーペを片手に腕時計の修理をしているでしょう。奥にはゆったりとした揺り椅子にちょこんと腰掛けた銀髪シニョンのおばあさん。編み物の手を休めては目を細めて店先の黒猫をながめます。


 一軒はさんだはす向かいには花屋さん。双子のようによく似た若い夫婦が両方ともロングのソバージュヘアをうしろでまとめ忙しく立ち働いていますね。色とりどりの――よく見るとお店にはサボテンしか置いていないのがわかります。

 そのとなりの奥に細長い古いビル――一階はテナントの入っていない倉庫と化している――その2階です。さあ、階段を上っていきましょう。足元に注意して。ほら、正面の錆びた鉄の扉にさがっている黒地に銀文字のプレート「蜂のひざ」が読めますか。運がよければこの重いドアはきしみながら開くはずです。


 「いらっしゃいませ」


 店内は最小限の照明だけでだいぶん暗いかもしれませんが、すぐ目が慣れることでしょう。ひんやりとした空気につつまれたごくせまい店内には、静かにバロック音楽が流れています。ゆっくりと辺りを見まわすと、陳列棚には気妙な品物がひしめいているのがわかります。

 マダガスカル絶滅蝶の標本箱、プラチナの歯ブラシ、月光浴用ローション、アメシストのコンタクトレンズ、ドードーの化石卵、エンジェル・オイル、キンレンカのジャム、双子の美少女のペア髑髏杯、水銀ドロップ、酸性雨コロン、孔雀料理のレシピ本、アインシュタインの脳味噌レプリカ、グリーンランド産青い氷、一角獣のペニス(粉末薬)、グラスファイバー地のボレロ、メアリー・ポピンズ御用達パラソル、メチルレッドの新色口紅、ニガヨモギの酢漬け壜詰、人間椅子(?)、時計草紙巻煙草1カートン、赤毛のアン風三ツ編みタッセル……まるで脈絡がありません……ベビー‘骨粉,パウダー、安全ピン(シド・ヴィシャスモデル)、桃源郷万華鏡、義眼1ダース、牛乳瓶底眼鏡、トランス香、北欧美青年骨格標本、王様カラスの宝物一式、カストラート絶頂声楽曲集、夕焼け幻燈機、科挙過去問題集、そして隅のワゴンに無造作に投げ込まれた使用済みと思しき纏足靴の数々(すべて片足のみのためセール中とのこと)、ポンパドゥール婦人の乳房石膏、強迫観念症のためのハンドウォッシュソープ。

 「19世紀末英国精〇病院見学チケットの半券」を横目に見て、すこしくらくらしながらあなたは室内を満たすほのかにただよう香りに気づきます。心の奥深い部分に染み入るような、掻き立てられるような、無性に懐かしさを感じて不意にあなたは泣き出してしまいます。


 「こちらへどうぞ」

 

 奥のカウンターから店主があなたを呼んでいます。

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