第7話 すばらしい…

 採掘場の写真が映った。これは見たことがある。


 人類最初の本格的な地下都市は大理石の採掘場だったとのことだ…。


「これは知っているね…。今の人類の、君たちの発展はここからはじまったのだ」

 地図が出た。


 どんどんと地下都市が広がっていく様が時系列でよくわかる地図だ。

「今や人類はその叡智で地下に文明を築いた…」


「三度目の風が止まってから二年後、また風は吹き始めて百年間吹き続けている。そして国家間は協力しこの強風に対応するべく、すべての武器を捨て地下に大都市を築いた…」


「人類はその環境に時には対し、時には順応し、文明を発展させてきた…」


 横に座っている教師の一人が、

 すばらしい…と

 小さく言った。


「みんな、今また人類は異常気象により危機を迎えている…」

 ドームから撮影した動画だ。風がなく風力発電の風車が止まっている。


「見てごらん、この我々のエネルギーの源、生命の元とも言っていい風が止まっているように見える…」


 部屋の電気が点き、映像が消えた。

 年配の教師が教壇の右からゆっくりと歩いてきて中央に止まり僕らの方を見た。

 

「でも、まったくの無風ではないそうだ。政府は今どんな風でも必要な量の発電を可能とする風車を開発中だ」

 なぜか教師が胸を張っている。


「人類はまたその叡智でこの危機を乗り越えるのだ」


 すばらしい…


 また誰か教師が言った。さっきより大きな声で。


「それでは今日の授業は終わりにする」

 年配の教師は生徒ではなく教室の横にいる他の教員を見回した。

 なにか連絡事項の確認のようだ。


「先生、質問いいですか…?」

 あれはB組のケンだね。

「ああいいよ、なんだね」

「人類は地下に潜りました。それって風に自然に負けたのですか…? 」


 タカが心配そうな顔をしている。ケンはタカの友達でもある。


「う~ん…君は今、生きいるかな…? 」

 また逆質問だ、大人というのは困ったものだ。


「生きています…」

「自然に負けていたら君も私もいないだろう…

人類の叡智は負けはしないのだ」


 恥ずかしそうにケンが座った。かわいそうに。

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