第2話 山に住む美鈴が、一人で遭難者を探そうと思ったのは?
美鈴が、救助要請を出す前に、遭難場所の特定をしようと決めたのは、理由がある。
美鈴以外でこの山に住んでいる人は、一人もいないからだ。
美鈴よりもこの山に長く暮らしていた人は、皆、山を下りた。
美鈴よりも若い人は、山を出ると山に帰ろうとはしない。
山に足をつけて歩き回らないと、山への愛着もわかなければ、思い出も作れないということなのだろう。
美鈴は、ギリギリ、羽を使わずに、山を自力で上り下りしていた最後の世代だ。
山についてのあれこれは、知識としてだけでなく、体に染み付いている。
まずは、ぬいぐるみに付着していた土が出るあたりへ向かおう。
美鈴の自宅から歩くなら半日コースだが、羽で飛べば、二時間くらいで、遭難者がいる場所の見当をつけられるだろう。
美鈴は眼下にある、嵐で倒れた木や、崩れた斜面、水量の増えた川に、遭難者を見つけても息をしているだろうか、という考えを頭の隅に追いやった。
まずは、発見すること。
後のことは、それから考えよう。
美鈴は、頭に羽をつけたままで地面に降りた。
ぬいぐるみに付着していた土は、このあたりのものだ。
空から見ていても、人は見当たらなかった。
人だったものも、見つからなかった。
美鈴の立っているところは、山間の川らしい川の河原。
川は川でも、町中を流れて家へと続く下流とは違い、上流の川は川幅が狭い。
嵐のときに水位が急激に上がったり、鉄砲水で、河原から離れた場所にいても、濁流にのまれた可能性は捨てきれない。
美鈴は、暗くなる気持ちを立て直した。
まだ、ダメだと決まっていない。
濁流に流されたなら、流された痕跡も水にのまれただろう。
人は見つけられなくても、濁流の痕跡を発見できたなら、濁流で人が流された可能性を町に連絡すればいい。
あたりを見回した美鈴は、山に不似合いな銀色の塊が土に埋もれていることに気づいた。
銀色の塊なんて、美鈴は、知る限り一つしか思いつかない。
放置車両で、最初から人が乗っていない可能性もなくはない。
美鈴は、冷静に、冷静に、と心の中で繰り返す。
土に埋もれている銀色の塊の見えている箇所をバンバンと両手で叩いてみた。
中から、反応が返ってきたら、あたり。
叩いては、叩くのをやめるを繰り返しているうちに。
美鈴は、銀色の塊が揺れていることに気づいた。
叩いた後に耳を澄ましてみる。
何か動いているっぽい音がする!
中に誰かいる!
美鈴が、力強く銀色の塊叩き続けていると、銀色の塊は、ぐっぐっとかぶさった土の中からせり出すように、ゆっくりと動き出した。
美鈴は、慎重に足元を確かめながら、場所を空ける。
中にいる人は無事だ。
このあたりに道路はないから、ハンドル操作を誤って、車ごと転落したのかもしれない。
嵐の中の山道での運転は、ハンドルをとられたり、スリップしたりする危険がある。
運転手が自力でアクセルを踏める状態なら、美鈴が町に救助要請をしにいく間、食料と飲み物を渡しておけば凌げるだろう。
美鈴は、銀色の塊が土の中から出てくるのを待ちながら、これからのことを頭の中で考えた。
まるい?
美鈴は、土からせり出してきた銀色の物体が四角くないことに、我が目を疑った。
円形の車が実用化された、という話はきいたことがないけれど、秘密裏に開発されているのだろうか?
羽をつけるようになっても、空飛ぶ車のロマンを捨て切れない人達が開発したのだろうか?
空飛ぶ車なんて、開発費ばかりかかるじゃないか、という議論は空飛ぶ車が想像上の産物だった頃からずっと続いている。
ロマンとは、実用的である前にロマンなのだ。
羽があろうと、なかろうと、空飛ぶ車はロマンなんだから、開発したくなるのは、仕方がない。
美鈴が見ている前で、銀色の塊はついにその全貌を明らかにした。
銀色の円盤?
美鈴の目の前には、中央部分が丸く膨らんでいる銀色の円盤が鎮座している。
空飛ぶ車というよりも、UFO?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます