「ほら、命令」とウチのメイドが圧を掛けてくるのです
dede
身に余る
私の同級生の
あ、そういう私は夕子と言います。自分で言うのも何ですがなんとも普通な子です。頭もさほどよくないです。この高校もギリギリ入れました。今も授業について行くだけでいっぱいいっぱいです。
運動は苦手です。唯一長距離だけはただ走り続ければ良いので得意ですが早くは走れません。何もなくても「夕子、頑張れよ」と何故だか色んな方から声を掛けられます。
そんな瑞姫さんと私の共通点は3つだけです。同じクラスである事。友達が少ない事。
「コミュ力ない訳じゃないし、話すと結構面白いし。もっと友達いてもおかしくないのにねー?」
「私ももっと皆さんと仲良くしたいのですが。でももう、諦めちゃってますよ。あ、来てる。私が防衛行きますね」
私の数少ない友人、麗香とゲームの片手間の会話でそんな話題になりました。学校帰りなので二人とも制服です。自宅なので楽な恰好に着替えても良かったのですが、時間も惜しいので着替えずにゲーム機のスイッチを入れました。私は学校の近くにマンションを借りて住んでいて、麗香はよく遊びにきます。貴重な友人です。私の友人枠は狭き門なのです。自覚はしています。その選別に適って、尚且つ私と友達になりたいと思ってくれた麗香は本当に貴重な人材です。
「ま。みんなの気持ちも分からんでもない」
他人事だからでしょう、麗香は面白そうに笑いました。そんな時、私の私室のドアがノックされます。
「いいよ」
「失礼します」
お盆にお茶と茶菓子を二つ乗せた瑞姫が一礼して入ってきました。当然のように制服からメイド服に着替えています。瑞姫は足音一つたてずに静かに移動すると私の隣に座り、私と自分の前にお茶と茶菓子を置きました。
「粗茶だけど飲む?」
「ねえ、瑞姫。何度も言わせて貰いますが3つ持ってくるか、1つは麗香ちゃんにあげてくれませんか?」
瑞姫はそれまで視界に入れようとしなかった麗香を真正面から見据えると、険しい表情で睨みます。
「こんな女にお茶もちゃん付けも要らねーだろ?」
口悪っ。いや、いつも通りなんですけど。そんな瑞姫に麗香は怒るでも怯むでもなく、ケタケタと笑って対応します。
「アハハハ、瑞姫さんの睨みに耐えられるメンタルじゃなきゃ、夕子ちゃんの友達になれないのハードル高過ぎるもんね」
「気やすく夕子をちゃん付けで呼ぶな。ぶっ〇ロスぞ」
「アハハハ、面白過ぎる」
瑞姫と私の共通点3つ目。同じマンションに住んでます。彼女は私のメイド。私はごく平凡な人間だし、もう家にさほどお金もないのですが家柄のしがらみだけで仕えてくれてます。でも正直メイドがいなきゃ困るような立場ではないですし、私のメイドなんてしなくていいんですけどな、と昔から思っています。幼少の頃から一緒に育ってきた幼馴染。なのにメイドだのご主人だのというせいで距離を感じていて、それは今も変わらないままです。
「あー。さすがに瑞姫、口が悪過ぎるのです。そういう言い方止めた方がよいのです」
「命令?」
「お願い」
「じゃあ止めない」
瑞姫は悪びれません。悪びれずにしれっと彼女が主という私のお願いを却下しました。この人絶対私の事主だと思ってないと思うんです。その気持ちも分かるんです。だって、瑞姫より圧倒的に私の方が劣っているのですから。言う事ききたくない気持ちも分かります。でもだったらメイドなんて辞めてしまえばいいのです。私の方からは何度も関係の解消を話しているんです。でも『私は夕子のメイドだから。それとも命令?』といつも同じことを言って私の提案を飲んではくれないのです。
ちらりと横の瑞姫様子を伺います。お茶を飲みながらすっかり寛いでいます。麗香の分のお茶を入れようとは露ほども思っていなさそうです。私は仕方なく自分の分をお茶を麗香に渡してお茶を注ごうと考えました。私はお茶を麗香に譲ろうとすると、その腕を瑞姫に押さえられました。
「なにかな、瑞姫?」
「夕子が譲る必要なんてない」
「あははは、いいよいいよ」
笑いながら麗香はバッグからペットボトルを取り出すと飲み出しました。私は申し訳なくなります。
「ごめんね、麗香ちゃん」
「いいってことよ」
「もー、瑞姫」
「へっ」
態度悪っ。
「というか、瑞姫。いつまで私の部屋にいるんです?」
「夕子と二人っきりなんて出来ない。そいつ放り出して私と遊ぼう」
「放り出しません。瑞姫とはいつも遊んでますよね?」
「飽きちゃったの?」
「飽きてませんけど今は麗香ちゃんと遊ぶ時間です。瑞姫も他のコと遊べばいいじゃないですか」
「ヤダよ」
瑞姫は露骨にイヤそうな顔になりました。私は溜息が漏れます。
「私なんてばかり構っても大して楽しくないでしょうに」
「なら命じなよ、我が主」
挑発的な目です。しかしその釣り目とは対照的に口の端は釣り上がってるのです。その態度、どうにかならないでしょうか? もう薄っすら笑ってるじゃないですか。さてはこの人思ってないのでしょうか、私が本当に命令しないとでも? ため息が漏れます。
「それはそれとして。夕飯の支度はいいんですか?」
自覚はあったのでしょう、私の言葉に瑞姫は視線を逸らしました。そして無念そうに立ち上がります。
「いいか、変な気起こすなよ!」
「もちろんだとも」
と、麗香は軽く返事しました。変な気とは何でしょうか。
「瑞姫さんから相変わらず愛されてるねぇ~」
「そんなんじゃないですよ。私が主だからです」
分かってはいるのです。たまたま私が瑞姫の主だったから関係が続いているだけであって、仮に瑞姫がただの同級生であったならば見向きもされてなかったという自信があります。それでも私は奪われていたであろうことも。
「そんな事ないと思うけれどねぇ~」
「そんな事ありますよ。それに、大変なんですよ、瑞姫の相手」
「それは想像つく」
今の高校だって本当は入る予定じゃなかったのです。瑞姫が同じ高校に入ると聞かなくて、先生に頼まれて仕方なくランクを上げたのです。余裕の受験のハズが泣きながら勉強する羽目になりました。
同級生からのヤッカミもヒドかったのです。瑞姫も私以外と仲良くすればいいのに他の人に興味を示さないから猶更で。まあ、片っ端から瑞姫自身が黙らせていくのですぐに鎮静化したのですが。それはそれで何とも申し訳なかったのです。
「しかしあのメイド、本当に言う事聞かないね」
「それはそうなのです」
「しかしやけに命令に拘ってたね。命令したら言う事聞いてくれるの?」
「あー、一応聞いてくれますよ?」
「命令しないの?」
「だって嫌じゃないですか。クラスメイトに命令って」
「まあ確かに」
「それに瑞姫は私の命令で無責任に好き勝手したいだけなのですよ」
「そうかなぁ?」
「まあ、……それらを抜きにして、命令された瑞姫を見たくないのです」
「おお、ラブじゃん」
「そうじゃないのです。……見てみます?」
「え? 何かあるの?」
「夕子、ご飯出来たよ」
ちょうどタイミング瑞姫が知らせにやってきました。
「おお、ちゃんとメイドらしくの家事仕事してるんだね」
「うるさい黙れ口縫うぞ?」
「ちょっと夕ちゃん、あのメイド口悪い!」
「うん、知ってました」
「コラ、気やすくニックネーム付けるな!」
私は瑞姫の運んできた料理のラインナップを確認しました。サラダがあります。当然のように二人分しかありませんでしたが、この際目を瞑ります。
「ねえ、瑞姫」
「なーに?」
「ピーマン、食べましょうか」
瑞姫の配膳する手が止まる。
「命令?」
「そうです。命令です」
その私の言葉に瑞姫は頬を紅潮させると、目を細めて口角が上がらせたのです。プルプルと震えてどうにか制御しようと試みているようですが、まるで出来てません。喜色が溢れ出ているのです。
「し、仕方ないな。命令なら」
そう瑞姫は口走ると嫌だ嫌だとアピールしながら箸を手に取りピーマンを口に運びます。苦そうに眉を顰めながらも鼻息荒く咀嚼を繰り返します。そんな様子に麗香は困惑気味です。ちなみにピーマンは瑞姫の嫌いな野菜です。
「……わーお」
「ね。なんか頻繁に命令しちゃダメそうじゃありませんか?」
「そうだね。でもうん。やっぱり君たち二人は良いパートナーだと私思うな」
「ほら、命令」とウチのメイドが圧を掛けてくるのです dede @dede2
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