第24話 【SIDE:ユフィ】据え膳食わぬは
店長さんに聞かされていた、『特別なとき』に使う部屋の存在。
偶然にもそこに連れ込まれて、あたしはチャンスかも? って思った。
ふたりきりの密室。
ほぼ全裸みたいな、あられもない姿のあたし。
ふたりが寝転がっても、どんなに暴れても、問題ないぐらいの広いソファーベッド。
――据え膳食わぬはなんとやら、でしょ!
粗くなりそうな息を整え、覚悟を決めて鍵を閉める。
その音に気づいたのか、レクスくんは戸惑ったように振り返る。
「と、特別なときって、どういう?」
怖がっているような、助けを求めているような、怯えた瞳。
小動物みたいなそれが目に入った瞬間、背中がぞくぞくぞく……って波打った。
どうしよう。
あたし、いま、なんか変だ。
「――さあ。なんだろうね」
ものすごく興奮……いや、高揚してる。
いまならレクスくんに、なんでも思い切ったことができちゃいそう。
押し倒して、キスをせがんで……。
そしたら向こうからも、むさぼるような唇を求めてきて、そして――。
って、な、なに考えてるのあたし! ハレンチだよぉ!
レクスくんよりお姉さんなのに。ひとりでこんな、えっちな妄想……!
「だ、大丈夫かユフィ」
「う、ううん!? なんでもないよ、うん!」
あ、危ない危ない……。
思わず淫乱ビッチだって引かれちゃうところだった。
「とりあえず、早く更衣室まで行って着替えないとだな」
言いながら、レクスくんは上着の裾に手をかけ……って、ええ!?
は、恥ずかしげもなく、ガバッて脱ぐなんて……!
どうしよう。彼の、上半身が裸でも気にしてない、大胆で男らしい感じ。
オトナっぽくてドキドキしちゃう……!
「俺の服羽織れば、更衣室までなら誤魔化せるだろ。ゆったりサイズの男物だから、たぶんユフィも着られると思う。はい」
あたしのほうを見ないよう気遣いながら、シャツを差し出してくれるレクスくん。
……ああ、やっぱり紳士だなぁ。
こんな状況なのに冷静に、あたしのことを思って動けるんだもんなぁ。
あたしなんか、この状況を利用して、邪なこと考えちゃってるってのに。
やっぱり、精神年齢が子どもなんだろうな。はぁ……病む。
一番年上だから、お姉さんらしく振る舞わなくっちゃって、いつも思う。
誰かに必要とされたくて、認めてほしくて、嫌われたくなくて。
お願いされたらうれしくて、断らなくて、がんばっちゃって。
でもいつも空回って、うまくいかなくて、迷惑ばっかかけちゃう。
なのに――レクスくんは、見放したりしない。いまみたいに、絶対に。
初めてだったんだ。
あたしのダメダメな本性を知ってもなお、お友達だって思ってくれた人は。
仲間だって必要としてくれて、認めてくれて、求めてくれた人は。
だからだよ? あたしがレクスくんのこと好きになっちゃったのは。
全部、レクスくんのせい。
レクスくんのその優しさが、あたしを狂わせちゃうの。
だから今日だって――正気を忘れちゃっても、いいってことだよね♪
「ねえ、レクスくん」
コクッと唾を呑んで、あたしは一歩、踏み込んでみる。
「レクスくんが着せてよ。それ、あたしに」
「……は、はあ!? なに言って」
慌てたようにこっちを見るレクスくん。
思惑通り。ああ言えば、レクスくんは絶対、振り向くと思ってた。
だからあたしは――、
「って、胸! 見えてるから! 隠せって……!」
腕で押さえていた胸を解放していた。
重さで腕が痛かったのもあるけど。
彼になら全部、見られてもいいって思えたから。
むしろ、見てほしいから。隅々まで、全部。
「今さら気にする間柄でもないでしょ? あたしたち、何年寝食を一緒にしてたの」
「一線は引いてたじゃん!」
そう。紳士なレクスくんは、常に線を引いてくれていた。
女の子扱いしてくれた。女の子なんだからって、優しく大事にしてくれた。
こういうとき、ちゃんと目を逸らすって気遣いを忘れなかった。
あたし、それがすっごくうれしかったんだよ。
……でもね、レクスくん。
あたし女の子だけど。
三人の中では一番、〝女〟でもあるんだよ。
「衣装、千切れちゃったけど押さえてないとだし。こっち見てもいいから、それ、レクスくんが着せてよ。ね?」
女であることだけは、ノエルとアイナに負けてないと思うから。
それが、目を伏せてたじろぐレクスくんへ近づく、力になっていた。
つい油断すると、あたしなにやってんだろって冷静になっちゃう。
恥ずかしさで死にそうになる。
でもその瞬間、負けが決まる。
冷静になるな。狂い続けろ。
ふたりを出し抜くチャンスなんだから……!
「い、衣装はもう脱げばいいだろ? 頼むから、ほんと……自分で着てよ」
もう、レクスくんってば頑なだなぁ。
あたしは、シャツと一緒にこちらへ突き出している彼の手を、そっと握り。
自分の胸元へ抱き寄せた。
「――っ!?」
あたしの柔らかい胸の合間に、彼の手が沈む。
たちまち、レクスくんはビクンッてなった。かわい♪
ここからさらに、もう一歩踏み込んで……!
「そんなに、あたしのこと見たくない? でもそうだよね……おっぱいばかり大きくて、だらしない体だもんね」
「ちがっ! そういうんじゃなくて――」
「――あっ!」
レクスくんが、慌てたように腕を振り払う。
あたしは思わず、その腕を引き留めようと力を込めてしまった。
レクスくんより力の強いあたしが、急に負荷をかけちゃったせいだろう。
バランスを崩した彼は、あたしのほうへ倒れそうになった。
一瞬の出来事。なのにあたしは思いのほか冷静で、このまま押し倒されるだろう未来を想像して、心臓が破裂しそうだった。
けど。
「あ、ぶない!」
咄嗟にレクスくんは、倒れだしたあたしと入れ替わるように、引っ張り起こそうとした。
結果、あたしが押し倒したような格好で、ソファーベッドへふたり寝転がった。
あたしの目と鼻の先に、レクスくんの瞳がある。
「やっとこっち、見てくれたね」
でも、そうだよね。あたしの胸は、体は、上着を脱いだレクスくんの肌に密着している。
彼の体温も、鼓動も、まるであたしのそれと溶け合ったかのように伝わる距離。
否が応でも目は合うし、逸らす理由だってないもんね。
「ど、どうしたんだよユフィ。今日、変だぞ?」
「うん、自分でもそう思う。でもね――」
あたしは、正攻法じゃ出し抜けない。
ナチュラルに距離を詰められるノエルにはなれないし。
皮肉を使って駆け引きできるアイナにだってなれない。
なら、強引な手段だとしても、武器を使うしかないんだもん。
「あたしはね、選ばれたかったんだよ。レクスくんの『一番』に」
「……衣装のこと?」
「レクスくんは優しいから、一番とか二番とかつけたくないだろうなって、わかってた。それでも選んでほしかった。一番似合ってるって言ってほしかった。それが女心だもん」
「そうは言うけどさ……――っ!」
彼の言葉を抑えつけるように、あたしはグッと身を寄せた。
レクスくんの胸板に、あたしの柔らかいそれを、形が変わるほど押しつける。
「もしレクスくんが、二番とか三番をつけるのが嫌なら。方法はあるよ?」
「方、法?」
「そっ。一番だけど一番じゃない。二番だけど二番じゃない。そういう抜け道」
戸惑い、焦燥、高揚。
熟れた熱を発っし始めたレクスくんの瞳を見つめながら。
大人のズルい
「あたしを、『一番最初の【二番目】』にするの」
=====
いやー、3人娘の中で一番ただれた関係に発展しそうなヒロインですね。
さすが24才。一番大人だけあります。中身はともかく。
レクスの貞操の危機がどうなってしまうのか、次回第25話をお楽しみに。
そして書籍版ですが、MF文庫Jさまより、いよいよ4月25日ごろ発売予定です。
すでに店頭に並べていただいている書店さまもあるかと思いますので、早くこの続きを読みたい! という方は是非、書籍版をお手にとっていただけたら幸いです。
ブラッシュアップされた内容はもちろん、各種イラストもご堪能いただけますよ!
次回第25話の更新は、4月26日0時頃を予定しております。
ぜひ作品を【フォロー】して更新をお待ちいただければ幸いです。
おもしろいと思ってくださった方はぜひ【☆レビュー】も付けていただけると大変うれしいです!
引き続きどうぞ、よろしくお願いいたします。
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