第22話 コンカフェデビュー

 三人が面接を受けに行った日から、数日後のこと。


「は~い、レクスくん♪ お酒、作ってあげたよ♡」

「こんなにかわいい女子三人といきなり同席なんて、さすがだねレクス」

「所詮は貴方も、色を好む英雄気取りの雄でしたか」


 妙に甘ったるい香りの立ちこめる、薄暗い店内。

 お尻がグッと沈むソファーに腰掛ける俺。

 その左右には、お店側支給の衣装に身を包んだユフィ、ノエル、そして正面にはアイナが囲んでいる。

 問題は――あまりにも目のやり場に困る、その衣装だ。


「じ、ジロジロ見ないでください、変態。最低ですね」


 そう俺を見下すように足を組むアイナは、いわゆるバニーガール姿だし、


「珍しいんだよ。なかなかないじゃん、こういう衣装着る機会」


 フフッと笑うノエルは、一見するとメイドのような服装。

 だがあらゆる丈が極端に短く、上半身も胸元を覆っているだけのビキニトップ。


「ふふっ。照れちゃってるレクスくんも、か・わ・い・い♪」


 そう蠱惑的に微笑むユフィの姿は、まさに淫魔サキュバスのそれ。

 腹部に淫紋までこさえられている芸の細かさ。


「あたしたちの勤務初日。楽しんでいってね、レクスくん♡」


 グロスで潤んだユフィの唇が、そう甘く囁く。


 えーっと……どうしてこうなったッ!?

 よし、冷静さを取り戻すため、いったん状況を整理しよう。


 ユフィたち三人が面接も兼ねて店に向かったあの日。

 彼女らはなんの問題もなく即採用となって帰ってきた。

 しかも募集枠ひとりだったのに、三人ともがだ。

 アイナ曰く、特に怪しい点はなかったとのこと。

 ちゃんと契約書のやりとりもあり、内容もガン詰めしたけどすべて問題なし。

【魅了】系魔術で騙された形跡もないため、概ね白と判断できるという見解だった。


 で、数日数回の研修を経て、今日がコンカフェ『ドリーミン・クラブ』の初出勤日。

 いても立ってもいられなかった俺は、視察に来たというわけだ。

 けっして、興味があるとかそういうんじゃない。


 ……ウソだ。ちょっとだけ興味はあった。ちょっとだけな。


 けどそれ以上に、本当にホワイトで健全な職場なのか、ちゃんと客として見定めようって気持ちが強い。

 アイナの言葉を借りるようで申し訳ないけど、三人は俺の仲間であり友達だ。

 彼女らの悲しい顔なんて見たくないし、そんな顔を浮かべているなら助けてやりたい。

 そんな思いもあって来店して……いまに至るというわけだ。

 俺は、他の客やキャスト、スタッフに聞こえないよう、三人にこそっと話す。


「この店、いつもこんな際どい衣装をコンセプトにしてんの?」

「ち、違うよ! 今日はたまたま『フリーダム』がコンセプトの日なんだって」


 ユフィは慌てて否定するが、どうにも納得しがたい。

 衣装もそうだが、店内に漂うアロマの甘い香りや照明の薄暗さが、カフェと呼ぶにはあまりにも大人っぽ過ぎる雰囲気なのだ。

 そもそも、店内全体を見回してもコンセプトがよくわからない。統一感がない。


「『フリーダム』がコンセプト……ねぇ」

「衣装も、お店のストックから好きなのを選んでいいんだって。どう、これ? わたしが自分で選んだの。かわいいでしょ」


 ノエルは言いながら、ズイッと身を寄せて見せつけてくる。

 上半身は水着も同然だから、直視できず目を逸らす。


「か、かわいいよ。かわいい……けどさ」


 手を伸ばせば触れてしまえそうなところに、ノエルの生足太ももがある。

 際どいミニスカートは、ちょっと動けばその内側が見えてしまえそうなほどだ。

 それをわかっているのか、無防備なだけなのか。

 ノエルはいちいち足をスルッと動かしている。本当に、目のやり場に困る。


 と、そんなノエルの接近を牽制するように、目の前に赤いピンヒールが現れる。

 スイッと持ち上げられたヒールの向こう、黒いストッキングに包まれた脚を辿っていく。


「誰が舐めるように眺めていいと言いました?」

「ご、ごめん!」


 ビクッとして、一気に視線を上げる。

 相変わらず不満そうに俺を見下ろすアイナと、目が合った。


「ふたりの言うとおり、いかがわしいわけじゃありません。衣装も店内状況も、今日が偶然そうというだけ。だけど……ノエル? それは接客として過剰じゃない?」

「細かいなぁ、アイナは。ありでしょ、これだって。『フリーダム』なんだから」


 ノエルはフフッと笑う。


「アイナだって、自分からノリノリで選んだんじゃん、その衣装」

「の、ノリノリじゃないから。サイズ合うのが、もうこれしかなくて……」

「意外とスタイルいいもんねぇ、アイナ。特に腰から下が」

「ユフィのそれ、フォローになってないの!」


 顔を少し赤くして否定するアイナ。

 けど確かに、普段は露出の激しい服装を避ける分、アイナのバニーガール姿には見惚れてしまう。実はほどよく胸も大きく、腰回りもしっかりキュッとしているんだよな。

 あと、健康的な太さの太ももを黒ストッキングが覆っているのも、ヤバい。


「ねえ、レクスは知ってる?」


 ノエルは突然、俺の耳元に口を近づけて、


「ウサギのメスってさ――年がら年中発情してるんだって」

「ノ、ノエルッ!?」


 今度は耳まで真っ赤にして、ガタッと立ち上がるアイナ。

 ウサギのメスは……バニーのガールは、年がら年中――、


「あ、貴方もッ! いま考えてることッッ!! 即刻忘れなさいッッッ!!」

「は、はい! ごめんなさい!!」


 アイナがいま魔導書を持ってなくてよかった。

 問答無用で消し炭か氷漬けにされてたわ。


「だ、だいたいそういう話なら、ユフィはどうなのよ。淫魔(サキユバス)風の衣装なんて……」

「あ、あたしはただ、店長さんが絶対似合うって勧めてくれて……」


 そう、最初はしょぼんとしていたユフィだが、


「でもいざ着てみたら、みんなも似合うって褒めてくれて。じゃ、じゃあこれでがんばってみようかなって。そしたらもっと褒めてくれるかもだし……えへへ」

「それ、半分騙されてんじゃないか?」


 騙されやす――絆されやすいユフィらしいな。


「でもさ、店長さんの見る目は確かだよね。これはどエロいよ、女子からしても」

「ちょっ、そんなマジマジ見ないでぇ! 結構お肉ついちゃってるからぁ……!」

「どうしたらそんなに育つんだか。というか、よく衣装に収まったわね、胸」

「結構ギリギリなんだぁ。溢れちゃいそうでヒヤヒヤしてる……」


 そう、重そうに自分の胸を持ち上げるユフィ。

 思わず目を逸らす。ナチュラルにそういうことするなってば、もう……。

 でも、間違いなく男ウケはいいんだろうなぁ。ユフィは群を抜いてグラマラスだし。

 その上で、秘部を隠しているだけってレベルの布面積極少な、淫魔風衣装だもんな。

 しかもその胸元は、谷間がちょうどしっかり見える位置にハートマークの穴まで空いている。強度大丈夫なのかな。

 もちろん、アイナもノエルもそれぞれ、自分のスタイルに似合った衣装だけど。

 改めて、こんな衣装で接客するなんて、すごい店だよコンカフェってのは。


 ……それに、やっぱ、あれだ。

 その格好で、いろんな客――特に男を接客するんだなって思うと。

 複雑っていうか心配っていうか……普通に、嫌だな。


「というわけでレクス」


 そんなジクッとした心境も拭いきれてないうちに。

 ノエルはふと、仕切り直すように言った。


「わたしたちの衣装、存分に楽しんでくれてるわけだけど」

「その、あの……あたしたちの中で、誰が一番好みだった、かな?」

「正直に答えるなら、舐め回すように眺めたことは、許してあげますよ」

「……え? 選ばなきゃダメ?」


「「「――ダメ」」」


 ノエルたちは声を揃えると、俺にズイッと近づいて。


「「「さぁ、誰が一番好み?」」」






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 引き続きどうぞ、よろしくお願いいたします。

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