第11話 保存者権利《アカウント》を削除《BAN》しました

 俺たちの迷宮配信、もとい迷宮攻略の翌日。

 昼頃になってリビングに集まりだした俺、ノエル、アイナとで、昨日の配信映像を見てみることにした。


 アクシデントもあり途中で配信はストップしてしまったが、アカシックレコードに残る設定にしていたらしい。

 もし好評ならコメントもついているだろうとのこと。

 今後も撮影や配信を続けていくのか、続けるとしたらどういう内容にするのか。

 コメントを元に考えよう、というのが今日の趣旨だ。


 ちなみにユフィは、俺たちが起きたときにはもう出かけていた。

 買い物かなにかだろうと、特に心配も詮索もしていない。


「いい? 流すよ」


 ダイニングテーブルを囲む中、ノエルは【アカシックレコードをディア・魔術ルンフィ】を起動させる。

 やがて魔導書の文字列が淡く光り、魔導書の上空にフォン……と映像が投影された。


「さて、わたしたちの動画は……」


 指先の動きに合せて、映像一覧が縦にスライドしていく。

 その中に、なんとも目にとまる表紙サムネイルの映像があった。


「【今日もいっぱい○○しよ 勇者パーティー秘密の逢瀬】?」

「品のないタイトルね」

「配信とか撮影に品性を求めるのはナンセンスなんだって。他の配信者が言ってた」


 まあ、言わんとすることはわかる。

 人の目にとまる情報はいつだって、品がなくセンセーショナルなものばかりだし。

 再生数を稼ぐため品性を捨てるようになるのは、自然なことなんだろう。


 ノエルはさっそく映像を再生し始める。

 彼女の普段通りな挨拶に始まり、俺の激噛みした挨拶が流れる。


「恥ずかしっ!」

「……ぷふっ」

「あ、珍し。アイナが笑った」

「思っていた以上に……貴方の顔が間抜けで……ふふっ」


 いいよいいよ。笑えよ。笑われて当然の間抜け面なんだから。


「再生数はまあまあかな。でもコメントは結構来てる。案外うれしいね」


 言いながら、ノエルはコメントに目を走らせる。

 せっかくならと、どんなコメントなのかチェックしようとした……その時。


 ――ブツン


「……あれ? 急に映像が」


 いままさに、映像が消えた。

 というか、俺たちのチャンネルページそのものがなくなっているっぽい。

 真っ黒な再生画面にはこう書かれていた。


「『過度な肌の露出を映した映像が検知されたため、規定により保存者権利アカウント削除BANしました』?」

「保存者権利の削除ってことは、もう利用できないってことですよね」

「でも肌出してないよ、わたしたち」


 不思議そうに俺のほうを見るノエル。俺も肩をすくめる以外、返しようがない。

 すると、画面上に一件の通知が入ってきた。どうやら、削除の原因となった動画を親切に教えてくれるらしい。

 俺たち三人は一度顔を見合わせてから、それを再生してみた。



 そして、削除されたことに納得するに至る。



『みなさん、こんにちは! 勇者パーティーのお姉さん、ユフィだよ♪』


 流れ始めた映像には、普段の冒険者姿のユフィが映っている。

 普段使っている戦斧よりも小さい、ごく一般的な斧を持って林の中に立っていた。

 たぶん、この辺の郊外の林だろう。だから今ここにいないのか、あいつ。


『今日はね、昨日の配信でお疲れなレクスくんたちの代わりに――早朝から薪割りがんばりまーす! こう見えてあたし、戦士だからね。斧で薪を割るコツ、伝授できちゃうんだ~。すごいでしょ!』


 うん、すごいよ。確かにユフィはすごい。

 眷属カメラの前だからって怖じ気づくこともなく、配信者らしいノリで映像撮れてるもん。

 ただ問題は、ここから先に待っていた。


『じゃあ、さっそく始めるね。コツとしては、焦らないこと。スターン!』


 ユフィは斧をまっすぐ振り下ろした。

 薪はきれいに分断され、細く扱いやすいサイズに加工された。

 コツを伝授できると豪語するだけあって、確かにユフィの薪割りは上手だ。

 ただ……。


『はい、スターン! はい、スターン! リズムよく~……はい、スターン!』


 斧を振るたび、すごい揺れていたのだ。胸が。


 やっていることは決していかがわしくない。大真面目に、薪割りのコツを伝授しようとしてくれている。

 だがその真面目さが裏目に出たのか、はたまた一生懸命すぎなのか。

 ユフィ本人も、自分がどう眷属に映っているのか客観視できていないんだろう。


「……どうしよう、すごく嫌な予感がします」


 アイナのボソッとしたつぶやきに、俺とノエルも無言で頷くことしかできなかった。

 できればその予感は杞憂であってくれ、頼む……!

 という願いもむなしく。悪い予想というのは、遠からず的中するもので。


『はい、スターン! はい、スタ――びやあああ!!』


 斧を振り下ろした瞬間、チューブトップ状の上着からズルリと胸が露出してしまった。


 映像がブツッと切れたのは、その直後。

 どうやらこれがセンシティブ判定を食らってしまい、俺たちの保存者権利アカウントは削除されたらしい。


「「「…………」」」


 俺たち三人、絶句でしかなかった。

 きっと、同じことを思っているに違いない。



 なにしとんねん、最年長!



「はぁ……。とりあえず、ユフィ探しに行こう。絶対病んでる」

「珍しく意見が合いましたね。場所には心当たりがあります」


 俺とアイナはスクッと立ち上がる。

 起きちまったことは仕方がない。

 だがさすがに注意してやらないと。見なかったフリをするのはあいつのためにならん。


「ほら、ノエルも行こう」

「は~い。ま、残念だね。保存者権利なくなっちゃったのは」


 そりゃあ、迷宮配信や撮影を一番やりたがっていたのは、ノエルだったからな。

 権利剥奪ということは、基本的にはもう、同じ保存者名で撮影や配信はできないわけで。

 ただ裏を返せば、


「同じ保存者名を使わないのなら、やりようはあるんじゃね?」

「……あ、確かに」


 その発想はなかった、と言わんばかりに目を丸くするノエル。


「まぁ、でも――」


 ノエルは、なぜか俺のそばにやってきて、アイナの目を盗んで耳打ちしてきた。


「レクスと一緒に撮れて、うれしかったから。今回はそれで満足」


 体を離すと、ノエルはにししと笑った。


「そういうもんなの?」

「そういうもん。それともレクス、楽しくなっちゃってた? もっと撮りたい?」


 するとノエルはむふーと笑って、


「じゃあ次は、ホントのカップルになって撮ろっか」


 突然の耳打ちに驚き、俺は「はぁ!?」と声を上げてしまった。


「変な冗談言うなよ」

「冗談……かぁ。そっかぁ」

「なに? なんだよ」

「なーんにもっ」


 ノエルは微笑んだまま、フイッと顔を逸らした。

 なんだよ。冗談って思われたことが不服みたいに。いつもの冗談なんだろ?

 昨日の転移直前といい、ノエルのやつ、妙に意味ありげな態度が……あっ。


「そういえばさ。昨日、迷宮の去り際になにか言いかけなかった?」


 なにか口にした瞬間に転移しちゃって、「す――」しか聞こえてなかったんだっけ。

 するとノエルは、ちょっとだけ肩をビクつかせ、一瞬目を伏せ。


「あー、あれね。あれは……」


 けどすぐに、いつものカラッとした笑顔に戻り、言った。


「すっ――ごい楽しかったよ、ってこと」






=====

 ここまでが、第二章、ノエル担当回でした。

 まったくもっていじらしいですね。思わせぶりで、ちょっと小悪魔で。

 レクス目線だとどこまでが本気で冗談なのか判別しにくい、つかみ所のない自由な女の子、それがノエルです。

 僕なら余裕で勘違いしちゃいますよ、こんなアプローチされたら。

 みなさん的には、いかがでしたか?


 今後も各章ごとに、フィーチャーするヒロインを変えてラブコメを展開させていきます。

 第3章は誰の当番回となるのか……。

 ぜひ楽しみにしていただければと。


 次回第12話の更新は、3月18日0時頃を予定しております。

 ぜひ作品を【フォロー】して更新をお待ちいただければ幸いです。


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 引き続きどうぞ、よろしくお願いいたします。

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