【短編】幼馴染が勝つラブコメ~想いおもわれ恋焦がれ~
高月夢叶
第1話 失恋と栞織先輩との出逢い
幼馴染の水瀬美波に想いを寄せる僕、雨宮実影は中三の冬休みのクリスマスに彼女に告白した。
美波からは『実影のことは友達としてしか思っていないと言われてフラれた。
僕はショックだった。お互いに良好な関係だと思っていてもう両想いではなく僕の片想いだった。
数日、ごはんが喉を通らぬ日が続いた。それほど僕は美波を好きだったのだと痛感した。
そんな気まずい関係のまま、彼女と同じ高校に進学した僕は美波からある条件を言い渡される。
『お互い、他人の振りをして高校生活をおくること。くれぐれも未練がましい真似はしないでね』
そう釘を刺されて、僕は新しい学校生活を満喫しようと彼女のことを忘れようとした。
だけど、そう簡単に忘れられない。彼女にフラれたからといって嫌いになんてなれなかった。
そんな中、春休みが明け、高校生活が始まった。
入学式で校長の有難くないありがたい長話を聞いて新入生代表が壇上に上がり、宣誓を発表をパッヘルベルの『3つのヴァイオリン』がBGMで流れながら、聞いて入学式は終わった。
式が終わり、教室では早くも連絡先を交換し合う生徒たちで溢れていた。
僕はというと、クラスメイトたちに話かけることが出来ずに一人で自分の席から動かずにスマホを弄る振りをしてこの時間が過ぎるのを待った。
どうせ僕は陰キャのボッチなのだと痛感した。
翌日、体育館で部活動の勧誘があり、僕は文芸部の前で足を止めた。
女子生徒の先輩が一人で新入生を勧誘していた。彼女は文芸部の部長で、部活の勧誘では「小説に興味ありませんか?読書だけでもいいですよ」と語りかけていた。
「私は
立ち止まって聞いていたら僕も勧誘された。見たところ一人だけの部員のようだ。
「廃部の危機なんです」とは一言も言わず、ここで僕が入部しなければ潰れてしまうのではと思うと気付けば入部希望用紙を手に取っていた。
「僕は
「一年生ですよね?はい、勿論です!」栞織先輩は嬉しそうに微笑み、応える。
正直小説は書いたことがない。文庫本はたまに書店で気になったラノベを読むくらいだ。
殆どはスマホでWEB小説を読んでいる感じだ一応は読書が趣味と言ってもいいのかな?
どちらかというとマンガばかり読んでいるのだ。愛読書は『週刊少年チャンプ』だ。
コミックは気にいったのを数作買うくらいだ。だがあえて言わないでおくが。
「文芸部に興味あるのですか?」先輩が期待のこもった瞳できいてくる。
「まあ、少しは」
運動部に入るほどスポーツに打ち込むタイプではない。
スポーツ系の部活は陽キャの巣窟だろう。
どちらかというと家でWEB小説やマンガを読んだりゲームをしたい。要するに陰キャなのだ。
だから文芸部は僕の性分に合っていると思ったのだ。決して彼女に下心があるわけではない。
数分、先輩と話をしてみて、分かったことがある。
清楚感がある人というか、彼女の周りの空気が澄んでいるようなおっとりとしていて奥ゆかしくお淑やかで森の妖精のような人だと思った。
黒髪ロングで優しそうなやや垂れ目で黒タイツを履いているのが清楚感をアップして印象的で可愛いと思った。
要するに儚げで守ってあげたくなる庇護欲を刺激されて魅力的な人なのだ。
HR後に僕は担任教師に文芸部へと入部届けを提出した。
新しいクラスにはまだ慣れないが文芸部という気の合いそうな先輩がいる部活に所属することになったのが唯一の救いか。
***
夜のこと。僕は、私室にてスマホでWEB小説を読んでいると部屋の扉が三回ノックされる。
「兄さん、高校はどうだった?もう始まっているでしょ?!友達はできた?でも兄さんのことだからそう簡単にできないよね」
中学二年の妹の沙織が部屋に入ってきた。 最後の言葉は余計だな。
「勝手にボッチにするな!まだ始まったばかりだぞ」僕は読んでいたWEB小説をいったん閉じてから言う。
「自己紹介くらいしか喋っていないな。友達って普通、すぐにははできないよな!?数週間一緒にいて人となりを知ってから改めて、友達申請をするものだよな」
学校初日から友達ができるのは陽キャやギャルなどのウェイる輩くらいだろう。
陰キャの僕には無理だ。 後ろの窓際の席で、スマホを弄ってたら誰も話しかけてこなかったから別にいいんだけど。
「はぁーその様子だと一ヶ月経っても兄さんには友達はできなさそうだね......」
「失礼な!友達くらい簡単に作ってやるよ」そう強がって反論するも友達を作る算段なんてない。
「兄さんの場合、例え、気になる女の子がいても友達すらなれずに卒業しそう」
「『気になる女友達がいても恋人にすらなれずに』でなくてか?!」
恋人はできないかもしれないけど、友達くらいできるだろうと楽観的な考えを巡らす。
「そうだよ。まず、スタートラインにも立てないんじゃないかなー」
「失礼な!明日、文芸部に顔を出すから手始めに栞織先輩と友達になってくるから前言撤回させてやるからな」
「いや、まずクラスメイトと友達になりなよ!」そう呆れ顔で言い残し沙織は部屋を出ていった。
深夜、22時。明日も学校だしそろそろ寝ようかとベッドに入ったところで『ピコン』とスマホに一件の通知が入った。
なんだろうと開いてみると、美波からのMINEのメッセージだった。
『高校始まったね実影のクラスはどうだった?友達はできた?まだ友達いないボッチなら明日のお昼ごはん一緒に食べない?』
『え?!学校では関わるなって言っておいて急にどうした?明日はボッチ飯確定だから別にいいけど』
「わかった。明日、屋上で待ってる。言っておくけど、実影と一緒にお昼を食べたいわけじゃないからね!ボッチ飯になるあなたが可哀想だと思って一緒に食べてあげるんだから感謝してよね!』
『ツンデレ乙!感謝感激美波様!』
『誰がツンデレだ!実影の分のお弁当作ってきてあげないよ!?』
『え!?僕の分の弁当まで作ってくれるのか?」
美波お前、本当は僕と弁当食べるの楽しみにしてるだろ!とはメッセしないでおいた。
『いらないなら別にいいけど』
『いります御馳走にまります、美波様!』
『よろしい。じゃあ、おやすみー明日も頑張ろうね!』
『ああ、おやすみ』とメッセを送ったのを最後に、眠りの海へと墜ちていった。
***
翌日の朝、朝食を眠い目を擦って食べていたら、一件の通知が届いた、朝の忙しい時間にウザいと思いながらスマホを確認すると美波からのメッセージだった。
『おはよう、実影!今日、お弁当を楽しみにしててね。別にわたしは楽しみになんかしてないんだからね!』とあった。
いや、楽しみにしているのはお前の方では?と思ったが、『了解』とだけ返しておいた。
『じゃあ、7時30分にいつもの場所でね』
「了解』 僕は簡単な返信を送る朝食へと戻った。
美波のヤツどうして僕なんかと仲良くしたがるんだろう?
美波にはVTuberというもう一つの顔がある。表向きは優等生。裏の顔はYOOTUBEでライブ配信をするVライバーだ。チャンネル登録者数十万人という大人気ライバーだ。
彼女は中学時代から、Vライバーアプリ『Vライブ』で新人VTuberとしてリスナー七人という底辺配信者から成りあがり、VTuber事務所からのスカウトを受けた。
高校生から企業VTuberとしてのデビューが決まっているインフルエンサーだ。
そんな誰もが羨むVライバーと僕が幼馴染であることは高校の連中は誰も知らない僕と美波だけの二人だけの秘密だ。
学校までの通学は、美波と待ち合わせして一緒に登校した。
「学校の廊下とかで気軽に話かけないでよね!同じ中学ってバレたくないから!」
「わかったよ。無暗に話かけないから安心しろ」
そこまで拒むことはないじゃないかと思うも、僕が寂しいみたいと思われると釈だから言わないでおいた。
「じゃあ、昼休みに屋上で」
了解ー」
それでも一緒にお昼食は食べてくれるのか。避けたいのか一緒に居たいのか分からないヤツだな。
昼休み。僕は、美波と一緒に屋上で彼女が作ってきたお弁当を食べていた。
「味はどうかな?美味しい?!」美波は期待のこもった瞳できいてきた。
「うん、まあまあだな。美波、料理もできたんだなーなんか意外だ」
口では小言を言うが控え目にいって手作り弁当の味は美味しかった。
この唐揚げなんか特に!
「生意気を言う口はこれか!せっかく作ってきたのに『美味しい』の一言も言えない男にはもう作ってきてあげないんだから!」
「ウソだよ、美味しいって!」
初めて母親意外の手作り弁当を食べたんだ。嬉しくないわけないだろ!美味しくないわけがない! 内心、感激していた。
「それなら、よろしい。それならそうと素直に言えばいいのにー」
「悪いわるい、弁当に夢中で忘れてた。別にいいだろ感想くらい」
照れくさかったのだ、素直になれない男心を察して欲しい。
「許さない!手間暇かけて作ったのにー」
「めんご、めんごってー!」
「ちゃんと、『ごめんなさい』と言いなさいよ!」バシッと小槌いてくる美波。
笑って受け流す僕。あれ?僕って美波からフラれたんだよな?!なにこの告白してOKもらえた後の様な関係は?
僕が美波にフラれてから変わったことがある。それは彼女が僕に対する距離感が以前より近くなったことだ。
以前はなかった朝の『おはよう』のメッセージから昨日の夜だって寝る前の『おやすみ』のメッセもあった。
これは、僕が告白したことで彼女との関係が壊れるのではないかと心配したが、それは杞憂だった。
これからも友達としてならアリということの表れなのか、それとも......いや、それはないな。
僕はというと美波にフラれたからといって彼女のことが嫌いになったわけではなく、美波に対する感情が、恋愛感情の『ラヴ』から友情の『ライク』へと気持ちが変化するかと思われたが、メッセのやり取りから手作り弁当まで作ってこられたられたら意識しないという方が難しいだろう。
こんなことをされたら、余計好きになってしまう。 期待してしっまうだろ、バカ!
***
放課後。今日から僕は早速、文芸部に顔を出すようになった。
どうやら部員は僕以外には集まらなかったのだろう。部室には、栞織先輩と僕の二人だけ。
「来てくれたんだ。ありがとう」 栞織先輩は嬉しいと恥ずかしいが交じり合った表情を浮かべる。
「今日からよろしくお願いします」 僕は緊張しながら言うとどこに場所を落ち着かせたらいいのかとその場でモジモジする。
「それじゃあ、好きなところに座って読書でもしようか」 と隣のパイプ椅子をポンポンとする。
その声で僕は安心した。
「はい、失礼します」と栞織先輩と少し間隔を開けて椅子に座る。
僕はBOXリュックの中からブックカバーをしたラノベを取り出して、読み始める。
ぱぺらりぺらりとお互い、文庫本のページをめくる音だけが静かにする 。
「少し、自己紹介をしましょうか」最初に沈黙を破ったのは栞織先輩だった。
「そ、そうですね。いいですよ」
素性も知れない男が同じ部屋に居たら気持ち悪いよな。多分、栞織先輩はそう言いたかったのだろう。
「雨宮くんですよね?趣味とかありますか?」 探り探り尋ねる彼女。
「そうですね、家ではWEB小説やマンガを読んだりゲームをすることですね」
こんな応えで良かったのだろうか?中学生の回答のようだった。恥ずかしい!
「そうなのですか、どんなジャンルのWEB小説が好きなのですか?」
栞織先輩は上手に拾ってくれて投げ返してくる。これがプロのコミュニケーションか。
なんだ?このやり取りは。まるでお見合いみたいだ。でもなんだか楽しいぞ!
「そうですね、ハイファンタジーやローファンタジーなどが好きですね」
「異世界ファンタジーと現代ファンタジーが好きなのですね。分かりました。私もWEBでも読みますよ」
わざわざ、言い換えてくれてありがとう!その通りです。
「栞織先輩はどんなWEB小説が好きなんですか?」
女の子はどんな作品を読むのか気になった。やっぱり、少女小説とかかな?
「私はですね、異世界恋愛モノですね。分かりますか?婚約破棄とか好きなんですよあと異世界ラブコメも」
だいたい当たっていたかな?近すぎず遠からずといったところか。
「分かります。俺も追放系好きですから?」
「追放系?」栞織先輩の顔に?『なんですかそれは?』と頭にマークを浮かべたような顔で言う。
「ああ、追放系というのは、『婚約破棄モノ』の派生作品で、主人公が、勇者パーティーから理不尽に追放されて、どん底から成りあがり、勇者に復讐を果たす、『成り上り』と『復讐』の複合の最強ジャンルなんですよ!」
「そうなんですか。そんなに熱く語るなんて相当好きなんですね」 栞織先輩は優しく肯定してくれる。
「まあ、読むだけならですけど......」 僕は言い淀む。
そう、読むだけならばだ。
「そんなに好きなら自分でも書いてみたらどうですか?」
突然の提案に僕は困惑してしまう。
「自分で書くなんて、俺にそんな文才はないですから......」
自分で小説を書くなんて考えたこともなかった。小説はずっと読むものだと思っていたのだから。
「でも小説読むのが好きな人は自分でも書いてみたいと言いますしどうですか?」 栞織先輩は応えを促してくる。
「でも、俺なんか......」 自信が無さすぎで出た言葉だった。
「雨宮くん、小説家は誰しも最初は素人ですよ。初めから上手く書ける人はいませんよ」
「あと、そんな自分を卑下することはありませんよ」と優しく慰めてくる。
「そう、ですかね?WEB小説を読んでると始めから小説がバズってる人をよく見かけるのでやっぱり文才のある人しか成功しないのでは?」
僕は常に読書して感じていたことを口にする。
所詮、凡人の僕たちには無理な芸当なのだということだ。
「だとしたら、その始めから成功を納めた人は、以前から実績を積み上げ努力を重ねてきた人なのだと思いますよ」 栞織先輩は文庫本を積み上げながら言う。
「最初は低く近くしか見ることができなくても、努力を積み重ねれば遠くを見渡すことができるのです」
「そうですかね?成功する人は、最初から才能持っていたのではないのですか?!」
神は人に平等に才を分け与えてくれないのだ。初期のパラメータが高い人しか高見には届かないように。
「違いますよ。努力もしないで初めから成功する人などこの業界にもいないのですから」
「あと、才能というのは持って生まれるものではなく、後天的に伸ばして備わるものだと私は考えています」
「才能は後から伸ばすもの、ですか」
「そうですよ。有名なメジャーリーガーだって、いきなりスゴイ選手になったのではありません。子供の頃から地道な努力を積み重ねてきてその結果、大成を成し遂げた努力家なのだと思いますよ」
僕にも分かりやすい例えだった。だとすると成功を納めた人も始めはみんな凡人ということになる。
「今から努力したら、僕にもできますか?」
そんな話を聞いてしまったら期待してしまうよな。
「まだ、わたし達は高校生ですよ充分可能性はありますよ。やるなら早いに越したことはないので早速、今日から始めてみては?今の時代、スマホ一台あればWEB小説は書けてしまいますし」
その応えで一筋の光が見えてきた。僕は手を伸ばす。
分かりました。僕、やってみます!」
彼女と話てみて分かったことがある。
WEB小説の話で意気投合できる趣味の合うじょせいで僕にはない感性の持ち主でその言葉に憧れた。
でも、敬語は崩さず会話をすることから『まだあなたとは友達じゃありません』という意志表示なのか ?
それともそういう性分なのか。まだ、見えない壁があるような気がした。
僕は少しずつ彼女の壁を崩していきたいと思った。
美波との関係もあるし、この二つの関係は二股してるわけではないが、『幼馴染』と『先輩』
彼女たちのことをどちらも大事にしていこう。そう心に誓ったのだった。
栞織先輩に異変が起こったのは夏休みが終わり、二学期に突入し、少し経った九月の下旬頃のことだった。
この頃から、栞織先輩は学校を少しずつ休むようになり、そして最後には学校に全く来なくなった。
***
ある日の放課後生活指導の五十嵐先生に呼び出され、『不登校の生徒、本乃栞織の様子を見てきて欲しい』と頼まれた。 僕も心配だったし、二つ返事でOKした。
先生から教えて貰った栞織先輩宅に訪れた。
「一年の雨宮ですが」と軽く自己紹介しお母さんは事情を話すとすんなり家に上げてくれた。
まず、リビングに通されて、紅茶を上機嫌で出してくるお母さんとティータイムを楽しみながらお母さんから栞織先輩が不登校になってしまった事情を尋ねると 少し顔を曇らせるも話てくれた。
「あの子、夏休み中、ずっと家に引きこもって小説を書いていたのよ」 心配したような呆れも滲ませて言う。
「そうだったのですか」
小説のコンテストが頭に浮かんだ。多分そういうことだろう。
「それであの子夏休み期間で書き上げた小説を出版社の新人賞に応募したんだけど、不登校になる数日前に結果発表があって、落選しちゃったのよー。」
「そう、だったんですか」その後に続く言葉が見つからなかった。
「酷く落ち込んでね、最初は学校にも行っていたけど、ある日を堺に『学校には行かない』って言って、部屋に引きこもって小説ばかり書いてるのよー。私がなにを言っても聞かなくてね...... 」
「それって、いわゆる引きこもりというやつですよね?」
「そうなのよー!まさかうちの子がねー。雨宮くんだっけ?君からも学校に行くように言って欲しいの!」
「あと私のことは
真未さんは僕の手を握り懇願してくる。あっ、柔らかい......じゃ、なかった!
「分かりました。僕にできることがあるならやってみます」 真未さんの手を握り返す。
僕は彼女の柔らかいお手を離すのに名残惜しさを感じるも、まずするべきことがあった。
お母さんを名前呼びする、それより僕は栞織先輩が心配になった。
夏休み中、友達との遊びの誘いを返上してその時間を小説に費やしたのだろう。
先輩のことだストイックに自分を追い込んで書き続けたのだと思う。
でも、その努力は報われなかったんだ。
僕は、小説を必死で書いたことはないが、努力を重ねてきて、その結果が実らなかったことがどんな気持ちかくらいは分かる。今、彼女に寄り添って悲しみを分かち合う存在が必要だと思った。
「私にはその気持ちは痛い程分かるのよ。私も学生の頃にWEB小説を書いていたからね。余程悔しかったのねー」
「因みにしーちゃんに小説の書き方を教えたのは私なのよー」と真未さんは在りし日を思い出して、追憶にふける。
「ところで雨宮くんだっけ?しーちゃんとは付き合ってるの?」
「ブフーッ」僕は盛大に紅茶を吹き出してしまった。
「ゲホッゲホ。ち、違いますからね!」 慌てふためき、口の周りがべちょべちょになりながら否定する。
「あらあら、大丈夫?」
「でも、そうならあの子にも春が来たかと思ったんだけどー。学年も違うのにわざわざ来てくれるから私はてっきり......」 残念がる真未さん。
てっきりなんだろう?変な期待はしないで欲しい。
「変なこと言わないでください!」 心臓が跳ね、鼓動がうるさい。まったく心臓に悪い。
「ごめんねー。雨宮くん、あの子のことをお願いできないかしら?」
「分かりました。任せてください!栞織先輩を学校に行くように説得してみます」
「やだー、心強いわぁー」とお母さんは年甲斐もなく歓喜の声を上げる。可愛いな。
学校へ行かすお願いだよな他意はないよな?!
栞織先輩の私室の前で扉をを三回ノックする。
「栞織先輩、雨宮です。様子を見にきました。入ってもいいですか?」 と尋ねる。
「み、実影くん!?ちょっと待ってて!!」と慌てた声が聞こえたかと思えば部屋の中から
ドサドサ!ガサガサガサ!とスゴイ物音がしたと思うと鳴り止む。
「い、いいよー。入ってー!」 と栞織先輩の了解をもらうと、僕はドアノブに手を掛けた。
「は、入りますよー」
部屋の中に入るとシャボンのいいい匂いが鼻腔をくすぐる女の子の部屋だ。
壁に立て掛けられた本棚にはラノベがずらりと陳列していて床に丸い水色のカーペット上にの白いローテーブルが置かれ、その上にはノートパソコンが
改めて見回すと、女の子の部屋というか文学オタクの部屋だった。
「栞先輩、小説のことお義母さんから聞きました。残念でしたね......」
「公募に落ちたことはもういいの。私の力不足が原因ですし、今の実力が知れただけでも良かったです」 先輩は気を墜として言う。その表情はまるで_
「先輩、そんなこと思ってませんよね。悔しそうな顔をしていますよ」
彼女の瞳は悔しさを滲ませ苦虫をかみ潰した顔をしていた。
「そ、そんなことないですよ。でもね、実影くん。今回はダメだったけど書くことは辞めないよ」
「それが聞けて安心しました。次は結果が残せるといいですね」
「実影くん、夢は呪縛なんですよ。夢を叶えるまで月に手を伸ばしてしまうのです」 栞織先輩は健気にも負けても俯かない姿勢で言う。
「はい、そうですよね」 その言葉が聞けて安心した。
それじゃあ、あとはとるべき行動は一つだ。
「でも、その為には学校へ言っている時間が惜しいのです。もっと小説を書かないといけないのです」 栞織先輩は強い意志で言い切った。
え?!思っていた応えはそれじゃない。その答えは悪手だ。
栞織先輩は焦っているように見えた。そのせいで大事なことに気付いていない。
僕が教えてあげなければ!
「お言葉を返すようですが、栞先輩は分かってないです。高校生活は人生で一度切りの大切な時間なんですよ。高校で過ごした日々は、きっと大人になってから、かけがえの無い思い出になるはずです!」僕は、ここで一度、言葉を切り、彼女の顔を見る。
「それで?思い出が私になにをくれるの?続けて、実影くん」 栞織先輩は先の言葉を促す。
「将来、大人になってから、あの頃を振り返って宝物に思える日がくるはずですから。だから!」
自分が思っていたより大きな声が出てしまった。先輩は少し、萎縮してしまっている。
「なにが言いたいの実影くん。私に必要なものは、ベタな青春じゃないよ。確固たる文才だよ」
「栞織先輩が書いてるのはライトノベルですよね?それなら今は高校生活を、青春を謳歌して小説の糧にしてやればいいじゃないですか!?」
高校で経験した酸いも甘い眩しくも輝かしい青春はラノベを書く上でこれ以上の体験はないと思う。
「こんなに熱く、心を燃やした夏はなかったよ。あんなに頑張ったのになー」
栞織先輩は顔を上げて細々とした声を漏らす。
きっと、涙が落ちてこないように堪えているのだろう。
「先輩、悔しいですよね......また次がありますよ」
僕は無責任にもこの言葉しか言えなかった。
「わかってたよ。頑張ったから報われるものじゃないってことくらい。それがラノベ業界だからね」
栞織先輩は覇気の
「実影くん、さっき言ったことは本当?これからの高校生活、わたしと一緒に青春を謳歌してくれますか?自分で言った責任はとってもらうよ」 そうヒマワリのような元気いっぱいな笑顔で言う。
「いいんですか?僕とで」 僕は困惑して言う。
『しーちゃんと付き合ってるの?』真未さんの言葉が蘇る。
そんな僕に、そんな未来が訪れるというのか!?
「ううん、君だからいいんだよ。よろしくね、実影くん」 栞織先輩は手を差し出す。
「こちらこそ、至らない僕ですけどよろしくお願いします」 僕も彼女の手を優しく握る。
僕たちは挫折しながらもまた立ち上がり、青い春の中を駆け抜けていく。
彼女とならどこまでも走っていけそうだ。あの地平線にだって手が届きそうだ。
完
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【短編】幼馴染が勝つラブコメ~想いおもわれ恋焦がれ~ 高月夢叶 @takatuki
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