第2話
その日の夜十一時に、
学園長室へは、蓮宮と石田そして、蓮宮に呼び出された鬼岩寺の住職が顔を揃えた。
月島ひかりの両親はこの場に立ち会いたいと申し出たが、大人数では住職も守り切れないと断られた。石田の両親はというと、月島ひかりを幼い頃から知っていて、石田の幼馴染という事もあり、石田にはひかりちゃんを必ず連れ帰って来いと、強く命じて送り出したのだった。
「住職、来て下さって助かったわ。電話でも少しお話しましたが、今回はとても危険な案件よ。出来なければ引き受けないでちょうだい」
と蓮宮が言うと、
「霊界へ生者が引き込まれたんだよね? まあ、よくある事だけれど、無事に連れて来られる保証はないよ」
と住職が言う。すると蓮宮は、
「出来るという事でいいわね? それじゃあ、先ずは紹介します」
と前置きして、
「こちら、鬼岩寺の住職で……」
そこまで言って、蓮宮はこの住職の名を知らない事に気が付いた。
「え~っと、蓮宮さんからご紹介頂きました、鬼岩寺の住職、光念と申します」
と言って、住職は学園長に名刺を差し出した。
「これは、ご丁寧に」
と学園長は恭しく名刺を受け取ると、自分の名刺を住職へ差し出して、
「わたくしは当学園の学園長を務めております、松坂雪乃と申します」
と自己紹介をした。
蓮宮と石田は、ただ黙って、大人の儀礼的な挨拶が終わるのを待っていた。
「挨拶は済んだようね? それじゃあ、早速準備をお願いします。十二時まであと一時間しかないわよ」
と蓮宮が住職を急かした。
「はい、はい。それじゃあ、例の場所へ案内してもらえますか?」
住職が場違いなほどの笑顔で言う。
蓮宮とこの住職は、先日の学園怪異ミステリー「廃校舎の呪い」で、除霊をしてもらった事をきっかけに知り合ったのだが、まだ二十代と若く、この軽薄なノリで頼り無さそうに見えて、相当な術者だった。
「どうぞ、こちらです」
学園長を先頭に、蓮宮、石田、そして、住職の四人が現場へ向かう。
その場所は、この学校にある校舎の内、北側にある北校舎の中の東側の階段にある。その階段を四人で登り、二階と三階の間の踊り場まで行くと、
「ここです」
と学園長が踊り場の壁にある鏡を指差した。
「ほう~。なるほどね」
と住職は言って、ニヤリと笑みを浮かべた。
「さあ、始めましょう」
蓮宮が言うと、
「まあ、まあ。そう、慌てずに。まずは、学園長と少年の安全地帯を作ります。向こうへ行くのは霊力の強い僕と蓮宮さんだけ。あなた方は、安全な所から見ていてくださいね」
住職はそう言って、踊り場の隅の方に結界を作った。
「これでよし、お二人はこの中に居て下さいね。何があっても、決してここから出ないで下さい。死んじゃいますよ」
と最後に怖い一言を言った。
「それから、霊界への門を開く前に、こちらからも門を一つ作ります。これは、もしもの事があった場合に僕が閉じます」
住職はそう言ってから、蓮宮へ顔を向けて、
「出来る限り、あなただけは助けてあげますから、安心してください」
と笑顔で言った。
「ええ、そうして頂けると助かるわ。私も死にたくはないですからね」
蓮宮が言うと、
「あ、そうそう。あなたにはこれを渡しておきますね。三枚の御札です。霊界の亡者に襲われたら、これを亡者に投げて下さいね」
と住職は言って、
「まるで、昔話みたいですね」
と付け加えると、またニヤリと笑った。しかし、蓮宮はこの住職の実力を知っている為、この軽薄に見える態度も許容していた。
「御札、ありがとうございます。住職、十二時まであと三十分です」
と蓮宮は落ち着いた口調で住職を急かす。
「はい、はい。分かっていますよ」
住職はそう言って、門という物を作っていった。
門と言っても、木や鉄などの頑丈な門ではなく、頼り無い細竹と麻紐、そこに紙垂が下がっている。彼は寺の住職でありながら、修験道の術を身に着けているという、特殊な人物だった。
「はい、準備出来ましたよ。十二時まであと十分ですね」
と住職は言って、
「少年、君たちがやった門を開く儀式をもう一度確認するよ」
と石田に言って、
「あ、言葉に出しちゃ駄目だよ。貰ったメモを確認するね。順番とか言葉の一言一句の違いも許されないからね。門を開く方法は幾つもあるけど、君たちが開いた門を開けるには同じ方法しかないんだよ」
と付け加えて、住職はメモの内容を事細かく確認した。そして、十二時まで残り五分。
「よし、それじゃあ、蓮宮さん準備して。僕と並んで、僕の左手と君の右手を繋ぐ。僕の手の方が鏡に向くようにね」
住職はそう言ってから、一度振り返り、
「お二人は決してそこから出ないで下さいね。声を出すのも禁止です。絶対に守って下さいね」
と学園長と石田に向かって言った。
「蓮宮さん、十二時になりました。一緒にこの言葉を言いましょう」
そして、二人は鏡に向かって、声を揃えて門を開く言葉を言った。すると、石田が言った通り、黒い霧のような細い手が幾つも出て来て、蓮宮の身体を掴んだ。そして、鏡の中へと引き込んでいく。その時、住職は蓮宮の身体を片腕で抱いて、そのまま鏡の中へと飛び込んでいった。
それを見た石田は、思わず声を上げそうになったが、住職に声を出してはいけないと言われた事を思い出し、両手で口を覆って耐えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます